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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第七章:ハクサリ本の行方編
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第二百八話:問題を解決して

「……言いたいことはわかりました」


 しばらく沈黙が続いたが、シルヴィアはそう言ってシェイダン伯爵の下に近づいていく。

 拘束魔法で動けなくしているとはいえ、ちょっと危ない気もするけど……。

 ひとまず、何かあったらすぐに動き出せるように準備はしておく。


「つまり、あなたは私達に無理矢理サリハクを書かせようとしたわけですね」


「む、無理矢理など、滅相もない! た、ただ、一つの意見として聞いていただきたく……」


「でも、書かなかったらあの襲撃もどきを続けるつもりだったのでしょう? 私達の心証が良くなるよう、何度も何度も」


「そ、それは……」


 シルヴィアの言葉に、二の句が継げないシェイダン伯爵。

 どう言い繕っても、彼らがやったことは犯罪だ。たとえ襲撃で相手を傷つけるつもりがなかったんだとしても、脅迫状を送り、襲撃で相手を怯えさせたのは事実である。

 私が即座に助けに入っていたおかげもあって、従業員達がトラウマを持つことはなかったわけだけど、それは結果論であり、下手をすれば精神的に参っていてもおかしくなかったのである。

 極論、新たな構想を思いつけなくなるかもしれないし、本を書く手も震えてしまうかもしれない。

 悪気がなかったとしても、やってはいけないラインを余裕で越えているのだ。


「私は別に、ハクサリだけを推しているわけではありません。サリハクだって好きですし、他の絡みもいずれ書きたいと思っています」


「お、おお! それでは……」


「しかし、それは誰かに強制されてやることではありません。私達の使命は、この素晴らしい聖域を世に広めること。好いてくれるのは嬉しいですが、そこに口を出されるのは問題外です」


「うっ……」


 ぴしゃりと言われて、肩を落とすシェイダン伯爵達。

 本の当事者としては少し複雑な気分だけど、本を好いてくれるのはいいことだ。

 暴走したのはよくないけれど、しっかりと線引きをして、著者とファンという関係を構築できるのなら、そう悪いことばかりでもない。

 ある意味で、ここまで好いてくれているのは、著者としては喜ばしいことかもしれないしね。


「ですが、私達が書いた本を、好きだと言ってくれるのは喜ばしいことですわ。その気持ちに、嘘はないんでしょう?」


「も、もちろんです」


「ならば、今後は、脅迫も襲撃もやめること。そうすれば、今回だけは不問にしてあげますわ」


「ほ、本当ですか!?」


「ええ。ですが、もしまた同じようなことが起こったら、容赦なく叩き潰します。それでよろしいですわね?」


「は、はい! 今後は二度と、このようなことは致しません!」


 動けなくしているからぎこちないけど、みんな頭を下げている。

 反省しているのは本当みたいだし、シルヴィアがそう言うなら、私もこれ以上どうこうする気はない。

 本当は王様に突き出すつもりだったけど、ちょっと報告するくらいでいいだろう。


「よかったの?」


「ええ。襲撃されたことはむかつきますけど、好きという気持ちに従ったのなら、強くは言えませんわ」


 彼らを帰し、三人だけとなった応接室で、改めて話をする。

 シルヴィア達も、元々は好きだからという理由で出版社を始めたのだ。

 それは、安定した国の研究者という職を捨ててまで情熱を持って起こした行動であり、自分の好きに従って動いた結果である。

 やり方は間違っていたが、彼らもまた、自分の好きに従って行動した結果、こんなことになってしまったのだから、シルヴィアとしては、そこまで責めたくないのかもしれない。

 まあ、幸い、こちらの被害は何もない。せいぜい、今後の護衛代がかかるくらいか。

 あの様子なら、二度と馬鹿な真似は起こさないだろうし、要注意リストに入れておくくらいで問題はないだろう。

 次また同じことをやったら、その時は私も容赦しないしね。


「ハク、協力感謝しますわ。おかげで、今後も活動を続けていけそう」


「解決したならよかったよ」


 これで、ニドーレン出版を取り巻く脅威はなくなったと言っていいだろう。

 懸念があるとすれば、キーリエさんが言っていた裏組織だけど、それは恐らくシェイダン伯爵達のことだろうし、問題は解決済みと考えていいと思う。

 一応、しばらくの間は様子を見るつもりだけど、もし何もないようだったら、護衛をやめてもいいと思う。


「需要があることはわかりましたし、ハクを巡った他の本も書くのもいいかもしれませんわね」


「書いてもいいけど、ほどほどにしてね? 恥ずかしいから」


「あら、恥ずかしがることなんてありませんわ。ハクサリの尊さは、全人類が知るべきことですわ」


「そ、そう……」


 ま、まあ、シルヴィアがそういうなら止めはしないけど、大丈夫かなぁ……。


「そうだ、せっかくですし、何かネタはないんですの?」


「最近サリアと遊んだりしてませんの?」


「最近は、あんまりないかなぁ……」


 ちょくちょく遊びに来ることはあるけど、遊びには行ってない気がする。

 せいぜい、町を見て回ったり、家の中でカードゲームしたりするくらい。

 そう言えば、またどこかに遊びに行きたいと言っていた気がするし、今度旅行にでも行ってみようかな。


「そうなんですのね」


「また今度、遊びに誘ってみるよ」


「そうなったら、ぜひ教えてくださいまし。参考にさせていただきますわ」


「気が向いたらね」


 すでに夜だというのに、元気な二人としばらく話した後、私はニドーレン邸を後にする。

 外に出ると、エルが待ち構えていた。

 そう言えば、今回は襲撃がなかったから、結局待ちぼうけさせちゃったね。


「エル、お待たせ」


「はい。滞りなく済んだようで何よりです」


 どうやら、外から話を聞いていたらしい。

 エルとしては、ごろつきの相手ができなくて残念かもしれないけど、襲撃はないに越したことはないからね。これでよかったと思っておこう。


「この後は、様子を見て護衛は取りやめになると思うよ」


「よろしいのですか? また襲撃してこないとも限りませんが」


「多分、大丈夫だと思うよ。流石に、あれだけ言われてまたやるとは思えないし」


「だといいのですが」


 話しながら、夜道を歩く。

 空を見上げると、半月が淡く輝いていた。


「何か心配事でもあった?」


「いえ。ただ、かすかに殺気を感じたものですから」


「殺気?」


 殺気とは、また穏やかじゃないね。

 エルによると、襲撃が来ないかと従業員を監視していた際、かすかに殺気を感じたのだという。

 それはかなり微弱で、しばらく待っていても襲ってくる様子はなかったので、その時は護衛を優先して手を出さなかったが、何者かが従業員を狙ったのではないかと心配だったようだ。

 シェイダン伯爵の言うことが本当なのだとしたら、彼らは従業員を殺す気などまったくなかったはず。殺気があるのはおかしい。

 まさか、まだ誰かに狙われているんだろうか?


「これは、まだまだ護衛を続ける必要がありそうだね」


 エルの気のせいならいいが、そうでなかった場合、大惨事になる可能性もある。

 しかし、すでに狙われる要素など何もない気がするけど、一体どこの誰なんだろうか。

 私は、そのことを気にかけつつ、家に帰るのだった。

 感想ありがとうございます。

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[一言] やっぱりあの違和感あったところかな
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