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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第九章:雪山の恐怖編
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第二百五十三話:奇妙な状態

 雪が積もっているというのもあるが、建物の扉は悉く凍り付いていて、中に入ることはできなかった。

 一応、火魔法で溶かしたりして見たけど、めちゃくちゃ溶けにくい。

 これ、この町の名産だって言う、アイスクリスタルなんじゃないだろうか?

 どういう風に作られているのかは知らないけど、これだけ溶けにくいってことは、そういうことな気がする。

 頑張って溶かしきろうとして見たけど、どう考えても日が暮れてしまいそうなので、途中で断念。

 まあ、雪を溶かして道を作るってことができることがわかったので、その点では意味はあったのかな。


「わかったことは、凍ってる人も、生きてるってことかな」


 道端にいる凍った人々だけど、探知魔法で見る限りは、反応はなかった。

 探知魔法は、その人物の魔力を見て判断しているから、生きているなら反応するはずなんだけど、なぜか反応していない。

 生きてるとわかったのは、耳を近づけてみると、かすかに心臓の音が聞こえたからだ。

 意識があるかはわからないけど、多分、ちゃんと解凍すれば生きてるんじゃないかなと思う。

 問題は、この氷が相当溶けにくいってことだけど。

 建物ならまだしも、下手に人に火魔法なんて使ったら、消滅させてしまうかもしれないし、迂闊に溶かすこともできない。

 まあ、死んでいるよりはましなんだけど、どうしようもないよねこれ。


「あと手掛かりになるとするなら、やっぱり例の氷竜かな」


 シンシアさんの話だと、この町を探索してしばらくしたら、竜がやってきたのだという。

 同じ条件で来るなら、そろそろ来てもおかしくはないだろう。

 竜が、きちんと話をできる状態であるなら、事情を聞くことができるかもしれないし、今はそれが最後の頼みかな。


「シンシアさん、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫なのです。ちょっと、寒いだけなのです」


 離れるのは危険ということで、ずっと一緒にいたんだけど、さっきからずっと震えている。

 獣人だから、寒さにはある程度強いはずだけど、この場所はそれだけでは対処しきれないってことなんだろう。

 流石に可哀そうなので、結界でシンシアさんの体を覆っておく。

 冷気だけをシャットアウトすれば、割と快適なはずだ。


「あれ、急に寒さがなくなったのです」


「結界を張りました。これで少しは楽になったと思うのですが」


「だいぶ楽になったのです。ありがとうなのです、ハクちゃん!」


「どういたしまして」


 さて、そろそろ日没も近づいてきた。

 竜が来るにしろ来ないにしろ、どこかで野宿する準備をしないといけないんだけど、町の外の方がいいだろうか?

 町の中にいると捕捉されるなら、離れた方がいいとは思うけど。


「どうやら来たようですよ」


 どうしたものかと悩んでいると、エルがそんなことを言う。

 空を見上げてみると、雪山の方から、何かが飛んできているのが見えた、

 それは、まぎれもなく竜だ。

 鈍色の体に、ところどころ白が混ざったような独特の鱗に覆われ、巨大な翼をはためかせて空を舞っている。

 竜の接近に伴って、辺りもいつの間にか吹雪いてきており、確かにこの竜が原因で吹雪になっていると感じられた。


「おっとと……」


 ぼーっとその姿を眺めていると、いきなりブレスを放ってきた。

 私はとっさに、シンシアさんを抱き上げ、その場から飛びのく。

 ブレスが通った場所は、悉く凍り付いており、あれに当たったら、この町の人々と同じ末路を辿るということがわかった。


〈ぐ、ぐ……〉


「そうはさせませんよ」


 回避したのを見て、再びブレスを放とうとする竜。しかし、それを見逃すほど甘くはなく、エルは高く跳躍すると、竜の口を封じた。

 氷竜に対して、氷で口を閉じさせるなど、普通はできないが、エルは竜の中でも最高峰のエンシェントドラゴンである。

 この竜も、確かに強いんだろうが、流石にエルには及ばないようだった。


「いきなり攻撃とはいい御身分ですね。ここにいるのが誰なのか、わかっているのですか?」


〈ぐ、ぐぅ……〉


「この程度の拘束も解けないんですか。エルダードラゴンも落ちたものですね」


 竜は必死に口の氷を取ろうとしているようだが、かなり強力に張り付いているのか、取れる様子はない。

 エルは、竜の口の上に乗りながら、訝しげな眼で竜を見つめていた。


「ハクお嬢様、【鑑定】をお願いできますか? 何か様子がおかしいです」


「あ、うん、わかった」


 エルに請われ、私は竜に対して【鑑定】を試みる。

 すると、なにやら妙な状態がついていることがわかった。


「眷属化に、服従状態?」


 眷属化に関しては、一応見たことがある。

 以前、悪魔であるニグさんが配っていた黒き聖水。あれを飲んだ者は、眷属化するという説明があった。

 眷属化というのは、簡単に言えば、その人物を崇拝してしまうということだと考えている。もしかしたら、その忠誠心から、その人物の言うことを聞いてしまうということもあるかもしれない。

 実際、ニグさんはそうやって組織を大きくしていったようだし、大きく間違ってはいないだろう。

 しかし、それに加えて、服従状態というのが気になる。

 簡単に考えれば、何者かに服従している状態と考えられるけど、その眷属化させた相手に対してってことだろうか。

 いずれにしても、この行動は竜の意思であるという可能性は低くなった。

 となると、どうにかして止めてあげないといけない。


「どうやら何者かに眷属化させられてるみたい。それで攻撃してきてるんだと思う」


「眷属化ですか。精神汚染みたいなものですかね?」


 似たようなもので言うなら、洗脳もそんな感じかもしれないね。

 だとするなら、浄化魔法で解けたりするだろうか。あれは洗脳を解除する魔法だから、類似の効果なら効き目があるかもしれない。

 私はとっさに、浄化魔法を試みてみる。

 これで、治ってくれたらいいんだけど……。


「一応、効いてるっぽい……?」


 再び【鑑定】で確認してみたが、眷属化に、弱体化中という説明が追加されていた。

 確実に効くというわけではないけど、一応効果はあるようである。

 これなら、何度かかければ、眷属化の方は何とかなるかもしれない。


「問題は服従状態だけど……」


 これも洗脳と似たようなものかと思ったんだけど、そういうことではないらしい。

 効果もよくわからないし、これを解除するには、服従状態についてもうちょっと深く知る必要がありそうだ。

 イメージだけでいいなら、なんとなくわからなくもないけど、曖昧なイメージだと魔法の効果も弱まるからね。

 とりあえず、眷属化を消して、どうなるかを確認した方がいいかもしれない。


「エル、そのまま押さえておいてくれる?」


「了解です」


 必死に暴れている竜に対し、エルがさらに氷で拘束をかける。

 ここまで差があれば、負けることはなさそうだけど、問題はそこじゃない。

 竜に対して、服従状態なんてものを強制できる存在がいるって言うのは、かなり危険なことだ。

 なにせ、竜は神様がいないこの地上においては、頂点にも等しい存在である。それなのに、何者かに服従させられるなど、神様に対する反逆と言ってもいい。

 なんとしてでも、これをやった犯人を見つけ出し、反省させなければならない。

 そう考えながら、浄化魔法を繰り返すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何が原因かねぇ
[一言] 黒い聖水飲まされたのかな?
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