第二百二十八話:フェスコラボ
ご飯も食べ、もろもろの準備を済ませて配信画面を開く。
隣にいる一夜に確認を取った後、私は配信開始ボタンを押した。
「皆さんこんハクです。月夜ハクだよ」
(コメント)
・きたきた
・二日続けてきちゃー!
・これで明日も頑張れる
「今日は、イカのゲームで、現在開催中のフェスに潜って行こうと思うよ。それに当たって、今日はゲストに来てもらっています。どうぞ」
「はーい。月夜の晩にこんばんは。ハクの姉の月夜アカリよ」
(コメント)
・ゲスト(同棲)
・いつも一緒にいるんだよなぁ
・イカゲーって今までやったことあったっけ?
・これまた人気のタイトルが来たな
・今日はRTAじゃないのか
一夜の登場によって、コメント欄が盛り上がってくる。
RTAを期待する声もあったけど、今回はコラボなので、そちらはお休みせざるを得ない。
そもそもRTAでコラボってどうやればいいんだ? よくわからない。
「今回は二人で協力して挑もうと思うよ。ちなみに、投票したのはこの陣営ね」
「私は正直どれでもいいんだけど、ハクに合わせたわ」
私と一夜、それぞれの画面にキャラが映し出される。
今回のイベント、いわゆるフェスは、三つの陣営に分かれて、それぞれの勝利数を競うイベントだ。
評価されるポイントは、それぞれの投票数と、勝利数によって決められる。なので、とにかく勝ちまくれば勝利に一歩近づくわけだ。
まあ、一人が大量に勝っても、結局はチーム戦なので、他の同じ陣営の人が頑張らないとどうしようもないってことはあるかもしれないけど、個人的には、勝ち負けなど気にせず、フェスを楽しんだらいいんじゃないかと思う。
別に、負けても報酬は貰えるしね。
(コメント)
・俺はこの陣営に投票した
・やった、同じ陣営じゃん
・ハクちゃん相手にしたくないんだけど
・イカゲーがどの程度の実力なのかはわからないけど、絶対うまいと確信できる
・ただでさえ、アカリちゃんもめっちゃうまいしな
ちなみに、以前の私の実力は、Sランクくらいだった。
このゲームには腕前があり、それぞれCからXまであるんだけど、Sは上から三番目だったかな。
まあ、Sの上のS+は幅が広く、同じ腕前でもかなり差があるらしいけど、私はその仲間入りを果たせなかった感じ。
今はどうだろう。身体強化魔法を使えばそれなりに戦えるだろうか?
楽しむだけだったら、特に使わなくてもいいけど、私に求められているのは、そういうことじゃなさそうだしなぁ。
「武器は適当に色々使って行こうと思うよ」
「もし、何か使ってほしい武器があったらコメントしてくれたら嬉しいわ」
(コメント)
・やっぱりチャーでしょ
・竹とか
・鉛筆
・チャー人気すぎだろ
・そりゃ、アカリちゃんもハクちゃんもエイムは化け物だろうし
・普通にシューター使ってるのも見たい
・初期武器の立ち回りを知りたいかも
「チャージャーが多いみたいだね。どうする? 二人ともチャージャー持つ?」
「流石にナワバリでそれは無謀なんじゃない? キルしまくれるなら別だけど」
「私もかなり久しぶりにプレイするし、できれば最初は慣らしたいかなぁ」
「なら、私がチャージャー持つわ。ハクは無難に初期武器でも持っておいたらいいんじゃない?」
「そうしようか」
まあ、そのうち武器は変えるつもりだけど、最初くらいは普通にプレイしたい。
チャージャーは、撃ち抜けたときの爽快感は凄いけど、かなり玄人向けの武器だと思うしね。
最強武器の一角とはいえ、エイムがなければただの置物になってしまうから、扱いが難しい。
まあ、みんなが推してる竹やら鉛筆やらはその中でもかなり難しいって言われてるみたいだけど。
結局は、使い手次第だ。どんな武器でも、使い方が良ければ化けるものである。
「それじゃあマッチングして……あ、決まったね」
「それじゃあ、初めて行きましょうか」
それぞれ武器を選び、ゲームがスタートする。
ステージは橋のようだ。縦長なステージで、チャージャーが有利な地形でもある。
とりあえず、私は初期武器なので、基本的にはサポートを重視だ。
高い塗り力を生かし、味方の足場を整えていく。
(コメント)
・静かな立ち上がり
・ナワバリでも自陣塗らずに突っ込んでいく奴いるよな
・塗れない武器ならともかく、塗れる武器でも塗らないのはどうなのか
・後半でスペシャル貯める時に必要だから
・初動は大事
「接敵したね。この武器は射程が短いから、そんなに積極的にキルする武器じゃないんだけど、狙える時は狙っていくよ」
まあ、今回の場合、私は本当にキルする意味は薄い。
もちろん、敵を放置するのはだめだけど、今回は後ろにチャージャーを持った一夜がいる。
チャージャーは、射線が見えてしまうので、普通に狙うと簡単に避けられてしまうけど、他のことに気を取られている時だったら、それも難しくなる。
つまり、私は一夜が狙いやすいように、相手を牽制するだけでいい。それだけで、相手は勝手に爆散していくだろう。
もちろん、外す可能性もなくはないが、一夜ならほぼ当ててくれると信じている。
いざとなればバリアもあるし、そうそう死ぬことはないだろう。
(コメント)
・なぜ当たらん
・すげぇ、三人に狙われてるのに全然当たらない
・しかも、その隙を狙ってアカリちゃんが正確に撃ち抜いていく
・連携ばっちりだな
・うっま
敵が少なくなったら、前線を上げる。
私の場合、いつもは後衛武器を持つことが多いから、なかなか前線上げには加わらないけど、今回はシューターなので、前に出る必要がある。
前線のラインを上げれば、相手は自陣から出られなくなっていき、圧倒的に有利になる。
特に、このステージは、押し上げるのが難しいからね。ローラーなんかがいた日には、一生出られないなんてこともある。
今回は、出てくる側から一夜が撃ち抜いちゃってるけど。
(コメント)
・敵が可哀そうに見えてきた
・リスキル、ではないけど、それに近いものを感じる
・リスキルしないだけ優しさがあるよな
・飛び出した瞬間射抜かれるとか、トラウマ物だわ
・塗りも完璧すぎる
やがて、制限時間が近づいていき、相手も焦ってきたのか、動きが単調になってきた。
ここまでくれば、もう後は蹂躙するだけである。
今まで控えめに行動していた私も、キルするために動いてもいいだろう。
そうこうしているうちに、あっという間に制限時間が過ぎ、試合は終了した。
結果は、大勝利。陣地の約7割を塗り、文句なしに勝ちをもぎ取った。
「最初は無難に勝利だね。この調子なら、案外早くポイント貯められるかも」
「だいぶ立ち回りやすかったわ」
(コメント)
・リザルトがえぐい
・チャーで、しかもナワバリで18キルって化け物では?
・意外とハクちゃんがキル数少ないのが気になるけど
・あれはハクちゃんがアカリちゃんの射線に敵を誘導してキルさせてるからこうなってるんだぞ
・ハクちゃんサポート寄りの動きだったからね
「この調子でどんどんやって行こうか」
「目指せ、えいえん」
調子も出て来たし、今回のフェスは楽しめそうだ。
そんなことを考えながら、次のマッチングを開始した。




