第二百二十四話:コラボの約束
配信を終えた後、私はそのまま一夜の部屋で一夜を明かすことになった。
まあ、わかっていたことだけどね。
以前、私が一度この世を去ってから、ハクとなって再びここを訪れた時、もう二度と私のことを失いたくないと思ったらしい。
それもあって、こちらの世界に来ている間くらいは、一緒に寝たいと言ってきたのである。
私も、久しぶりに会う一夜のことは心配だし、そう求められるなら否やはない。
今回はエルもいたが、エルは空気を読んでリビングのソファで寝ると言ってくれたし、おかげでぐっすり眠ることができた。
「ハク兄、おはよう」
「おはよう、一夜」
いつもの時間に起床し、朝御飯を用意する。
今日のラインナップは、目玉焼きが乗ったトーストだった。
こういうの、あんまり食べたことないんだけど、いきなりどうしたんだろうか?
「最近はまってるの。美味しいでしょ?」
「まあ、うん」
卵はなんにでも合うからね。よほどのことをしなければ美味しいだろう。
エルも、特に何も言わずにパクパク食べているし、あちらの世界でも再現できそうだから、今度試してみようかな。
「さて、今日はどうしよう?」
一応、『Vファンタジー』から要望された、アンチに対する潔白証明配信は無事に終わったと言っていいだろう。
食べ終わった後、軽くSNSを見てみたが、私の名前で検索すると、その多くは昨日の配信についてであり、アンチの勢力はかなり縮小したようである。
まあ、それでも、あの画面はフェイクで、本当はチートを使っているんだ、とか、プレイしているのはハクではなく、全くの別人だ、とか、どうにかして私のことを叩こうとしている人はいるみたいだけど、根拠も何もないので、それを信じている人はあまりいなさそうである。
一度叩く空気ができてしまうと、なんとなくそれに便乗しようって人もいるだろうし、完全に消し去るのはちょっと難しいよね。
でも、これくらいならそのうち収まるだろう。これ以上は、特に何かする必要はないと思う。
だからこそ、これから何をしようかっていう話が出てくるんだよね。
一応、今後もRTA配信をできたらいいなとは思っている。
なんだかんだで、世界レベルの走りもできることは証明されたし、それを持ち味にして、配信を盛り上げていくのも悪くはないだろう。
もちろん、RTAだけでなく、普通のゲーム配信もしてもいいとは思うけどね。
RTA配信の悪いところは、集中しすぎると、喋らなくなることだ。
集中しているんだから仕方ないけど、そういう部分は配信とは少し相性が悪いよね。
「あ、着信が来てる?」
SNSを確認しつつ、通話アプリを覗いてみると、いくつかの着信があることに気が付いた。
昨日の夜に来ているけど、その時間はすでにパソコンを落として就寝している時間である。
相手を考えると、先に連絡しておくべきだったかなと思わなくもないけど、まあ、こればっかりは仕方ない。
問題に気を取られて、それどころじゃなかったからね。
「どのみち帰ってきたことを伝える必要はあるし、連絡しておこうか」
私は、通話ボタンに手を伸ばす。
しばらくして、通話が繋がったと思うと、元気な声が聞こえてきた。
『ハクちゃん! 戻って来てたんだね!』
「お久しぶりです、アケミさん」
相手は、同じ『Vファンタジー』に所属し、同期でもあるアケミさんである。
他にも、チトセさんやスズカさんからも連絡が来ていたけど、とりあえずはアケミさんからということで、最初に連絡させてもらったのだ。
『昨日の配信見たよ。疑ってたわけじゃないけど、完璧だったね』
「ありがとうございます」
『まあ、まさか世界記録を取るとは思わなかったけど』
そう言えば、SNSを見ている限り、私のRTAとしての実力を高く評価している人もいたね。
ルート自体は、先駆者が使っているものとほとんど同じなのだけど、ところどころで使われている私のテクニックが目に留まったらしい。
記録を申請しないのがもったいないという人もいたけど、まあ、私のは魔法を使っているし、素の実力というわけでもないから、記録を申請するのはちょっとね。
それで、ランカーの人達に目をつけられても困るし、今後も記録は申請しないだろう。
『今回はどのくらいいるの? また一緒にコラボしよ!』
「今回は特に決めていませんが、一週間ほどはいるつもりです。日程が合えば、コラボは大丈夫ですよ」
『日程なんて合わせる合わせる! チトセとスズカも呼んでいい?』
「もちろんです。私も、皆さんには会いたいですからね」
『ちょっと燃えてきたわ! 日程が決まったら、また連絡させてもらうね。これから学校だから、昼か夜になるかも』
「了解です。待ってますね」
そうして、通話が切れる。
そっか、みんな学生だから、この時間は学校に行く時間なのか。
そう考えると、他の二人には連絡しない方がいいかもね。
どのみち、アケミさんが話すだろうし、少なくとも連絡は夜に回した方がいいだろう。
「三期生の子?」
「あ、うん。昨日着信があったみたい」
「なるほどね。ハク兄、もちろん私ともコラボしてくれるよね?」
「いいけど、何するの?」
「ちょうど今日から明日にかけて、イカのゲームでフェスやってるんだよね。それを一緒にやるのはどう?」
「まあ、一夜がやりたいなら」
「やった!」
定期的に、フェスと言って、イベントのようなものをやっているのがあのゲームだ。
お題に沿ったチームに分かれて、その得点を競い合う、シンプルなルール。
今だと、新たなルールも追加されて、より面白くなったとかなんとか? ほんとは四人いれば一チーム出来上がるんだけど、二人でもなんとかはなるから大丈夫だろう。
「じゃあ、今日の夜はコラボね」
「はいはい」
アケミさん達のことがちょっと気がかりだけど、まあ、今日連絡して、すぐさまコラボとはならないだろうし、多分大丈夫だろう。
時間はあるし、じっくり予定を合わせればいいと思う。
「一夜、一回お兄ちゃん達の様子を見に出かけるからね」
「あ、うん、あっちも心配だしね。夜までには帰って来てよ?」
「わかってるよ」
ひとまず、やることも決まったので、様子を見に行くことにする。
ユーリやミホさんがいるから大丈夫だとは思うけど、また以前のように変なことに巻き込まれても困るしね。
せっかくなら、私も出かけたいし、一緒に観光するのもいいだろう。
私は朝食の洗い物を済ませた後、拠点であるマンションへと向かうのだった。
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