第二百三十九話:試行錯誤を繰り返し
その後も、何度も何度もルートを変更し、ようやくどうにか一日で回収できるルートを見つけた。
慣れない計算式まで持ち出し、頭を熱くさせながら考えただけあって、割と綺麗にはまったんじゃないかと思う。
まあ、その分要求される操作精度はとんでもないことになってしまったが。
(コメント)
・おめでとう
・このルート凄いな、普通に世界でも通用しそう
・いや、これできるのハクちゃんくらいじゃね?
・運搬の際の匹数調整が神過ぎる
・少しでもぐだったら間に合わないって言うね
・ほんとにお疲れ様だわ
コメントにもかなり助けられた。
どうやら、リスナーさんの中には、実際にこのゲームのRTAをやっている人も数多く存在するらしい。
中には、このルートならこれくらいの時間がかかると、実際にやって検証してくれた人もいるくらいで、かなり参考になった。
私だけでは、ここまでのルートは考えられなかっただろう。これもみんな、リスナーさんのおかげだ。
「みんな、協力してくれてありがとう。なんとか6日クリア行けそうだよ」
今回突破したのは5日目。最後の6日目は、ラスボスとの対決になるわけだけど、RTAでは、一番簡単な場所とまで言われている。
なにせ、相手をするのはラスボスだけだからね。そこに辿り着くまでの道を作るのが大変ではあるけど、ここまで最低日数で潜り抜けてこられるのなら、そこまで難しいわけではない。
実際、やってみたら案外簡単で、クリアまでに半日もかからなかった。
「……と、ひとまずクリアまで行けたね。タイムに関しては……途中でめちゃくちゃ考えてたから参考にならないけど、6日クリアできると考えると、それなりではあるのかな?」
(コメント)
・細かいところで差はついてそうだけど、十分世界レベルだと思う
・5日目の操作精度をずっと続けられたら、もしかしたらもっと余裕が出るかも
・流石にあの集中力をずっとは無理だろ
・でも、ハクちゃん集中力凄いから
・不正を疑われるくらいには操作精度極まってるよ
・俺達のハクちゃんは一味違う
ふと、時計を見てみると、すでに日付を跨いでいた。
本当は、もっと早めに終わろうと思っていたんだけど、途中で思わぬ障害があったから、そこでかなり時間が経っていたらしい。
付き合わせちゃったリスナーさんには申し訳ないけど、でも、個人的には凄く楽しかったな。
「こんな時間だし、今日はここまでにしておくよ。またしばらく練習したら、本走に入ろうと思うから、その時はよろしくね」
(コメント)
・待ってる
・しばらくと言いつつ、また二日後とかにやりそう
・練習の時点で最低日数クリアしてるしな
・むしろ、これ以上どこを早くするんだ?
・ハクちゃんのおかげで、グリッチレスRTAが流行り始めている気がする
「それじゃあ、お疲れ様でした」
お疲れのコメントを見ながら、配信を終了する。
体力的に、そこまで疲れているわけではないけど、やっぱりゲームに集中していると、それなりに脱力感がある。
私は軽く肩を回しつつ、後ろを振り返った。
「ハク兄、お疲れ様」
《お疲れ様です》
「ありがとう。ちょっと白熱しちゃったかな」
後片付けをしつつ、改めてゲームのパッケージを見る。
昔は、敵が怖かったり、難易度が高すぎてクリアできなかったものが、今となってはRTAができるくらいには上達していると考えると、ちょっと感慨深いものがある。
もちろん、それは魔法の力や神力のおかげだから、私の実力ではないし、そういう意味では、自分の力でクリアしたかったというのはあるけど、それでも、するするとプレイできるのは、それはそれで楽しい。
配信でなくても、個人的にプレイしてみてもいいかもね。
「ハク兄って、割とゲーマーだよね」
「そうかな? 確かにゲームは好きだけど」
「あそこまで白熱できるなら、ゲーマーと言ってもいいと思うよ」
確かに、ゲームを遊んで、楽しいと思えるんだったら、ゲーマーなのかもしれない。
まあ、配信のため、っていう目的がないわけではないけど、今のところ、収益のために、とか、そういう思惑は一切ないし、純粋にみんなと楽しめているっていうのはいいことなのかもしれない。
今後も、その気持ちを忘れずに行きたいね。
「さて、もう遅いし、そろそろ寝ようか」
「うん」
後片付けを済ませ、いつものようにベッドへと向かう。
程よく疲れていたのか、眠りに落ちるのにそう時間はかからなかった。
「そういえば、両親には連絡した?」
「あっ」
翌日。朝食を食べている最中に、一夜がそんなことを言ってきた。
そう言えば、まだ連絡していなかったな……。
一夜やアケミさん達のことが先行していて、うっかり忘れてしまっていた。
別に、両親のことを軽んじているわけではないけど、会わないのはまだしも、連絡までしないのはちょっと申し訳ないよね。
「れ、連絡しておくね」
「そうした方がいいよ。二人とも、ハク兄のこと凄く心配していたし」
こちらの世界の両親とは、以前訪れた時に会っている。
お兄ちゃん達やユーリのことも紹介し、あちらの世界で元気にやっていることを伝えた。
あちらの感覚的には、およそ二週間ぶりくらい。上京して、ほとんど会えない日が続いていた時と比べると、そこまで心配するような時間は経っていないと思うが、やはり、一度死んだ私だから、心配しているのかもしれない。
「なんなら会いに行く? ハク兄なら、一瞬で行けるでしょ?」
「行けるけど……まあ、久しぶりだし、会っておいた方がいいか」
唐突に押しかけても大丈夫かと思ったけど、そこは連絡すればいいだけだし、私からしたらそれなりに久しぶりなので、会えるものなら会いたい。
まあ、今の時間だと、お父さんは仕事でいないかもしれないから、そこがちょっと心配だけど、もしいなかったら仕方ないね。
「もしもし、お母さん?」
『おや、白夜かい。帰って来てたんだね』
「うん。また会いに行こうと思ってるんだけど、今大丈夫そう?」
『わざわざ確認なんてとらなくても、来たい時に来ていいんだよ? お前はうちの子なんだから』
「そ、そう? じゃあ、今から行くね」
『あいよ』
電話をすると、元気そうな声が聞こえてきた。
確かに、元々は私の実家なんだし、他人の家に行くように許可を取る必要はなかったのかもしれない。
まあ、ある意味では、私はすでに別の家の子なのかもしれないけど、だからと言って、お母さん達の縁が切れているわけでもないからね。
なんかちょっとじんわり来たけど、行ってもいいということなので、さっそく向かうことにしよう。
「一夜も一緒に来る?」
「せっかくだし、行こうかな」
以前なら、転移魔法で巻きこめなかったけど、今なら一緒に飛ぶこともできる。
私は、一夜が準備を整えるのを待って、実家へと転移するのだった。
感想ありがとうございます。




