第二百十四話:組織のボス
「それで、あなたは何なんですか?」
「こ、これは失礼しました! ええと、ベル様と言えばおわかりになりますでしょうか?」
「ベル……ああ、あの悪魔か」
以前、アースを助ける際に、悪魔と接触したことがある。
その時の悪魔の名が、ベルだったような?
なんだって悪魔の名が出てくるんだと思ったが、よくよく考えると、この人も悪魔ってことなんだろう。
服装は全然違うけど、その角は確かに悪魔っぽいし。
「悪魔が関わっていたんですね」
「は、はい、私、ニグと申します。一応、悪魔の端くれをさせていただいております」
「ならニグさん、あなたが豊穣の神の乳とやらを渡していたんですか?」
「そ、そうなります……」
話を聞く限り、ニグさんは悪魔召喚によって呼び出された悪魔の一人だったらしい。
ベルと違って、そこまで高位の悪魔というわけではないようで、呼ばれたはいいものの、どう願いを叶えたらいいかわからずにいたようだ。
で、そんな時にたまたま見つけた泉の水が、どうやら万病に効くということがわかり、これを使えば、契約者の願いを叶えることができるかもしれないと考え、渡した結果、暗黒の神として崇められる結果となったらしい。
本来、悪魔は契約以上のことはしない。対価を貰って、それにふさわしい見返りを渡すだけだ。
しかし、あまりに感謝されるものだから、ニグさんも嬉しかったらしく、そのまま神として崇められる代わりに、継続的に泉の水を渡すと約束してしまった。
それ以来、裏組織『黒き聖水』のボスとして、信者を増やすべく活動していたとのことだった。
「ほんとに悪魔なんですか?」
「い、一応……」
最初の願いはよくわからないが、恐らく、病気を治してほしいとか、そう言った感じの要望だったんだろう。
偶然見つけた泉のおかげで、その願いは叶えられたが、それによって狂信者が生まれてしまった。
本来なら、悪魔は契約が成立した時点で、去るべきである。
悪魔にとって、人間の願いを叶えるのはゲームの一つであり、その結果を見届けたなら、ひとまず身を引くべきだ。
しかし、感謝されることに慣れていなかったニグさんは、引き際を見誤り、結果として『黒き聖水』という組織を立ち上げてしまった。
別に、そういう悪魔がいてもいいとは思うけど、それが巡り巡ってシルヴィア達の危機に繋がったと思うと、ちょっと複雑である。
いったいどうやって責任を取らせてやろうか。
「なんでそんなに怯えてるんですか」
「いや、だって、ハク様には手を出すなと全悪魔に通達されているので……」
どうやら、ベルは私が神様もどきであり、神剣を扱えるということを伝えたらしい。
私を怒らせたら、最悪その地域ごと消滅させられるし、何なら悪魔全体を殲滅されるかもしれない。そう考えたからこそ、絶対に手は出すなと伝えていたようだった。
なるほど、過程はどうあれ、結果として私に手を出してしまったから、怯えているわけか。
でもまあ、流石にここで神剣を振るったりはしないよ。なんか、この人もそんなに悪い人じゃなさそうだし。
「まあ、それはいいとして、その泉って、どこにあるんですか?」
「ここから西にしばらく行ったところに、谷があるんですけど、その奥にポツンと……」
「ふむ、偶然ですかね」
怯えている理由はいいとして、今は泉の方が気になる。
聞いている限り、豊穣の神の乳は、別にニグさんが作り出しているというわけではないらしい。偶然見つけた泉の水が、そういう特性を持っているというだけのようだ。
しかし、普通に考えて、ただの泉の水が、万病に効く薬になるとは考えにくい。それに、眷属化の件もあるし、明らかに普通の泉じゃないだろう。
ニグさんが願いを叶えられずに困っているところに、偶然そんな泉が見つかったというのもおかしな話だし、何者かが意図的にそこに泉を置いたって考える方が自然である。
ただ、理由はわからない。そんなことをして、誰が得をするというのだろう。
強いて言うなら、眷属が増えるから、その豊穣の神が得をするのかもしれないけど、そもそも豊穣の神とは何者なんだろうか。
「ニグさん、その泉に案内してもらうことはできますか?」
「も、もちろんです! もう何でもしますよ!」
「いや、なんでもはしなくていいですが」
「い、いえ、こうなった以上は、誠意を見せないと、他の悪魔から殺されそうなので……」
まあ、確かに絶対に手を出すなと言われていた相手に手を出してしまったわけだしね。
私が気にしなくても、他の悪魔は気にする可能性はあるか。
そのあたりは、後でフォローしておいた方がいいかもしれない。
私としては、これ以上組織が存続しなければ、問題はないわけだし。
「とりあえず、『黒き聖水』は解散ってことでいいですね?」
「はい、大丈夫です!」
「恐らくあなたの契約者も警備隊に突き出すことになりますけど、構いませんね?」
「もちろんです!」
なんか、今なら何でも頷きそうな勢いだな。
まあ、楽でいいけど、悪魔としてのプライドとかないんだろうか。その辺、ベルは結構義理堅かった気がするけど。
「では、このアジトは押さえさせていただきますね。後は、泉に案内してください」
「いつでも行けます!」
「わかりました。では、今から行きましょうね」
ここにいる信者達は、とりあえず縛って放置だ。
時間がかかるようだったら、途中でエルに頼んで王様に伝え、引き取ってもらいに来るとしよう。
私は、ニグさんと一緒に外に出る。待機していたエルが、呆れたような表情でこちらを見ていた。
「ハクお嬢様らしいと言えばらしいですね」
「それ、どう言う意味?」
なんか、私なら何やってもおかしくないって思われてる気がする。
私だって、好きで神様もどきになったわけではないし、悪魔に要注意リストに入れられたわけでもないんだけどな。
まあ、それはいいとして、今はさっさと目的を果たすことにする。
「ここからどれくらいかかるんですか?」
「飛んでいけば1日もかかりませんよ」
「思ったより遠そう」
定期的に供給しているという話だったから、もっと近いのかと思っていたけど、そういうわけでもなさそうだ。
まあ、小瓶に入れて保存できるのなら、一度に大量に入手することも可能だし、そこまでおかしなことでもないのかな。
間に合わなそうなら、と思ったけど、先に信者の処理をした方がいいかもしれない。
路地裏に放置してきた人もいることだし。
「エル、王様に伝えてくれる?」
「かしこまりました。すぐに済ませます」
すでに夕方近くなってきたが、緊急の用件なら聞いてくれるだろう。
エルだって、竜の一人だしね。無碍にするとは思えない。
一応、シルヴィア達にも伝えておこうかな。
襲撃はもうないとは思うけど、私が離れている間に別の信者に襲われる可能性もなくはないし。
「ニグさん、悪いようにはしないので、しばらく付き合ってくださいね」
「は、はい、大丈夫です!」
何となくぎくしゃくしているが、まあ逃げ出そうとしないだけましだろう。
少なくとも、泉の存在を確認するまでは、逃げられては困る。
ないとは思うけど、ちゃんと魔力は覚えておかないとね。
「お待たせしました」
シルヴィアに伝えたりして待っていると、エルが戻ってきた。
王様に伝えたら、すぐにでも動いてもらえることになったらしい。
アジトの場所も伝えたので、後は騎士団が何とかしてくれることだろう。
シルヴィア達も、組織のボスを捕まえたと言ったら安心してくれたし、これでひとまずの処理は終わったと思う。
「さて、それじゃあ行こうか」
このまま行くと夜になりそうだが、仕方ない。
人気のないところに移動してから、翼を広げた。
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