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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第七章:ハクサリ本の行方編
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幕間:ハクサリの魅力

 主人公の親友、シルヴィアの視点です。

 私達は、ハクサリ本を世に広めるために、地道に活動を続けてきた。

 小さな出版社を立ち上げ、同士を集めて、ひたすらに布教を続けた。

 その結果、今ではそこそこの数の人々がハクサリ本に触れ、ファンも増えていった。

 今はまだ小さな一歩かもしれないが、いずれは世界中にこの尊さを広めていく、それが使命だと思っていた。

 しかし、注目を浴びれば浴びるほど、敵は増えていく。今回の件は、その一つだったんじゃないかと言えるだろう。


「あれから、カナディ出版は正式に倒産。残った従業員達は散り散りになり、もはや再起することは不可能」


「ようやく肩の荷が下りたって感じですわね」


 ある日、届いた脅迫状。それに続いて起こった襲撃事件。

 それらは、私達の成長を疎んだ、カナディ出版の仕業だった。

 別に、多少の襲撃程度なら、私達も、従業員達も、皆乗り越えられる自信はあるけれど、やはり命を狙われているというのは、それだけでストレスになりうる。

 特に、偽物とはいえ、営業停止命令書を受け取った時は、心臓が止まるかと思った。

 私達は、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。どんな妨害に遭おうとも、必ずや成長していかなければならないのだ。


「シェイダン伯爵はどうしてますの?」


「今のところは大人しくしていますわ。それどころか、暴走しそうな他のファンを抑えてくださっているようです」


 カナディ出版の時は、完全な悪意が原因だったが、その後に起こった襲撃もどきは、なんとファンの暴走が原因だったのである。

 私達は、基本的に、ハクサリの組み合わせで本を出している。

 王道であり、私達の中では最も需要が高いものだし、だからこそ、みんなにもそれを知って欲しいと考えていたのだ。

 それがまさか、他の組み合わせも出せと暴動を起こされるなんて思わなかった。

 いや、暴動というか、仲良くなって意見を聞いてもらおう程度のものだったけど、やり方が汚すぎて、呆れかえってしまうほどだった。

 もちろん、私達とて、他の組み合わせが嫌いなわけではない。むしろ、ハクを取り巻くカップリングは、どれもこれも尊いものばかりで、時間があるならもっと量産したいくらいである。

 そうしないのは、人手が足りないからだ。

 今いる従業員も頑張ってはくれているが、すべて手書きとなると、流石に人手が足りなさすぎる。

 今のペースだって、みんな相当頑張ってくれているのだ。これ以上無理をかけるわけにはいかない。

 だったら新しい従業員を雇えばいいじゃないかとも思うけど、以前、勘違い貴族が入ってきたことがあり、ニドーレン出版を乗っ取られかけたことがあったので、どうにも気が乗らないのである。

 あいつ、私達が全員女性なのをいいことに、主導権を握ろうとしていたのよね。

 自分は侯爵家の長男だから、いずれお前達はみんな俺の部下になるんだって。

 まあ、侯爵家は確かに家柄的には高い方だし、次期当主というなら地位は高いのかもしれないけど、その時はあくまでただの侯爵家の息子ってだけであり、身分としては私達とそう変わらない。

 むしろ、格式的にはニドーレン侯爵家の方が上だし、私達が率いている会社なのだから、主導権を握れるはずもない。

 最終的に、権力を振りかざして何とかしようとしてきたけれど、結局家から勘当され、平民に落ちたけどね。

 私達の会社が小さいから油断したんだろうが、そんな程度で潰されるような場所ではない。ただ、狙われやすいのは確かなようで、その後も何度か似たようなのが来たので、今後は雇うのは同じ志を持つ仲間であり、且つ女性であるという条件を付けたというわけだ。

 おかげで変な奴らが入ってくることはなくなり、みんなで楽しくやれている。

 まあ、目的を考えるなら、もう少し人手は増やしたいけどね。


「ようやく落ち着けたって気がしますわ」


「ええ。これもハクのおかげですわね」


 本来なら、悪意の差はあれど、二つ、いや、三つの勢力から襲撃を受けることになったのだからかなり危険な状況だったと言えるだろう。

 しかし、それらを無傷で乗り越えられたのは、ハクのおかげである。

 昔から、ハクは優秀で、一人で何でもこなしてしまうような万能型だったけれど、まさか三つの勢力すべてをほぼ一人で相手にしてしまうとは思わなかった。

 いや、竜であるハクなら、力という意味では何も心配していないのだけど、政略という意味では少し疎いところがある。

 カナディ出版はキーリエさんの力を借りられたけれど、他の勢力は下手をしたら丸め込まれる可能性もあった。

 だから、無事に切り抜けてくれて、ほっと一安心である。


「ファンの件もありますし、何か書きたいところですけれど」


「そうですわね。何かネタはないものか……」


 需要があることはわかったし、できればハクサリ以外の組み合わせも書いていきたいところではある。

 ぱっと思いつく限りでは、エルさん、カムイさん、テトさん、アリシアさんあたりかしら?

 いずれもハクの親友であり、学園時代も結構一緒にいた機会が多い人達である。

 エルさんは言わずもがなだし、カムイさんは最初不器用な感じだったけれど、今となってはサリアさん並みにべったりなのが尊い。テトさんとアリシアさんは、『サモナーズウォー』というカードゲームでよく一緒になっていたし、あの仲の良さはよほど深い関係にあるのだろうと思わせてくれる。

 他にも、ハクの結婚相手であるユーリさんもいるけれど、あれはカップリングではなく、本当にくっついているので、妄想を本にする私達としては、ちょっと違うかな、というような気もする。

 いや、性別の壁を越えてまで結婚したのだから、題材としては十分すぎるけれど。


「そう言えば、カムイさんが何か面白そうな商売をやっているとキーリエさんから聞きましたわね」


「ああ、確か、夢を見せる仕事、でしたか? 卒業してからは、あんまり会うこともなかったですし、全然調べてませんでしたね」


 夢を見せる仕事というと、娼婦でもやっているんだろうか?

 確かにカムイさんはスタイルはいいけれど、すでに聖教勇者連盟という立派な組織に所属しているらしいから、わざわざ娼婦になるとは考えにくい。

 そうなってくると、あまりイメージが沸かないんだけど、一体どんな仕事なんだろうか。


「ネタ探しのついでに、久しぶりに会いに行くのもいいかもしれませんわね」


「確かに。そのうち寄って見ましょうか」


 少なくとも、キーリエさんが言うのだから、危険な仕事というわけではあるまい。

 久しぶりに少し話すだけでも、いい刺激になりそうだし、個人的に会いに行く分にはいいだろう。

 ある程度、今の執筆に目途がついたら、寄ってみることにしよう。

 そう考えながら、今日も本を書き続けるのだった。

 誤字報告ありがとうございます。

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[一言] 見せられる夢ってVR感あるよね
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