第二百四十九話:今後の課題
買い物を楽しみ、そろそろ帰らないとまずいということで、アケミさん達と別れて帰ってきた。
アケミさん達は、もっと遊んでいたかったと言っていたけど、以前のように、これが今生の別れとなるかもしれないわけではない。
なんなら、今後は、もっと高頻度で来る可能性もあるわけだし、それを伝えたら、また遊ぼうねと約束を取り付けられてしまった。
まあ、高頻度で来られるとは言っても、結局あちらの世界でもやることがたくさんあるので、最終的にいつもと同じ感じにはなりそうな気がするけどね。
それはともかく、帰った先は、拠点のマンションの方である。
部屋に入ると、お兄ちゃん達はすでに準備を終えていて、いつでも帰れるようになっていた。
《お帰りなさいませ、ハクお嬢様。問題はありませんでしたか?》
《うん、ただいま。特に大きな問題はなかったよ》
強いて言うなら、アパートの転生者達のことを話さなくちゃいけないと思ったけど、それはエルに話してもしょうがない。
帰ったら、一度ヒノモト帝国を訪れるとしよう。
「あーあ、もう時間切れかぁ」
「もう十分楽しんだでしょ?」
「それはそうだけど、やっぱり別れ際は寂しいでしょ?」
見送りのために、一夜も一緒に来ていたが、そんなことを言っていた。
まあ、楽しい時間っていうのは体感早く過ぎてしまうものだし、どれだけ時間を費やしたとしても、別れ際は惜しい気持ちがあるのはわかる。
でも、それを引きずって、湿っぽい別れになるのは嫌なので、私は努めてしかめっ面は出さないようにした。
まあ、私の表情は、元々あんまり読めないと思うけどね。
「またすぐに来るから、安心して」
「うん、待ってる」
一夜との別れを終え、お兄ちゃん達と手を繋ぐ。
後は、私が転移魔法を実行すればいいだけだ。
「それじゃあ、またね」
「またね」
一夜が離れているのを確認してから、転移魔法を発動させる。
一瞬の浮遊感の後、気が付くと、家の庭に立っていた。
「ふぅ、戻ってこれたかな」
「そうみたいだな」
「お疲れ様、ハク」
念のため、みんなの体を確認してみたが、特にこれと言った違和感はない。きちんと五体満足である。
で、それは当然ではあるんだけど、今回はそれよりも確認しておきたいことがある。
私は、お兄ちゃん達を家に残し、一度町の広場へと向かう。
現在時刻は朝のようだ。広場には、多くの人々が行き交っている。
私は、適当な人に話しかけ、今がいつなのかを確認した。
もし、私が使った転移魔法が、本当に距離を消し飛ばせるのなら、転移によるタイムラグはないはずである。
つまり、私達が出発してから、約一週間後になっていれば誤差はないってことだ。
街行く人は、きょとんとしたような表情をしていたけど、きちんと日付を答えてくれた。その結果、大幅なずれはないことが確認された。
「ほんとに、時間を気にしなくてよくなったみたいだね……」
元々、あちらの世界での一日が、こちらの世界での一か月というような、とても大きなタイムラグがあったのに、それを簡単に解決して見せたのは、流石天使と言わざるを得ないだろう。
その気になれば、またすぐにあちらの世界に行って、しばらく滞在して戻ってきても、数日程度の時間で戻ってこれるわけである。
これは画期的だ。転移魔法陣を使わなくなったこともそうだし、本当に便利な魔法を教えてもらえてよかった。
「あ、ヒノモト帝国の方に行ってこないと」
数日とはいえ、不在にしたことを王様に伝えるのもあるが、それよりもまずはローリスさんに転生者達の問題を伝える方が先だろう。
私やローリスさんがいない間に問題が起きたらって考え方もあるし、誰かしら、監督する人も欲しいところだよね。
そういうわけで、私はヒノモト帝国へと転移していった。
「それで、遊びに来てくれたわけね」
「いや、遊びに来たわけじゃないですが」
城に入ると、すぐに応接室へと通された。
相変わらず、ほぼ全裸の変態皇帝だけど、今はそこまで欲求がないのか、襲い掛かってくる様子はない。
応接室に通された時点で、ちょっと警戒していたけど、ひとまずは安心と言ったところだろうか。
まあ、仮に何かあったとしても、エルやアリアが何とかしてくれるだろうけど。
「魔石の問題ね。確かに、それは考えてなかったわ」
「今までに、そう言ったことを要求されたことはなかったんですか?」
「特にないわね。戦闘意欲が高い連中は、勝手に魔物を狩って魔石を得ているかもしれないけど、大人しく定住している人達から、魔石が欲しいなんて言われたことはないわ」
「となると、やっぱりあの世界だからなんですかね」
恐らくだけど、魔力が全くない世界だからこそ、魔力を欲して魔石を要求しているんだろう。
こちらの世界であれば、空気中に魔力が満ちている。だから、強くなりたいとかならともかく、現状維持をする程度だったら、それでもまかなえたんだろう。
簡単に言うなら、あちらの世界は、空気が薄い状態なんだと思う。
生活できないことはないが、ずっとそれを続けていたらいずれ限界が来るって感じなんだろうね。
「魔石の供給くらいはできるけど、流石にそれ前提で移住させるのは無謀かしら?」
「まあ、今後もヒノモト帝国がしっかりとバックアップするっていうなら、それでもかまわないとは思いますけど、できますか?」
「どうかしらね。私が死ぬまでは大丈夫だと思うけど、その後がね」
現状、ヒノモト帝国は、多くの魔物転生者を抱えている。
それができているのは、ローリスさんがまとめ上げているからであり、ローリスさんの統治失くして成り立たない状態だ。
ローリスさんが、跡取りを取っていて、その人に継がせるって言うならまだいけるかもしれないけど、ローリスさんの考えを、100パーセント理解できる人なんていないだろう。
絶対、どこかで破綻する気がする。下手したら、転移する方法すら、失われてしまうかもしれない。
もちろん、そんなのは100年後とかの話だろうけど、考えておかないといずれ苦労するのは目に見えている。
何かしらの対策を考えなければならないだろう。
「まあ、それに関しては、後ほど考えるわ。ここで即決するようなことでもないし」
「そうですね。とりあえずは、現状の対処だけお願いします」
「おっけー。ウィーネ、魔石の用意、よろしくね」
「承知しました」
救いなのは、あちらの世界に移住する転生者達は、神力を覚えるのが前提となっていることだろうか。
神力さえ使えれば、転移魔法陣が潰されない限り、任意のタイミングで戻ってくることができる。
だから、最悪魔石を摂取できなくて暴走したり、死んだりすることはないはずだ。
まあ、発動に必要な神力まで使い果たす可能性もなくはないから、あんまり安心しすぎるのはよくないけどね。
しばらくはこちらの方で魔石を供給して、その後にどうにかあちらの世界で魔石を得る方法を考える。それが今できることだろう。
その後も、転生者達の要望を伝えつつ、こちらの世界に戻ってきたことを確認するのだった。
感想ありがとうございます。
今回で、第二部第八章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第九章に続きます。




