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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第七章:ハクサリ本の行方編
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第二百九話:裏組織

 それからしばらくが経った。

 あれから、警戒して護衛を続けていたんだけど、エルが言っていた、殺気を感じることはなかった。

 まあ、微弱と言っていたから、感じ取れなかっただけかもしれないけど、こうも何もないと逆に不安になる。

 もう絶対に襲ってこないという確証があるならいいんだけど、気にかかることがある以上は、手を引くわけにはいかない。

 なんとしても、相手の正体を掴まなくては。


「と言っても、何者か全く不明だけど」


 ニドーレン出版の従業員に対する殺気ということは、ニドーレン出版そのものに恨みがあるか、あるいはその子個人に恨みがあるかの二択になると思う。

 無差別殺人犯で、誰でもよかったって可能性もあるけど、そんな奴が殺気を抑え込めるとは思えない。

 今までの傾向から考えると、ニドーレン出版そのものに恨みがあるって考えた方がよさそうだけど、どうだろうか。


「一応、その子のことを探ったりもしてみたけど、特に問題は見当たらなかったしなぁ」


 その子だけでなく、ニドーレン出版に所属する従業員全員のことをある程度調べてみたけど、特に恨みを買うような子はいなかった。

 まあ、私が調べた限りだから、もしかしたらどこかで恨みを買ってる可能性はあるけど、そこまで考えたら、この世で恨みを買ってない人間を探す方が難しくなるだろう。

 少なくとも、何か大きな組織に狙われているとかはなさそうだし、みんな清廉潔白な人物と見ていい。

 やはり、ニドーレン出版に対する恨みと思った方がよさそうだ。


「考えられるのは、単純なアンチとか?」


 今でこそ、ニドーレン出版の世間からの評価は回復しつつあるが、中には世論の流れについて行けず、いつまでもニドーレン出版を叩いている人達もいる。

 彼らの言い分は支離滅裂であり、周りの人達は冷ややかな目で見ているけど、そこそこの数がいる。

 もちろん、殺人をしようって程過激な人は少ないと思うけど、もしかしたら勢い余ってって可能性もなくはない。

 ただ、そうした理由の場合、殺人の理由は衝動的なものだろう。

 エルが感じた殺気はかすかなものだったらしいし、明らかに殺気を隠すことに慣れた人物だったはず。

 そんな、衝動で動く人達が、そんな繊細なことをできるとは思えない。

 まあ、腕のいい殺し屋を雇ったって言うなら話は別だけどね。


「あるいは、本当に裏組織が関わっているか」


 あの時は、シェイダン伯爵達のことかと思ったけど、あれは別に裏社会の人間というわけではない。

 隠れて活動をしていただけであって、裏組織とは言えないかもしれない。

 であるなら、キーリエさんの言っていた裏組織がまた別にあり、まだ狙っている可能性もある。


「情報が全くないのが痛いなぁ」


 一応、カナディ出版を当たってみるという手はある。

 もし、裏組織がカナディ出版と繋がっているのなら、カナディ出版にはその痕跡があるかもしれない。

 確か、今は編集長が逮捕されて、牢屋に入れられているんだっけ?

 営業停止命令を食らったが、そもそもニドーレン出版に対して偽の営業停止命令を送った主犯だし、それ以外にも数々の悪事に手を染めてきたことが明らかになっている。

 もし、編集長の口を割らせることができれば、一気に進みそうだけど、流石にそこまでうまくはいかないかな。


「ちょっと忍び込んで見ようか」


 あんまり、人様の家に忍び込むのはよくないかもしれないけど、流石に今回は状況が状況である。

 カナディ出版が確実に悪いとは言えないかもしれないけど、情報がある可能性は高いし、いい加減この襲撃騒動を終わらせたいという気持ちもある。

 今なら、たとえばれても、カナディ出版が情報を世に出すことはできないし、リスクも少ないだろうしね。


「そうと決まれば、さっそく潜入だ」


 もちろん、絶対に見つからないように対策はする。

 私の隠密魔法は、探知魔法でも見つけられないくらいの高精度だから、意図的に見つかりに行かない限りは多分大丈夫だろうけど、変装くらいはしておいた方がいいだろう。

 最悪、どうしようもなくなったら、頭をぶつけて記憶を失ってもらうしかない。

 まあ、そんな心配しなくても大丈夫だと思うけどね。


「さて」


 準備を整え、さっそく件のカナディ出版へと赴く。

 以前は、結構人の出入りも激しかった場所だが、今ではすっかり寂れた雰囲気が漂っている。

 一応、営業停止命令を食らっただけで、建物自体を接収されたわけではないから、ここを寝床にしている人もいるみたいだけど、活動ができない以上、いずれは手放すことになるだろうし、沈みゆく泥船って感じだね。

 これだけ人が少ないなら、見つかるリスクも少ないだろう。

 そう思って、私はそっと中に入っていく。

 建物は三階建てで、一階では本の販売を行っていたようだ。

 現代の本屋のように、本が並べられているわけではないから、ちょっと寂しい印象を受けるけど、まあ、図書館でもなければこんなものだよね。

 階段を見つけて二階に上る。

 二階は居住スペースのようで、宿屋のように廊下に沿って部屋が並んでいる。

 今はほとんどの人がいなくなっているようだけど、探知魔法で見る限り、まだ入っている人もいるようだ。

 ん-、生活スペースに何かある可能性もあるけど、とりあえずは経理関係を見たいかな。オフィスは三階だろうか。

 二階をスルーし、三階へと上がる。

 予想通り、ここでは執筆や製本を担う場所らしい。会議室のような場所もあり、なかなか立派な場所だ。

 ここなら、何か手掛かりがあるだろうか。


「えーと……?」


 デスクとかをごそごそと漁ってみるが、有用そうな情報は見当たらない。

 まあ、出版社らしく、歴史の資料とか、町の噂とかの情報はたくさん出てきたけど、これはすでに知っている情報だ。

 もっとこう、核心に迫るものはないだろうか。


「あ、ここ底が外れるね」


 奥にあった机の引き出しを漁っていると、ぱかっと底が外れるようになっていた。

 隠し底って奴? いかにも何かありそうな雰囲気だ。

 中を覗いてみると、そこには一冊の本と、小瓶に入った黒い液体があった。

 とりあえず、本の方から見てみようか。


「んー、これって、裏帳簿って奴?」


 一応、すでに帳簿は見つけていたんだけど、それとは別に、もう一つ帳簿があったらしい。

 中を見てみると、確かに不自然な金の流れがあるのがわかる。

 中には、金貨数十枚単位が動くタイミングもあるみたいだし、明らかに何か裏取引をしていたって感じだ。


「万能薬って言うのを買っていたみたいだけど、これのことかな?」


 裏帳簿には、かなりの高額で取引された痕跡がある。

 万能薬か。なんか、嫌な予感がする。


「……やっぱり」


 残された小瓶を【鑑定】で覗いてみると、どこかで見たような文章が書かれていた。

 豊穣の神の乳。確か、以前学会発表に行く際に、道中で倒した奴らが持っていたよね。

 確認のために【ストレージ】から出してみると、確かに同じもののようである。

 まさか、あいつらが関わってるの? ただの弱小カルト集団だと思ってたのに。

 まさかの相手に、私はうーんと唸るしかなかった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかそんな奴らもいた気がするなぁ
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