第二百三十三話:雑談コラボ
何事もなく時間は過ぎ、夜。私は、アケミさん達からの連絡を待っていた。
コラボに関しては、すでに告知しているので、サプライズというわけではないが、段取り的に、私の挨拶は最後になるらしい。
なんか、アケミさんの配信なのに、私が主役みたいな感じになっているのが気になるけど、アケミさんのリスナーさんに怒られないかな。
「あ、来た来た」
しばらくして、通話アプリの通知が鳴る。
通話に出ると、テンション高めの声が聞こえてきた。
『やっほー、ハクちゃん。準備大丈夫そう?』
「はい、大丈夫です。いつでも行けますよ」
『オッケー。それじゃあ、合図をしたら、入って来てね。それまでは、ミュートでよろしく』
「了解です」
その後も、いくつかの確認事項を済ませた後、配信がスタートする。
本来、コラボ配信は、お互いのリスナーを共有し、それぞれの視聴回数や、チャンネル登録者を増やす目的でされると思うんだけど、アケミさん達の場合、そう言った思惑は一切ないと思う。
単に仲がいいからやっているだけで、リスナーの皆さんもそれがわかっているのか、アケミさんやチトセさんなどそれぞれを応援するというよりも、三期生全体を応援するという形になっている。
なので、私のリスナーさんも、等しくアケミさん達の配信を見ているので、アケミさんのことは知っているけど、私のことは知らない、って人はなかなかいない。
まあ、いたとしても、すぐに古参勢に囲まれて知ることになりそうだけど。
「はーい、それじゃあ、今回のゲストの最後、どうぞ!」
「はい、皆さんこんハクです。月夜ハクだよ」
(コメント)
・待ってた
・やっぱり三期生コラボと言ったらハクちゃんよ
・スズカちゃんも可愛いだるるぉ?
・チトセちゃん可愛い
・全員推せばいいんやで
最初からコメントも大盛り上がりである。
今回は、ただ単に質問箱に来た質問を返していくだけなので、司会進行であるアケミさんが届いた質問を読み上げることになった。
「それじゃあ読んでいくね。まず一つ目、ハクちゃんはこの二週間何をしていたんですか、だって」
「さっそく私に関しての質問ですか」
まあ、私はここ二週間くらいの間、姿を消していたわけだしね。それも、この世界から物理的に。
当然ながら、配信はできないし、『Vファンタジー』ですら、私の所在を把握できなかった状況である。
下手をしたら、行方不明として警察に届けを出されてもおかしくないような状況だった。
アケミさん達の配信でも、そう言った質問は多々あったようだし、みんな気になっているんだろうね。
「簡単に言うと、異世界に帰ってたよ。元々、私がこの世界に来たのは偶然だからね、あちらの世界を放っておくわけにはいかないの」
(コメント)
・ハクちゃんと言えば異世界の妖精
・そう言えば、事故でこっちの世界に来たとか言ってたっけ?
・ハクちゃんにとっては異世界の方が故郷なのか
・そりゃそうだろ
「一応、今では定期的にこちらに来れる算段も付いたから、多少時間は空いちゃうかもしれないけど、こっちに来れた時はなるべく配信するようにするから、よろしくね」
(コメント)
・配信してくれたら何でもいい
・またRTA配信見たい
・ハクちゃんならどんなゲームでも世界記録出せそう
・RTA業界に激震が走ったレベルだからな
・わかってるだけでも、スマッシュなゲームで全一を倒す、RTAで世界記録、イカのゲームの化け物エイムとか色々あるしね
・どれだけやり込んだらそうなるんだろうか
「そう言えば、ハクちゃんってRTA配信してましたよね。世界レベルだったらしいですけど、どこでそんなに練習したんですか? のじゃ?」
質問に合わせて、チトセさんが話を振ってくれる。
RTA配信だけど、普通はそんなにないと思う。いや、それを売りにしているヴァーチャライバーもいるとは思うけど、世界レベルの走りをする人がヴァーチャライバーっていうのはなかなかないだろう、
ヴァーチャライバーは、リスナーさんを楽しませる必要がある。それには、一つのジャンルだけでなく、様々なジャンルへの進出が必要だ。
ゲームの他にも、歌とか、料理とか、様々な企画が必要になると思う。
しかし、RTAをする場合、かなりの練習量が必要となる。
練習風景を配信で乗せるにしても、ずっと同じことをし続ければ、リスナーさんも飽きてしまうだろうし、ヴァーチャライバーとはそんなに相性はよくないのだ。
もちろん、それをものともせず、RTAという個性を生かしている人もいるだろうけど、それは裏でたゆまぬ努力をしている結果である。
少なくとも、私のように、練習二日で世界記録を取るようなことはないだろう。
そういう意味では、私はかなり異質な存在なのだ。
「言ったかどうか覚えてないけど、異世界とこの世界では、時間の流れが違うんだよ。異世界で一か月くらい経っても、こちらの世界では一日しか経ってないとか、そんな感じ。だから、練習時間はそれなりにあるんだよ」
(コメント)
・そんな時間差があるのか
・ということは、ハクちゃんの感覚では一年くらい経ってる感じ?
・そもそも異世界でゲームなんてできるのか?
・ゲーム機もそうだけど、モニターとかもなさそう
・案外あるんじゃね? 科学が発展しているかもしれん
「ゲーム機とかはこちらの世界から持ち込んで、何とか出来るようにしたよ。まあ、電源の関係で、あんまり長時間はできないけどね」
(コメント)
・ゲームは一日一時間
・一日一時間であれだけの走りができたら化け物だわ
・でもハクちゃんならありえそう
・もう才能の領域なんだろうな。どんなゲームもうまいし
・俺も異世界行きてえな
「ちなみに、次のRTA配信はやる予定はあるのかの?」
「はい。まだ何をやるかは決めてないけど」
とりあえず、贈られてきたゲームの中から何かやる予定ではあるけど、正直何をやるかは決めていない。
できれば、私が知っているゲームだといいんだけど。
(コメント)
・宇宙運送の遭難記とか
・やっぱり赤い帽子の配管工のゲームでしょ
・逆に緑の帽子の方も見てみたい
・ここは一つ、魔界の村とか
・ハクちゃんがやるものならなんでもいい
なんだか、コメントでいろんなゲームを要望してくれている。
うーん、どうしようかな。多分、贈られたゲームには、これらのゲームも入っている。
私も知っているものが多いし、この中から選ぼうかな。
「じゃあ、後でアンケート出しとくから、何をやって欲しいか投票してくれたら嬉しいな」
「RTAでやるゲームをアンケートで決めるって、かなりの強者ムーブだよね」
「実力がないとできないことですからね、のじゃ」
「ハクならばどんなゲームもできるであろう」
確かに、よくよく考えると、普通は一つのゲームを極めるものだろうし、それをアンケートで決めるっていうのはだいぶ舐めた態度だったかもしれない。
まあでも、別に世界記録を狙っているというわけでもないし、ある程度リスナーさんが楽しんでくれるなら、たとえ失敗してもいいとは思うけどね。
重要なのは記録じゃなくて、楽しめるかどうかだから。
「さて、それじゃあ次の質問に行こうか」
話がずれてきているので、アケミさんが本筋に戻していく。
質問箱の質問は、案の定そのほとんどが私宛の質問だった。
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