第二百三十五話:映画の楽しみ
翌日。私は一夜と共に、映画館を訪れていた。
よっぽど楽しみだったのか、一夜はいつも見ないようなおしゃれ着に身を包み、とても上機嫌そうである。
エルも、一夜の気持ちを汲んでくれたのか、特に反論することなく二人で行くことを許可してくれたので、それも関係あるかもしれない。
しかし、一夜と二人っきりというのは久しぶりだな。
昔は、結構一緒にいたことも多かったけど、就職が決まって、上京したあたりから、結構疎遠になっていた気がする。
そう考えると、今日は結構新鮮な気持ちになれるかもしれない。
「はっちゃん、何飲む?」
受付で映画のチケットを購入し、今は映画のお供であるポップコーンを買っているところである。
飲み物は、別に何でもいいんだけど、やっぱりコーラとか?
お茶とかでもいいけど、やっぱり映画館は普段は飲まないようなものを飲みたい気分にさせる。
まあ、言ってもコーラは日常でも飲むことは多いかもしれないけどね。
「任せるよ。それより、時間大丈夫?」
「え? あ、もう開始時刻じゃん。急がないと」
いそいそと支払いを済ませ、中に入っていく。
すでに中は暗く、足元が見えづらかったが、それでも案内灯があるので、躓くようなことはない。
スクリーンに映る広告を背に、私達は席へと着いた。
「危なかったね」
「まあ、最初の10分くらいは広告だと思うから、そこまでではないと思うけど」
もちろん、時間前に席についていた方が楽ではあるけど、最低限の猶予はある。だから、そんなに焦らなくても大丈夫だろう。
買ってきたポップコーンを頬張り、本編が始まるのを待つ。
どうでもいいけど、映画を見ている時にポップコーンを食べると、案外音が気になるよね。
周りの音がうるさいとかじゃなくて、自分が噛みしめるポップコーンの音が、迷惑になっていないかっていう話。
まあ、別に隣に人が座っているわけじゃないし、大丈夫だとは思うけど、ちょっとした気になりポイントだと思う。
「始まった」
広告と、映画館内での注意事項を終え、本編がスタートする。
毎回次回上映決定しているアニメの最新作。
転生する前は、よく家族で見に行っていた気がするけど、就職してからは全くと言っていいほど行っていなかった。
まあ、別に映画館に見に行かなくても、数年もすればテレビで放映されることが多いからね。
もちろん、映画館で見る方が迫力があるし、いいのはわかっているんだけど、どうしても仕事がちらついて、ここで体力を使いたくないと思ってしまっていた。
まあ、その割にはゲームする体力は残っていたりしたけども。
「……」
映画も始まったので、口を閉じる。
この映画シリーズ、毎回思うけど、爆破シーンが多い。爆破がないことの方が少ないくらいだ。
やっぱり、爆破って迫力があるから、それでよく起用されているんだろうかね? 私も、そういうのが好きで見ていた気がするし。
「……ふぅ、終わったね」
最後まで見終えて、ふぅと一息つく。
やっぱり、映画って面白いよね。毎日見たいとは思わないけど、たまに見るくらいだったら、気軽に特別な体験ができる場として優秀だと思う。
あちらの世界にも映画館とかできないかな。無理かな。
「面白かったね」
「そうだね。安定のクオリティというか」
私の感覚だと、最後に見たのはもう結構前になってしまうけど、それでもクオリティは下がっていなかったと思う。
映画スタッフさんには、ぜひともこれからも頑張って映画作製に励んでもらいたいところだ。
「これからどうする?」
「映画を見終わった後にやることって言ったら、決まってるでしょ?」
そう言って、一夜は映画館の隣に併設されているゲームセンターを指さす。
これが一般的かはわからないが、私達の場合、映画を見た後はゲームセンターで遊ぶというのが普通だった。
まあ、その理由は、親と一緒に見に来ていて、親が帰り際に買い物をしている間遊びたいからって言うのが理由だった気がするけど、いつの間にか、そんなの関係なしに遊んでいた気がする。
映画を見た後だと、多少なりとも目が疲れているし、そんな状態で遊ぶのはどうかと思わなくもないけど、まあ、楽しければ何でもいいだろう。
「太鼓あるけど、勝負する?」
「望むところ」
ゲームセンターではおなじみの、太鼓を叩くゲーム。
ゲームセンターに来たら、まず間違いなくやっていたゲームであり、私の幼少期の思い出の一つでもある。
コインを入れ、バチを握る。
結構やっていた部類ではあるけど、今の身長だと、台がないと譜面が見えないという問題があった。
まさか、こんなところで弊害が出るとは思わなかった。何となく屈辱である。
「難易度は鬼ね」
「はいはい」
難易度鬼は、最高レベルである。
一応、さらに裏譜面というものがあるので、そっちの方が難易度は高いけど、まあ難しいことに変わりはない。
選曲もして、スタートする。
やはりというか、今なら昔できなかった譜面もできるようになっていた。
目に身体強化魔法をかけるまでもなく、腕が間に合うからね。
元々、重なりすぎて見えないほどの譜面はないし、単純に失敗していたのは、腕が間に合わないのが原因だった。
叩き方がわかっていて、腕も間に合うなら、失敗する道理はない。
まあ、腕の短さの関係で、ふちを叩くのが地味に難しく、フルコンボとまではいかなかったけども。
「ふふ、私の勝ち」
「むぅ……」
一夜は当然のようにフルコンボ。昔からうまかったけど、さらにうまくなっている気がする。
負けっぱなしは悔しいので、後ろに人がいないことを確認してから連コイン。今度は負けない。
「今度はあれやろうよ」
その後も、何度か挑戦したが、どうあがいても引き分けにしかならないので、諦めて別のゲームをやることにした。
一夜が指さした先にあるのは、ガンシューティングゲームである。
これも懐かしい。シリーズ化されていて、特に3はワンコインでラスボス倒すくらいにはやり込んでた気がする。
二人プレイができるので、たまには協力してプレイするのも悪くない。
「……」
「あー、ちょっと身長が足りないかもね」
一緒にやろうと思っていたが、ここでも身長の問題がぶち当たってきた。
このゲーム、足元のペダルを踏んで、遮蔽に隠れたり出たりできるんだけど、その関係上、台を使ってプレイするということができない。
一応、頑張ればできないことはなさそうだけど、どうあがいても画面下の敵が狙えないので、プレイは難しかった。
もう、大人モードになってやろうかな。映画館では、子供の姿の方が割引があるから得だけど、ここだと不利にしか働かない。
「待ってて。大人になってくる」
「凄いパワーワードだね」
あんまり外でこういうことしない方がいいのかもしれないけど、流石にこれはあんまりすぎる。
私は化粧室へと入ると、こっそり【擬人化】で大人の姿になるのだった。




