第二百六話:秘密の集会
時刻は夕方。いつもなら襲撃が起こっていてもおかしくない時間だが、今回はごろつきどもはやってきていないようである。
アリアの話だと、襲撃の際にはこの家にいる人物が近くにいたという話だし、もし本当にマッチポンプを狙っていたのだとしたら、今は出向いていないようだし、今回は襲撃する意味がないからしていないってことなんだろう。
流石に、毎日の襲撃は疲れたんだろうか。それとも、諦めたとか?
諦めてくれたのなら、それはそれでいいけれど、それだと尻尾を掴めなくなるからもうちょっと待って欲しいけどね。
「あ、出てきた」
さらにしばらく待っていると、家から一人の男が出てくる。
家にいる人物の年齢からして、この男がフォルネであるということは間違いない。
フォルネは、辺りを少し見渡した後、どこかに向かって歩き出す。
私は、気づかれないようにその後を追った。
「ここかな」
辿り着いたのは、中央部の中でもかなり端の方にある空き家である。
中央部には、基本的に貴族が住むため、空き家になることはあまりないと思ったんだけど、上級貴族はともかく、下級貴族や、お金持ちの商人なんかは、ちょっとしたことで財政が崩れると、一気にここにいられなくなる。
だから、そう言った人達が泣く泣く手放していった家が空き家となって、いくつか残っているようだった。
まあ、私が今住んでいる家もそんな感じで手放された家みたいだしね。よくよく考えればおかしなことでもない。
フォルネは辺りを一層警戒した後、空き家の中に入っていく。
どうやら、ここで何かが行われているようだ。
「探知魔法で見る限り、中にも誰かいるみたいだね」
数は、およそ10人程度。ホームレスが居ついているって可能性もなくはないけど、流石に中央部でそれはないだろう。
これだけ集まっているとなると、話し合いでもするんだろうか? それとも……。
とにかく、外から見るだけではわかりにくいので、隠密魔法で姿を隠し、中へと潜入する。
中にいたのは、みんな身なりのいい人達だった。明らかに、貴族である。
生憎、知っている顔はいなかったけど、全員貴族だとするなら、結構な数の貴族が関わっていることになりそうだね。
「同志フォルネ、よく来た」
中にいた貴族っぽい人達は、そう言ってフォルネを迎え入れる。
どこから引っ張ってきたのか、椅子に腰を掛け、まるで円卓会議のように円を描いて向かい合う。
同志とか言っていたけど、なんの集まりなんだろうか?
「それで、進捗の方は?」
「全くダメです。対応が早すぎて、手を出す暇がありません」
「うーむ、やはりそうか」
どうやら、襲撃の件について話しているらしい。
話を聞く限り、アリアの予想通り、マッチポンプを狙っているようだった。
ごろつきどもに襲撃させ、それを華麗に助けることによって、ニドーレン出版に近づく、それが目的のようである。
「護衛はあのハク様だからな。入り込む余地がないのも仕方がない」
「しかし、いったいどうやって感知しているんでしょうな。毎回、ハク様は全く別の場所におられたのだろう?」
「間違いなく。悉く、襲撃の時間になると、路地裏に消えていかれて、後を追うと姿がなく、気が付くと襲撃場所に現れていると言った形ですな」
「瞬間移動でも使えるんだろうか。いや、ハク様ならありえるか」
「違いない」
私がごろつきどもを瞬殺しているせいで、計画はストップしている様子。
それだけ聞くなら、いいことではあるんだけど、どうにも言い方が気にかかる。
ハク様って何? なんで私のこと様付けで呼んでるの?
そりゃ確かに、私はそれなりに有名人だし、中には様付けで呼んでくる人もいるっちゃいるけど、この人達にとって、私は計画を邪魔するお邪魔虫なはずである。
なのに、むしろ、私に対して敬意すら感じられる話し方である。
いったいなぜそんな呼び方になっているんだろうか?
「このままでは、無駄に金を費やすことになる。別の作戦を考えた方がいいのでは?」
「そうですな。しかし、どうしたものか」
「道中の襲撃でダメなら、家に直接忍び込むのはどうか? 流石のハク様でも、そう簡単には来られないと思うが」
「いや、流石にそれはリスクが高すぎる。あくまでも、襲撃は好感度を上げるための手段に過ぎない。あまりに度を越えすぎて、嫌われてしまっては元も子もないぞ」
でもまあ、こいつらが襲撃の元凶であることは間違いなさそうだし、呼び方はどうでもいいか。
問題なのは、こいつらをどうするべきかという話である。
ここで、全員一網打尽にしてもいいけど、こいつらの何人かは恐らく上級貴族だろう。警備隊に引き渡したとしても、すぐに釈放されるのが落ちである。
そうできないようにするためには、王様とかに直接引き渡すしかないと思うけど、今の時間に押しかけるのはちょっと気が引ける。
引き渡すのではなく、私刑で済ませるというのも手だけど、それをやるとしても、やるのは私ではなく、シルヴィア達がやるべきだ。
つまり、王様に引き渡すか、シルヴィア達に引き渡すかの二択ってことになる。
正直、私も少しはむかついてはいるんだけどね。マッチポンプのために、何度も何度も襲撃したんだから。
単純に、シルヴィア達が可哀そうだし、それでもしうまく行っていたら、すり寄ってこられたかと思うと、虫唾が走る。
個人的に制裁を加えつつ、シルヴィア達に引き渡すのが、一番丸いだろうか。
その上で、反省が見られないようなら、正式に王様に引き渡すって感じにすれば、もう悪さもできないだろうし。
うん、まずはこいつらを捕まえてしまおう。
「そうと決まれば……」
私は、闇魔法で相手を眠らせる。先程まではきはきと話し合っていた人々は、皆その場に倒れ伏した。
隠密を解き、近づいてみても反応しないので、確実に寝ているだろう。
後は、こいつらを運ぶだけだ。
「この数を運ぶのはちょっと面倒だったかもしれない」
全部で11人。一人を抱えるくらいなら楽だけど、流石にこの数を一気に運ぶのは骨が折れる。
まあ、浮遊魔法を使えば、運べないことはないけどね。
あんまり人目に付きたくはないが、今はもう夕方である。人通りは少ないし、いたとしても隠密魔法がある。
だから、多分大丈夫だろう。
「さて、素直に白状してくれたらいいけど」
今のところ、作戦を聞いたのは私だけである。それだけでは信憑性に欠けるし、言い逃れられたら捕まえられない可能性もある。
まあ、王様なら信じてくれそうではあるけどね。
もしもの時は、ちょっと圧をかけてあげようか。私の実力はわかっているようだし、抵抗することはないと信じたい。
私は浮遊魔法で全員を浮かせ、隠密魔法で隠す。
さて、シルヴィア達の下に連れて行こうか。
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