幕間:異世界の神
天使のルーシーの視点です。
私は、一時ハク様の下から離れ、神界に赴いていた。
というのも、先日現れた、クイーンについて、調べる必要があったからだ。
元々、この世界は別世界と交流をしていた背景がある。
神々がまだ地上にいた頃は、そうした技術を用いて、今よりもずっと進んだ文明を築いていた。
それはとてもいいことだし、だからこそ繁栄したと言えるが、それ故に、別世界から認知されていたということでもある。
世界にはそれぞれ神が存在し、その世界を管理している。
我らが神は、すでに地上の統治を諦め、竜達にその役目を譲っているが、別世界の神は、大抵が自ら管理をしている。
故に、自らの世界から離れることはほぼありえないが、一部には、そんな常識を無視して入ってくる輩もいるようだ。
それが、たまたまだったり、観光目的のような軽い気持ちで来たというなら構わない。こういう世界もあるんだなと、見識を深めて帰ってくれる分には、そこまで損にはならないからだ。
だが、そうでない者。この世界の神に気づかれないように、こっそりと入ってきた愚か者どもは、そうも言ってられない。
「奴らが入ってきたのは、恐らくここ数年の話のはず。それなのに、今まで全く感知できなかったというのはかなりの問題です」
あの泉を前にして、真っ先に神の関与を疑った。
泉に万病を治す機能を付けるなど、神でもなければそうそうできない。だからこそ、すぐに照会して、この世界の神が関与していないかを把握した。
結果は、白。あの泉を用意したのは、別世界の神だと判明した。
しかも、あの泉の水には、飲んだ者を眷属化する能力もあった。
眷属化は、単なる忠誠ではない。その気になれば、その神の言いなりにすることだってできる。
今の時代、人々が信仰する神は限定的になってしまったが、そのバランスが崩れたらどうなるか。
信仰によって成り立っている神々は、その力を弱めることになり、逆に相手は、力を強めることになる。
より力が強い者が世界を管理するとなったら、淘汰されるのはこちらの方になってしまうだろう。
そんなこと、絶対に許容するわけにはいかない。
「見る限り、入り込んできた異世界の神は数柱のようですが、いずれも強力な神のようですね。それも、どれもこれも禍々しい気配を持つ」
最初は、あのクイーンと言っていた奴だけかと思っていたが、調べた限り、他にも何柱かいるようだ。
クイーンが強力な力を持っているというのは嫌でもわかったが、他の神も同じような力を持っていると考えると、気が気でいられない。
もちろん、今の世界の信仰は、多くがこの世界の神々に向けられたものである。
たとえ眷属化する泉の水をばらまいたとしても、そうそうその勢力比は崩れない。
だが、数十年、数百年と続けられれば、どうなるかわからない。それに、眷属化の方法が、あの泉の水だけとも限らないだろう。
眷属化によって、世界中の人々の信仰が失われれば、こちらに勝ち目はない。
「しかし、このような神がいる世界など見たことがないです。一体どこの世界の神なのか」
もし、これらの神が、別世界からやってきた神だというのなら、そこを特定して、その世界の神に抗議すれば、回収してくれる可能性は高いだろう。
しかし、今までに観測してきた世界で、これらの神がいた世界を私は記憶していない。
大本がわからなければ注意もできないのが非常に面倒だ。
いや、仮にわかったとしても、あの邪悪さ。その世界から追放されたと言われても納得できるくらいである。
ならば、方法は、直接排除する以外になさそうか。
悪影響があるのがわかっているのに、別世界に丸投げするのも、こちらの世界の評判を下げかねないし。
「創造神様にも報告しておきましょうか」
すでに指示は貰っているが、これはきちんとこまめに報告しておいた方がいい案件である。
私は、創造神様の下に向かい、事の次第を報告した。
「あらあら、困ったものね。よっぽどかくれんぼが得意なのかしら」
「見逃していて申し訳ありません」
「気にしなくていいわ。けれど、このことについては、私も動く必要があるかも。報告は逐一して頂戴ね」
「承知しました」
今のところ、創造神様も奴らが何者かはわかっていない様子である。
クイーンは、誰かが苦悩している姿を見るのが好きだと言っていた。となると、それを見られるように誘導する可能性は非常に高い。
それに、お友達がどうとも言っていたから、他の神も、それぞれの思惑で動いている可能性は高いだろう。
今回の豊穣の神は、ただ単に眷属化をしているだけのように見えたが、それだけでも厄介だし、他の神はもっと厄介なことをしでかす可能性もある。
十分注意して、変化を見逃さないようにしなければ。
「あ、そうそう、ハクにはまだ伝えなくていいからね?」
「? なぜですか?」
「これは私達神の問題。まだ神の末席にも加わっていないあの子には、今は手に余ることだと思うから」
「なるほど、承知しました」
本当は、この後ハク様の下に報告に行くつもりだったが、そういうことなら、まだ報告はいいだろう。
もちろん、もう少し詳細がわかったなら、軽く伝えるくらいはしてもいいかもしれないが、創造神様がわざわざ言っているのである。
ハク様には、のびのびと過ごしてほしいのかもしれない。私も同じ気持ちだし、下手に干渉しすぎるのもよくないか。
「それじゃあ、よろしくね」
さて、もう少し調べてみようか。
天使のネットワークでは何も情報はなかったが、もしかしたら、他の神々なら何か情報を持っていてもおかしくない。
お手を煩わせるのはどうかと思わなくもないが、これは異常事態である。できる限り、確認はすべきだ。
「クイーン、必ず尻尾を掴んで見せますよ」
不敵に笑うクイーンの顔が浮かぶ。
女王などと、随分と大きく出たものだと思うけど、実際に、あの力は相当なものだった。
ハク様の攻撃なら、多少は傷をつけられたかもしれないが、倒せるかと言われたら、そんなことはないだろう。
いずれ、戦う時が来るかもしれない。その時に、せめて足手まといにならないように私も鍛えておかないといけないかもしれない。
最悪、天使達を総動員して、事に当たることになるかもしれませんね。
地上の情報は膨大だから、すべてを確認するのには相当な時間がかかる。
せめて、何か手掛かりくらいはすぐに見つかって欲しいと思いつつ、調査を続けるのだった。
感想ありがとうございます。




