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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第八章:再びの里帰り編
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幕間:迷惑客

 主人公の兄、ラルドの視点です。

 ハクの故郷は、一言で言うなら、未来都市と言ったところだろう。

 俺は冒険者だし、学園に行っていたわけでもないから詳しくは知らないが、学者連中の中には、数百年後の未来について、考察している者もいるらしい。

 初めて聞いた時は、なんて荒唐無稽な話なんだと思っていたが、こうして実物を目の当たりにすると、あながち予想は間違っていなかったんだなと思う。

 例えば、魔導船という乗り物がある。

 空を飛ぶ船であり、空気で膨らませた布を密閉し、その浮力によって浮き、空を移動する乗り物なんだそうだ。

 簡単に言えば、誰にでも飛行魔法が使えるようになる、くらいの話である。

 飛行魔法は、魔法の中でも上級魔法に位置し、使える人はほとんどいない。飛ぶことだけならできる人も探せばいるだろうが、空を自在に飛び回るなど、おとぎ話に出てくる賢者とかそのくらいのものである。

 それを、人力で実現しようというのだから、頭がおかしいのはよくわかるだろう。

 しかし、ハクの故郷であるこの世界には、すでに魔導船と思しきものが存在しているらしい。

 ひこうせんだとか、ひこうきとか呼ばれているようだが、空を飛び、多くの人を乗せて、移動することができるのだとか。

 初めて聞いた時は、まさかと思ったが、空を見上げてみると、確かにそれらしき影があるのが見て取れる。

 飛ぶと言っても、せいぜい数センチと思っていたら、それよりもはるか上空を飛んでいることに別の意味で驚かされたが、この世界では、そう珍しいことでもないらしい。

 くるまやてれびにも驚かされたが、この世界は本当に凄い場所だ。


《珍しいのはわかりますけど、あんまりきょろきょろしないでくださいね?》


《ああ、悪い。ついな》


 できることなら、ハクに手取り足取り教えてもらいたいって気持ちもあったが、ハクは、この世界において仕事をしているらしい。

 なので、あんまり拘束するわけにもいかず、こうして同じくこの世界に詳しいらしいユーリに、案内を頼んでいるわけだ。

 ユーリ曰く、きょろきょろと視線をさまよわせるのは、田舎から出てきた新参者であり、人によっては、舐められる可能性があるらしい。

 まあ、実際田舎の出身だし、この世界は俺達にとっては未知の世界なのだから、ある程度舐められるのは仕方ないと言えば仕方ないと思うが。

 今乗っている、でんしゃという乗り物も、かなり画期的なものだと思う。

 こんなに大量に人を乗せられて、その上速い。これがあるだけで、いったいどれほどの移動が楽になるだろうか。

 窓の外を見れば、普段では見られないような景色の移り変わり方をしているし、かなり面白い乗り物だと思う。


「ちょっと、困ってるじゃないですか。退いてあげたらどうですか?」


「うるせぇ! なんでお前なんぞに指図されなきゃならんのだ!」


 しばらく、景色を楽しんでいたら、不意に怒号が聞こえてきた。

 今、車内には結構な人がごった返しており、視界は遮られている。ただ、今回はたまたま目の前だったのか、その全容がよく見えた。

 どうやら、座っている中年の男性に、少年が意見している様子である。

 近くには、杖を突いたおばあさんがおり、その様子をおろおろとした様子で見守っている。

 ある程度は状況はわかったが、どうしてこんなことになったんだろうか?


《どうやら、あの子がおじさんに注意したのがきっかけみたいですね》


《あの男は、何か悪いことをしたのか?》


《悪いこと……まあ、そうですね。あのおじさんが座っている席は、優先席と言って、怪我人やお年寄りが優先的に座ることができる席なんです。あのおばあさんが座ろうとしていたみたいですけど、おじさんはそれを無視して退かなかった。だから、あの子が注意したってことですね》


《ふむ、なるほど》


 確かに、仲間が傷ついたりした時に、手を貸すのは当たり前のことだし、それを無視したとあっては悪いことには違いないだろう。

 もちろん、その怪我人が警戒もせずに突っ込んで、挙句怪我をしたというのなら、多少は白い目で見られることもあるかもしれないが、今回の場合は、どちらかというと、病院に運ばれた重病人がベッドを使おうとしたが、ただのかすり傷を負って騒いでいる人がそのベッドを渡さずに困っている、ってところだろうか。

 いまいち、ピンとは来ていないが、周りの様子を見る限り、あの男が悪いことをしているというのは間違いなさそうである。


《こういうことは普通なのか?》


《普通ではないですけど、たまにありますね。電車での移動は、結構長時間になることもありますし、立って待つのはきついと感じる人も多いんです。だから、せっかく座っているのに、わざわざ明け渡したくないって思うんでしょうね》


《そんなに時間がかかるのか? こんなに早いのに》


《基本的には、待っても数分くらいなんですけどね。その数分が、我慢できない人も多いんです》


 つまり、たった数分のために、あんなに激しく怒鳴り散らしているわけか。

 俺の感想としては、そっちの方が疲れないか? ってところ。

 たった数分立っている程度、なんの疲労にもならないだろう。別に、その数分で魔物を倒せだとか、寝床の準備をしろというわけでもないだろうし、何もせずにただ立っているだけの、何が辛いんだろうか。

 あの男は、怒鳴り散らして、なんなら少年に対して殴りかかってもいる。ただ立っているよりもよっぽど労力を割いているし、下手をすれば少年が反撃して戦闘になる可能性もあるだろう。

 わずか数分のために、そこまでのリスクを冒す理由が全くわからない。

 それとも、あの男はどこか怪我をしているんだろうか。それならば、わからないでもないが、見たところ、怪我をしている様子はなさそうである。

 この世界では、それが普通なんだろうか?


《車掌さんも来たけど、収まらないみたいですね》


 やがて、止めに来たこの電車の管理人だが、男はそれに対しても怒号を上げ、暴れ散らしている。

 周りにいる客達も、できる限り離れて様子を窺っているようだ。

 これだけ人がいるのに、誰も手を貸そうとしないのは疑問だが、この世界では、魔物も存在しないし、武器を持つことも違法なようだから、手を出すことができないのかもしれない。


《止めた方がいいだろうか?》


《……うーん、どうでしょう。あんまり目立ちたくないというなら、手を出さない方がいいとは思いますけど》


 ユーリは、苦々しげな表情でそう答える。

 恐らく、ユーリ自身も、助けたい気持ちはあるんだろう。しかし、そんなことをしたら、より注目を浴びることになってしまう。

 先日、ハクと一緒にぼうりんぐというものをやったが、あの時も、勝手がわからず、周りから唖然とした目で見られてしまっていた。

 俺達の容姿は、この世界だとかなり目立ったものになっているようだし、あんまり注目を浴びすぎて、ハクに迷惑がかかるのも困る。

 そう考えると、ここは電車の管理人に任せ、事態が落ち着くのを待った方がいいんだろうが……。


《……いや、やはり止めるべきだな》


 暴れている男を止めようとした少年の顔に、男の肘が当たり、少年は鼻血を出してしまっている。

 あの男がどれほどの悪さをしているかはわからないが、少なくとも、酔ってもないのに暴れ散らすのは、ただの迷惑行為でしかない。

 ここで見逃してしまったら、後味も悪いし、ここは手を出してしまおう。

 そう考えて、俺は男の腕を捻り上げた。

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[一言] あの時の裏話か
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