第二百二十七話:コラボラッシュ
その後、バッティングセンターへと向かったが、特に大きな問題は起きずに過ごすことができた。
ちなみに結果としては、みんな最初は空ぶったりもしていたけど、後半はすべてホームランを出すくらいには上達していた。
まあ、球速が遅かったというのもあるかもしれないけど、恐らくもっと速くても当てること自体は簡単だったんじゃないかな?
私は目に身体強化魔法をかければ、どんなに速くても遅く見えるし、エルも竜としての感覚で動体視力はかなり優れている。お兄ちゃんもお姉ちゃんも、冒険者としての実力があるし、なんならあれくらい速い魔物も相手にしたことがあるようなので、あの球速はちょっと物足りないとか言っていた。
強いて言うなら、私が一番下手だったのかな? 身体強化魔法を使わない状態だと、割と外すことがあったし。
ボールを見切ること自体はできるんだけど、バッドを振ってもなぜか当たらない。やっぱり野球は苦手だ。
「ふぅ、割と楽しめたな」
そろそろ夕方も近いという時間になり、私達は拠点へと帰ってきた。
体を動かすという意味では、ちょっと物足りなかったかもしれないけど、それでもこちらの世界特有のスポーツを体験できて、思いのほか楽しめたようだ。
そう言えば、あちらの世界では、どんなスポーツがあるんだろう?
一応、遊びという意味では、チェスみたいなボードゲームはあるらしいんだけど、スポーツはあまり聞いたことがない。
後で調べてみるのも面白いかもね。
「ハクは、またヒヨナの家に戻るのか?」
「うん。今日の夜は、配信をしようと思ってるから」
「ああ、仕事か。そういうことなら仕方ないな」
「ラルドさん、その気になれば、ここからでも配信を見ることはできますよ?」
「え、まじか?」
ユーリはそう言って、パソコンを引っ張り出す。
『Vファンタジー』に提供してもらった奴で、配信用のパソコンとしては結構性能がいいようだ。
パソコンに関しては、すでに一夜に買ってもらった奴があるから、そちらを使っているけど、使わないともったいないかな。
「ハクの言う配信っていうのは、この動画サイトに映されるんです。アーカイブが残っているなら、過去の配信も見られますよ」
「そんな機能まであるのか。この、ぱそこん? っていうのは、かなり優秀なんだな」
アーカイブに関しては、特に消したりはしていないので、すべて残っている。
なんか、身内に見られるのってすごく恥ずかしいんだけど……。
一夜や同期の子達は、仕事仲間って感じだから別にいいけど、お兄ちゃん達はそうじゃないからね。
でも、あんなに喜んでるのに今更見るなとも言えないし、これは止めようがないかな。
あんまり変なこと喋らないようにしないと。
「見てもいいけど、笑わないでね?」
「そんなことはしない。ハクの仕事風景はなかなか見られないからな、素直に応援するさ」
「どんなことしてるのかしらね」
そう言って、アーカイブを覗いているお兄ちゃん達。
何となく不安だけど、いつまでもここにいると遅れてしまう可能性がある。
ただでさえ、アケミさん達から連絡が来ることになっているしね。
私は後のことをユーリに任せ、エルと共に一夜のマンションに向かうのだった。
「お帰り。お兄さん達はどうだった?」
「ちょっとハプニングはあったけど、まあ、楽しそうだったよ」
出迎えてくれた一夜に対し、今日の出来事を報告する。
ボウリング場の話をすると、エルが申し訳なさそうな顔をしていたが、一夜は特に気にした風でもなく、慰めていた。
「そういえば、アケミさんから連絡来てたりする?」
「来てないよ。ハク兄が帰ってこないから、帰ったら連絡するって言っておいたからね」
「あ、そうなんだ。なんかごめんね」
「いいよいいよ。お兄さん達にも、この世界を楽しんで欲しいからね」
アケミさんの方から、この時間以降なら連絡に出られるという時間を教えてもらったらしいので、その時間を過ぎていることを確認し、パソコンを立ち上げて、通話アプリを開く。
連絡すると、ワンコールもしないうちに通話が繋がった。
『ハクちゃん、お帰りなさい。もう大丈夫なの?』
「はい、遅くなってすいません。お兄ちゃん達にこの町を案内してまして」
『ああ、なるほどね。やっぱり、異世界の住人だから、この世界は珍しいのかな?』
「まあ、ほとんど初めてのことでしょうからね。詳しいことは後で話しますよ」
『はーい。それで、コラボの話なんだけど、明日とかどうかな?』
明日は、特に予定はないはず。
まあ、お兄ちゃん達が何か言ってくるなら別だけど、仕事だと言えば特に反論はしてこないだろう。
「わかりました。夜ですか?」
『そうそう。……って、ちょっ』
『ハクちゃん、お久しぶりです!』
『おひさー。会いたかったよー』
「その声は、チトセさんとスズカさんですか」
なにやらばたばたとした音が聞こえたかと思うと、二人の声が聞こえてきた。
なんだ、一緒にいるのか。学校帰りなのかな?
時間的に、もう家についていてもおかしくはなさそうだけど、プライベートでもよく一緒にいるんだろうね。
『アケミばっかりずるいですよ』
『そうだそうだー』
『仕方ないでしょ。それだけハクちゃんに慕われてるってことだよ』
『ぶーぶー』
どうやら、アケミさんにだけ連絡したことを根に持っているらしい。
まあ、根に持っていると言っても、本気じゃなさそうだけど。
でも、あのタイミングで連絡していたら、恐らく学校に遅刻していただろうし、連絡しなかったのは仕方ないことだったと思うけどね。
この二人なら、それでもいいから連絡してほしかったって言いそうだけど、学業は疎かにしてはいけない。
「二人とも、お久しぶりです。コラボの件、確かに受けましたよ」
『やったね。もう告知しちゃっていい?』
「いいですけど、内容はどうするんですか?」
『今回は雑談配信しようかなって思ってるよ。ほら、色々聞きたいこともあるし』
「わかりました。こちらも告知しておきますね」
その後も、ワイワイとした声が聞こえてきたが、楽しみは明日に取っておくということで、通話は切れた。
しかし、今日は一夜とコラボして、明日は同期とコラボするとなると、なかなか忙しいな。
昨日も配信したし、三日連続かな?
復帰配信というほど間は開いていないけど、バランスがめちゃくちゃ悪いな。
まあでも、配信しないよりはした方がリスナーさんも喜んでくれるだろうし、これはこれでいいのかな。
私も、なんだかんだで配信は楽しくなってきてるし。
「終わった?」
「うん、明日の夜だってさ」
「コラボの誘いとしては急すぎるけど、まあ、あの三人だからね。それくらいはできるか」
本来は、コラボするとなると、相手の日程も考えないといけないので、人数が多くなるほど予定を立てるのは大変になるらしいんだけど、あの三人はそれをものともしない。
まあ、多少の予定は私のためなら空けるって感じなのかもしれないけど、だとしたら少し申し訳ないな。
でも、あちらが望んでいることなのだし、そこまで気にしなくてもいいか。何か問題があるなら、『Vファンタジー』が止めるだろうしね。
「まあ、その前に、私とコラボなんだけどね」
「はいはい。ご飯食べてからだよね?」
「もちろん。すぐ作るから待っててね」
そう言って、キッチンに向かう一夜。
さて、このコラボラッシュ、うまく切り抜けられるだろうか。
私は、ひとまず手伝うために、一夜の後を追った。
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