第二百三十四話:次なるRTA
みんな、私のこと気になりすぎじゃないだろうか。
そりゃ確かに、私はこの二週間、姿を消していたし、その間何をしていたのかとか、色々聞きたいことがあるのはわかる。
でも、仮にもこの配信はアケミさんの枠であり、私の配信ではない。
コラボではあるけど、主役は私ではなく、枠主であるアケミさんのはずである。
それなのに、質問は私のものばかり。たまにあっても、三期生全体に対する質問があるくらいで、アケミさん達個人に触れる内容はあまりなかった。
いくら私達が仲良しでも、これだけ偏ると流石に申し訳なくなってくる。
予想していたこととはいえ、なんとなくもやもやした気分になってしまった。
『ハクちゃん、なんか落ち込んでる?』
配信が終わり、今は通話アプリで通話をしているところである。
私の機微を読み取ったのか、アケミさんがそんな言葉をかけてきた。
通話越しだというのに、よく気づけるものだ。
「いえ、質問が私に対してばっかりだったので、ちょっと申し訳なくて」
『それは当然じゃない? 僕だって、ハクちゃんのことは気になってたし』
『ハクちゃんはみんなのアイドルですからね。気になる気持ちはわかります』
もちろん、これによってアケミさん達が私のことを嫌いになるとか、そういうことはないと思う。
裏表のない人達ばかりだし、注目されていないことが不満なら、自力で努力して勝ち上がっていくことを選ぶだろう。
ただ、それでも、人の配信を占拠してしまったのは、何となく居心地が悪い。
リスナーさんの気持ちは嬉しいけど、他のみんなにも注目を向けてほしいな。
『それより、アンケート結果、どうなった?』
「ああ、あれですか……」
配信中、次にやるRTA企画について、アンケートを取ったのだけど、すでにたくさんの投票が集まっていた。
まだ、投票時間はあるので、今後どうなるかはわからないけど、人気なのは、コメントでも真っ先に挙げられていた、宇宙運送の遭難記である。
『チトセ、知ってる?』
『有名ですよ。今だと、シリーズ化されていて、確か4まで出ていたかと』
『私やったことあるよー。シリーズごとに難易度は異なるけど、個人的に一番難しいのは、やっぱり初代だね』
宇宙運送の遭難記。
簡単に概要を説明すると、宇宙を股にかける運送会社に所属する主人公が、宇宙船で航行してたところに隕石が衝突し、未知の星に不時着してしまう。その際、宇宙船のパーツの大半が飛び散ってしまい、このままでは帰れない。
絶望に暮れていた時に、主人公の星のニンジンによく似た生物に出会い、彼らの力を借りてパーツを回収していって、未知の星からの脱出を目指す、という感じ。
パーツ回収には制限時間があり、30日が経過すると、生命維持装置が切れてお陀仏って状況。私も初代はやったことがあるけど、初見の時は普通に時間切れでバッドエンドだった気がする。
「この調子で行くと、これになりそうですね」
『ちなみに自信のほどは?』
「うーん、どうでしょう。やれないことはないと思いますが……」
このゲーム、RTAをするとなると、自然と最低日数クリアが必須条件になる。
夜は、原生生物が活発になるため、活動することができず、パーツの回収は基本的に昼に行われる。なので、日没になった時点で、切り上げなければならないのだ。
だから、最短を目指すなら、日数をできる限り縮める必要があるので、必然的にそうなるわけである。
最低日数ってどのくらいなんだろう。
『今調べたところによると、初代は6日が最低日数みたいですね』
『あと四回遭難できるじゃん』
「そんなに短いんですね……」
制限時間が30日あるわけだけど、わずか6日でクリアできるとか、遭難のプロすぎる。
確か、あのゲームはそれぞれマップがあって、一日に探索できるのはそのマップだけだから、最低でも一日はそのマップに費やす必要がある。
マップの数は、5つだったから、ほぼ一日でそのマップのすべてのパーツを回収していることになるね。
いや、チュートリアルで、一日目はパーツを一つ回収したら強制終了だから、実質すべて一日で終わらせるのか。
……普通にやばくない?
「とりあえず、やって見ないことにはわかりませんね」
『また練習配信する?』
「機会があれば。まだ、このゲームに決まるかわかりませんしね」
あんまり練習風景ばかり垂れ流すとリスナーさんが飽きちゃいそうだし、やるとしても一回くらいになるだろう。
他のゲームになったとしても、知らないゲームというわけではないので、多分何とかなるはず。
『楽しみにしてるね』
『応援してるぞー』
「ありがとうございます」
この調子で行くなら、明日も配信かなぁ。
なんか、毎日配信しすぎて、供給がおかしくなりそうだけど、どうせしばらくしたらまたいなくなるんだし、できるだけやっておきたいというのはある。
お兄ちゃん達のこともあるし、あんまり配信しまくるのも違う気はするんだけどね。
その後も、色々と話をした後、通話は終了した。
またコラボしようということになったけど、私を独占しすぎるのもよくないってことで、次のコラボは少し間を置きたいらしい。
まあ、あんまりコラボし過ぎて、自分の配信を疎かにするのもあれだし、間違ってはいないだろう。
できることなら、アケミさん達の配信の引き立て役になれたらいいんだけど。
「ハク兄、話し終わった?」
「一夜、うん、終わったよ」
待っていたと言わんばかりに、一夜が部屋に入ってくる。
今回は三期生とのコラボということで、一夜は出しゃばらないようにと退出していた。
まあ、別に入ってもよかったは思うけどね。その場合、ますます私寄りの配信になっちゃいそうだけど。
「ねぇ、明日暇?」
「一応、夜に配信しようかなとは思うけど、それ以外は特に予定はないよ」
「じゃあさ、一緒に映画でも見に行かない? ほら、最近話題になってるのがあるし」
「いや、最近の話題はよくわからないけど……」
「あ、そっか。まあ、たまにはいいでしょ?」
「まあ、一夜が行きたいならいいけど」
確かに、一夜とはいつも一緒にいるけど、出かけるとなると、『Vファンタジー』の本社に一緒に行ったくらいしかない。
一応、お揃いの指輪を買ったことはあったけど、あれはもっとしんみりした雰囲気だったしね。気軽に行く買い物というのはなかったかもしれない。
「それじゃあ、明日の朝、二人で行こうね」
「エルは連れて行っちゃダメ?」
「ダメじゃないけど……できれば二人がいいな」
うーん、まあ、確かに一夜からしたら私を独り占めにしたいんだろうし、エルはあんまり来て欲しくはないか。
仕方ない、エルには明日はお兄ちゃん達の下にいてもらおう。
この世界であれば、危険はほとんどないし、エルもそこまで難色は示さないはずである。
「わかった。じゃあ、二人で行こうね」
「やった! 楽しみにしてるね」
嬉しそうに笑顔を見せる一夜。
私はその顔を微笑ましく見ながら、エルを説得にかかるのだった。
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