第二百二十話:対処のために
「確かに魔法は使っていたけど、それはチートに入るのかな?」
「入らないと思うよ。仮に入ったとしても、この世界で魔法を使ったなんて言っても信じられないと思うし、普通にプレイしていただけとみなされると思う」
一夜としては、この物議に関しては、不快な思いをしているようだった。
一応、騒いでいるのは一部のアンチだけで、ほとんどの人は、あれは正当なプレイだったと擁護する声の方が多いのだけど、そう言ったマイナスの声は、とても目につきやすい。
それに、私のことを知っている人が見たならともかく、そうでない人がその投稿内容を見たら、ああ、この配信者はそういうことをする人なんだと、間違った知識をつけてしまう可能性もある。
炎上に関しては、即謝罪が一番のようだけど、今回の場合は、こちらに全く落ち度がないのに、批判を受けているわけで、『Vファンタジー』としては、納得いってないのだとか。
まあ、魔法を使ったのは落ち度っちゃ落ち度だけど、私から魔法を取ったら、一部のゲームをちょっとできるくらいしかない。視聴者を楽しませるのなら、魔法を使った方が効率的なのは確かである。練習時間もあんまり取れないしね。
「どうすればいい?」
「ネットの意見としては、きちんと手動でプレイしていたという証拠を出せという声が多いね。後は謝罪しろとか」
「手動……どうやって証明するの?」
「やるとしたら、やっぱり手元を映す感じかな。3D化もしていないヴァーチャライバーがやることじゃないと思うけど」
まあ、確かにヴァーチャライバーはアバターが本体で、中の人はいない設定だからね。
3D化という道もあるようだけど、流石に先輩を差し置いて、それをするのは憚られる。
となると、手元だけは実写で映し、プレイを実況するというのが、今できる最大の手のようだ。
それくらいでいいなら、私は全然やってもいいけどね?
「とにかく、まずは配信をしないことには始まらないから、本社に行って挨拶してきてくれる?」
「まあ、元々行くつもりだったし、この後行ってこようか」
幸い、今はまだ日は高い。電車を使っても、そこまで時間はかからないだろう。
アケミさん達にも会いたいしね。
《話はまとまったか?》
《あ、うん。ちょっと、本社の方に行かなくちゃいけなくて……お兄ちゃん達はどうする?》
《まあ、挨拶くらいはしておいた方がいいだろう。俺も行こう》
《私も》
《わかった》
お兄ちゃん達が電車に乗ると、かなり注目を集めてしまうから、ちょっと心配だけど、どっちにしても、いつまでも一夜の部屋にいるわけにもいかないし、どのみち私の拠点には行くことになっていた。
また観光したいとも言っていたし、私が配信活動をしている間、楽しんできてもらえたらいいと思う。
「一夜はどうする?」
「私はこれから朝ご飯を食べる」
「あ、起きたばっかりなのね」
そう言えば寝起きだったな。まあ、そういうことならゆっくり食べさせてあげるとしよう。
私は、みんなを伴って、一夜の部屋を後にする。
よくよく考えれば、本社までも転移でいい気はしないでもないけど、一応、こっちの世界では魔力が回復しないので、そこらへんは考慮した方がいいかな?
そう考えると、山から一夜のマンションまでの転移もいらなかったかもしれない。
今後は、こちらの世界に来た時は、なるべく公共機関を使うとしようか。
《お兄ちゃん、あんまりきょろきょろしてると不審者と思われるよ?》
《ああ、すまん。やっぱり、まだ慣れなくてな》
結局、電車を使っていくことにしたが、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、忙しなく辺りをきょろきょろしていて、余計に注目を集めていた。
まあ、電車の速度はまだ慣れないよね。お姉ちゃんはともかく、お兄ちゃんはこんなに早く走れないだろうし。
《また落ち着いたら私が案内してあげますよ》
《それは助かる。また頼むぞ》
《はい》
ユーリと観光の約束を取り付け、上機嫌な様子のお兄ちゃんとお姉ちゃん。
そう言えば、ミホさんはともかく、アリアは観光したいとか思わないんだろうか?
アリアにとっては、こちらの世界は相当珍しいと思うんだけど。
『んー、何というか、見た目には面白いんだけど、魔力的に興味のある場所が少ないっていうか……』
《ああ、この世界には、魔力がないもんね》
基本的に、妖精や精霊は、大きな魔力に惹かれる性質がある。
人が多い場所に妖精や精霊が現れるのは、人が持つ魔力に反応しているからだ。
後は、町の近くには竜脈が通っているというのもあるかもね。
そういうわけなので、魔力が全くないこの世界では、見た目には楽しめても、魔力の補給ができる場所がないという意味で、精霊にとってはつまらない場所なのかもしれない。
『ハクの側にいた方がよっぽど楽しいよ』
《そっか》
アリアとしては、私の側で、私の魔力をいただいている方が有意義なのかもしれない。
まあ、そういうことなら気にしなくてもいいだろう。気が変わったなら、その時にでも案内してあげたらいいかな。
「さて、着いたね」
しばらく電車に揺られ、本社へと辿り着く。
すでに一夜の方から連絡が行っていたのか、エントランスに入ると、有野さんが出迎えてくれた。
「ハクちゃん、お帰りなさい。一体どこに行っていたのかしら?」
「えっと……散策に?」
「まあ、無事ならいいのだけど……マンションに行っても全然出てこないからちょっと心配でね」
そう言って、困ったように笑う有野さん。
今は、『Vファンタジー』の方で契約したマンションの一室に住まわせてもらっているのだけど、結局その部屋は、一度訪れただけで全く使っていない。
有野さんとしては、私の居場所が確定して喜んでいたようだけど、行っても、連絡しても全然反応がないから、心配していたようだ。
流石に、ずっと一夜の部屋に行っていたという言い訳は通用しないだろうし、約二週間の間、私がどこかに行っていたのは、隠しようもない事実である。
どうしようかな……。有野さんにも、私が異世界の住人だということを話してもいいけど、信じてもらえるかどうか。
いやまあ、魔法とかを見せれば、嫌でも信じるかもしれないけど、そこまで行くと、扱いが過剰になりそうで怖い気もする。
ファンタジーを掲げるヴァーチャライバーの本社が、本物のファンタジーの住人を手に入れたとなれば、どんな反応をするのかわからない。
アケミさん達の時は、もう戻ってこないと思っていたから仕方なかったとはいえ、あんまりぺらぺらと話していい内容でもないのだ。
なので、ここはどうにか誤魔化すことにする。
幸い、そこまで詳しく追及はしてこないようだし、多分大丈夫だろう。
「とにかく、戻ってきてくれてよかったわ」
「はい。でも、何か問題があるんですよね?」
「ええ。アカリちゃんから聞いていると思うけど、例の配信のことでね」
いつまでもエントランスで話すのは何だということで、ひとまず会議室へと移動する。
さて、『Vファンタジー』としては、どう対処する気なんだろうか?
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