第二百四十四話:警察署からの救出
今回の、花火作戦は割とうまく行ったらしい。
警察署からは、続々と人が出てきて、空に咲く花火に目を奪われていたり、ねずみ花火をどうにか鎮火しようと躍起になっていたり、エルの竜姿を見てパニックを起こしていたり、概ね予想通りの反応だった。
これで全員をつり出せたかはわからないけど、少なくとも、これによって、お兄ちゃん達の相手をしている暇はなくなったはずだ。
「この距離にいて気づかれないって、凄いですね」
「隠密魔法ですからね。すぐに気づかれたら困ります」
今は、朝倉さんも一緒に隠密魔法で隠れている。
すぐ近くを警察官が通っても全く気づかれないので、朝倉さんも楽しそうだった。
その気になれば、この騒ぎに乗じてお兄ちゃん達を救出もできそうだけど、今回狙っているのは、あくまでパスポートの提示である。
むしろ、ここで逃げなかった方が、誠実さをアピールできていいかもしれない。
元々、悪いことはしてないけども。
「それより、パスポートはどれくらいでできるんですか?」
「すでに作製に入ってますよ。まあ、後一時間もあればできると思います」
「案外早いんですね?」
「色々な伝手がありますから」
普通はパスポートを偽造できるような伝手なんてないと思うが……まあ、それは考えないでおこう。
その後も、定期的に花火を打ち上げつつ、様子を見る。
爆発と見まがうような花火、地上を支配するねずみ花火、いずれも容易に撤去できるものではなく、近隣住人から何とかしてくれと言われても、何もできない警察は、かなり困り果てている様子だった。
しばらくして、朝倉さんから用意ができたと連絡があったと聞かされたので、花火は終了。空も、元の状態に戻しておいた。
唐突にやってきて、唐突に去っていく。なんか、魔女っぽいことしてたかもしれないね。
「身元の保証人は、親父にしてあります。まあ、すぐに通るでしょう」
「だといいんですけどね」
お兄ちゃん達の引き取りに関しては、私が行くことにした。
私と言っても、【擬人化】で大人モードになった状態でね。
流石に、子供が来たら相手も困ってしまうだろうし、この状況では大人の方が都合がいい。
問題は、素直に引き渡してくれるかどうか。
いくら身分がしっかりしたと言っても、疑った状態だとなかなか手放してくれない可能性もなくはないしね。
「私は親父に報告しなければなので、ご一緒はできません。どうか、ご武運を」
「ありがとうございます。行ってきますね」
出来立てと思われる偽造パスポートを受け取り、警察署へ出向く。
警察署内だけど、かなりバタバタしている様子だった。
先程の花火騒ぎのせいで、近隣住人から多くの問い合わせが来ているらしい。
まあ、あれだけ派手にやったのだから、来ない方がおかしいけどね。
中には、エルの竜姿を見たって人もいるみたいだし、なかなか仕事が手に付かないって人もいる。
こんな状態のところに行くのは気が引けるけど、こんな状態でもなければまともに取り合ってくれないかもしれないし、そこらへんは仕方ないね。
「すいません、こちらでユーリを預かっていると聞いたのですが」
「ユーリさん、ですか? もしかして外国人の?」
「はい、そうです。パスポートを持たせていなくて、揉めているというので、引き取りに来ました」
そう言って、お兄ちゃん達のパスポートを見せる。
パスポートに関してだけど、一応、某国から来た、という風に偽装させてもらった。
よっぽど詳しく調べ上げれば、その国にこんな人物はいないって気づくだろうけど、流石にそこまで詳しくは調べないと思う。
平時ならわからないけど、この状態なら、余計な仕事はしたくないだろうしね。
案の定、さらっと確認されただけで、すぐに開放されることになった。
元々、悪いことをして捕まったわけではなく、善行をして捕まっただけだからね。パスポートを持っていないという不信感はあれど、警察も本気で捕まえようとは思っていなかったんだろう。
《ふぅ、助かった、ありがとな、ハク》
《何言ってるのかはわからなかったけど、やばいのはわかったわ》
《ほんとに、気を付けてよね? この国の警察は優秀なんだから》
警察署を出て、みんなに注意する。
まあ、今回はお兄ちゃんが悪いわけではないと思うけど、いざという時は、困っている人を見捨てる覚悟もいるかもしれない。
……いや、お兄ちゃんならそれで守られる安全より、相手を助けることを選ぶか。
私でもそうする可能性の方が高いし、人のことは言えないかもしれない。
《それにしても、大丈夫なのか? 派手に魔法使ってたみたいだが》
《ああ、うん、大丈夫なようにしたから》
私が何やらやっていたのは、お兄ちゃん達も気づいていたらしい。
待合室のような場所に待たされていたらしいのだけど、署内の人達が慌ただしく走り回っているのを見て、確信した様子だった。
《何かあったら助けるけど、注意は怠らないように》
《気を付けるよ》
そうして、私達は無事に拠点まで帰ってくることができた。
試しにテレビをつけてみたが、特にさっきのことについてニュースにはなっていないらしい。
まあ、流石に範囲が限定的だったからね。テレビのカメラが入る余地はなかったんだろう。
ただ、SNSを覗いてみると、それなりの数の投稿があり、真昼間なのに夜になり、変な音の花火大会が開催された、って感じに騒がれていた。
動画付きのもあり、それにはきっちり花火の様子が映っている。
今の時代、スマホがあれば簡単に動画が取れるから、こういうことする人もいるよね。
まあ、こればっかりは仕方ない。最悪、これをテレビに取り上げられたとしても、犯人に繋がる証拠など何もないからね。
あったとしても、魔法でやりました、なんて言っても信じられるわけがない。私をいたずらの犯人として立証することは不可能だ。
「朝倉さんと正則さんには、お礼を言っておかないとね」
今回、急だったこともあって、報酬のこととかを全く話さずに事を進めてしまった。
まあ、それでも対応してくれたってことは、お礼なんていらないと思っているか、それとも先行投資だと思ってくれているのかもしれないけど、あんまりそれに頼りすぎて借りを作りすぎると、後でとんでもないしっぺ返しを食らいそうな気がする。
返せる時に返しておいた方が、後々気にすることが減って精神的にもいい。
しかし、偽造パスポートの対価って、なんだろうか。
普通に考えて、そんなものを作り出すのは難しいし、きっと特別な技術が使われている。
そう考えると、対価としては結構大きなものになる?
お金でいいんだったら、宝石とかならいくらでも出せるけど、それで納得してくれるだろうか。
あるいは、異世界特有のアイテムでも渡せばいい?
とにかく、そのあたりを相談しないといけない。
今日はできれば配信したいなとか思ってたけど、これは無理そうだな。
あ、一夜も迎えに行かないと。実家に置いてきてしまったし。
色々やることがあるなと思いつつ、まずは正則さんに連絡するのだった。
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