第二百五十一話:氷竜の存在
「それで、何か情報はあるんですか?」
「あるにはあるのです。ただ、ちょっと不可解な感じで……」
シンシアさんは、少し困ったような顔をしながら、話しだした。
シンシアさん達は、調査隊として、その雪原地帯の町へと向かったらしい。
雪原地帯というだけあって、この季節でもそのほとんどは雪に覆われており、進むだけでも大変だったそうなのだけど、何よりも異常だったのは、町の状況だったという。
というのも、町全体が凍っていたのだ。
家も、道も、人ですら、すべてが凍っていて、とてもじゃないけど生活できるような空間ではなかったらしい。
寒さも異常で、きちんと防寒着を着ていても、それを貫通するように凍えるような寒さだったらしく、これはただ事ではないとすぐにわかったようだ。
ひとまず、原因を究明しなければと町を回ってみたが、特にそれらしい情報は見つけられず、困っていたところ、とある人物が現れた。
人物と言っても、人ではなく、竜だったらしい。
聖教勇者連盟と竜は、協力関係にある。と言っても、すべての竜が聖教勇者連盟に協力しているわけではないが、お互いに顔見知りと言っても差し支えないだろう。
だから、竜に対して、自分達は聖教勇者連盟の者だと伝えたらしいのだが、あろうことか、竜は問答無用で攻撃してきたのだという。
何が何だかわからなかったが、このままではやられると思い、応戦。しかし、竜の力はかなり強く、また、周囲にはいつのまにか吹雪が吹き始め、視界の確保もままならない状況に。
最後に、竜が咆哮したと思うと、シンシアさんは何かに吹き飛ばされ、町の外まで戻されてしまったのだという。
気が付けば、他の三人の姿は見当たらず、探しに行こうにも、吹雪が強すぎて捜索できる状況ではなかった。
今までの、調査隊の行方不明の話も聞いていたので、ここは一度情報を持ち帰るべきだと判断し、こうして戻ってきたというわけだった。
「竜が、攻撃してきた?」
「はいなのです。でも、激昂して理性的でなかった、というわけでもなかったのです」
「どういうこと……?」
聖教勇者連盟のことは、竜の中で周知されているはずである。
確かに、聖教勇者連盟に関わっている竜は少数ではあるが、だからと言って、全く知らない竜はいないだろう。
一応、以前の聖教勇者連盟の評価は最悪だったから、その時の評価を引きずって、敵対的になっていた、という可能性はなくはないけど、戦う意思はないって伝えているのに、それでも攻撃してくるのは流石におかしい。
基本的に、竜は人族に攻撃したりしない。結果的にそうなってしまう時はあるが、ほとんどは攻撃の意志はないはずだ。
若い竜なら、ワンチャンあるかもしれないけど、そんな竜なら、セシルさん達なら倒せてもおかしくない。
いくら吹雪で視界が悪かったとは言っても、後れを取るだろうか?
「その竜の特徴とか覚えてないですか?」
「吹雪でほとんど見えなかったですが、恐らく氷竜だと思うのです。吹雪になったのは、あいつの仕業だと思うのです」
「なるほど。氷竜ですか……」
ちらりとエルの方を見る。
氷竜と言われて、真っ先に思いつくのは、エルだ。
もちろん、エルがやったとは思わないけど、同じ氷竜なら、何か知ってないだろうか?
「この大陸の北の雪原地帯は、夏でも雪が降る場所ですから、一部の氷竜は、確かにそこに住み着いている者もいます。竜の谷にもほとんど帰ってこないので、聖教勇者連盟のことを知らなかったのでは?」
「確かに、それはあるかも」
竜に周知はしているつもりだが、それはあくまで竜の谷経由でだ。
そもそも竜の谷に来ず、また他の竜とも交流がないのなら、聖教勇者連盟のことを知らなくても無理はない。
だから、攻撃してきた理由は、その可能性が高いだろう。
ただ、それでも竜が人族を意図的に攻撃してくるとは考えにくい。あちらか攻撃してきたのだとしたら、何かしら理由があるはず。
「何かわかるかい?」
「竜が意図的に攻撃するとは思えないので、何か攻撃しなければならない理由があったんだと思います」
「攻撃しなければならない理由って何よ」
「うーん……何かを守っているとか?」
単純に、雪山という、人が入るには厳しすぎる環境に立ち入らせないために、あえて悪役になっているとかね。
しかし、それだけでは説明がつかないこともある。
例えば、町全体が凍っていたという話。
町があるということは、以前はそこは普通に稼働していたんだろう。それが、いきなり町全体を凍らせるなんて、明らかにおかしな話である。
凍らせたのが竜なのか、別の何かなのかはわからないが、もし仮に、後者なんだとしたら、それから守るために、あえて攻撃した、とも考えられる。
町の依頼も、雪山の方から狂暴な叫び声が聞こえるって話だったしね。
「守っているとして、それなら行方不明になった転生者達はどこに?」
「それがわからないんですよね……」
仮に、何かから守るためだったと言っても、じゃあ行方不明者はどこへ行ったんだという話になる。
あるとしたら、その何かが行方不明にさせている原因かもしれないってところか。
竜が守っていたが、守り切れなかったって可能性もあるかもしれない。
「なんにしても、その雪山には何かがありそうです」
竜が警告するような何かが、雪山にはある。そして、それらが行方不明者を生み出している。
つまり、彼らを助け出すためには、雪山に向かい、その原因を取り除かなければならないということだ。
「相手が竜だというなら、私が交渉して見ましょうか?」
「それはありがたいけど、いいのかい?」
「はい。私も、転生者達がこのまま行方不明のままは嫌ですし」
別に、ここの転生者達にはそこまで思い入れはないが、それでも同郷の仲間である。
それに、竜が関わっているとあっては、放置しておくわけにもいかない。
いったい何があるのかはわからないけど、ここは行くべきだろう。
「ハクちゃん、行くなら私も行くのです。みんなをこのままにしておくわけにはいかないのです」
「シンシアさんが一緒なら心強いですね」
シンシアさんも、転生者の一人である。
拳銃の腕前もそうだけど、材料さえあれば、どんなものでも作り出すことができる能力があるのは相当破格だ。
雪山で何が必要になるかはわからないけど、いれば役に立つことは間違いないだろう。
案内役も必要だろうしね。
「それじゃあ、決まりね。シンシア、それにハクと、エルさんで、この事件を解決してくれる?」
「了解です。任せてください」
「こっちの問題なのに、巻き込んでごめんね?」
「いえ、竜が絡んでいるなら、私の問題でもありますから」
申し訳なさそうな顔をする神代さんに、軽く手を振って返す。
さて、そうと決まれば、準備をしなければならないね。
何が必要なのかを思い浮かべながら、ひとまず場所の詳細を聞くのだった。
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