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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第七章:ハクサリ本の行方編
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第二百五話:警備隊の証言

 翌日。私は再びニドーレン出版を訪れた。

 シルヴィアが、さっそく警備隊に問い合わせをしたらしく、その結果を報告したいとのことだったので、ちょっと早めに足を運んだのである。

 さて、何か情報は掴めたんだろうか?


「ハク、おはようですわ」


「おはよう。何かわかった?」


「ええ。どうやら、裏で手引きしている貴族がいるようですわ」


 そう言って、シルヴィアは警備隊から聞いた内容を話し始める。

 まず、捕まえたごろつき達だが、数日中に、皆解放されているらしい。

 本来、貴族を襲ったというだけでも結構な重罪だし、よくても鞭打ちの刑だったり、片腕の切断刑だったり、下手したら処刑だってあり得るのである。

 それなのに、とある貴族の介入によって、ごろつきどもは皆即座に解放。何のお咎めもなしである。

 警備隊も、これは流石におかしいと思っているのか、上に報告すべきか迷っている様子だったという。

 貴族による介入によって解放されるごろつき達。それだけで、裏に貴族が絡んでいるのが簡単にわかる構図だね。


「その貴族の名前は?」


「フォルネ・フォン・アルカスという男らしいですわ」


「有名な人ですか?」


「いえ、アルカス家は、ごく普通の男爵家で、特に政務に関わってもいなければ、何か特別な事業をしているわけでもない、いわゆる貧乏貴族ですわね」


「とてもじゃないですが、ごろつきどもを保釈するお金を出せるとは思えません」


 シルヴィア達によると、貧乏貴族ではあるが、その歴史はそれなりに古く、それ故に中央部に居を構えられているらしい。

 アーシェの言うように、保釈金を出せるほど裕福ではないので、一人や二人ならともかく、数十人単位を即座に保釈させる能力を持っているとは考えにくい。

 となると、考えられることは一つ。


「裏に何かいるっぽいね」


「ええ。誰かが資金援助をしているんでしょう」


 恐らくは、そのフォルネという人物は捨て駒なんだろう。

 貴族ではあるが、いついなくなっても問題ない、使い勝手のいい駒。そういう認識なんだと思う。

 後ろにいるのは、恐らく上級貴族だろうな。

 保釈金はそんなに安くはないし、それを数十人分用意できるとなると、結構大きな家だと思う。

 その男から、何か辿れないだろうか?


「すでに調べていますわ」


「フォルネという人物は、ここ最近よく外出をしているらしいですわ。そこを尾行できれば」


「黒幕に会えるかもしれないと」


「そういうことですわ」


 何者かが裏にいる以上、そいつから指示を受けているわけだし、手紙なり、直接出向くなりしているはずである。

 外出が多いということは、恐らく直接出向いて指示を貰っているんだろう。

 ちょっと不用心な気はするが、うまく尾行できれば、裏に誰がいるのか把握できるかもしれない。


「そうと決まれば、さっそく尾行してみるね。その家はどこかわかってるの?」


「ええ、もちろん」


 シルヴィアは、地図を出して場所を教えてくれた。

 さて、いつ行っているかは知らないけど、とりあえず今日から張り付いてみよう。


「エル、しばらくみんなの護衛をお願いできる?」


「お任せ下さい。指一本触れさせません」


 夕方に出てくるかもしれないし、襲撃に合わせられると動けない。

 なので、エルに護衛を頼むことにした。

 エルであれば、間違っても従業員を怪我させるようなミスはしないだろう。

 まあ、ごろつきの方が死ぬ可能性があるけど。


「ハク、どうか気を付けて」


「うん。必ず証拠を掴んでくるね」


 シルヴィア達と別れを交わした後、さっそくアルカス家に向かう。

 アルカス家があったのは、中央部の中でも端の方だった。

 古い家と言っていたから、中央寄りにあるのかと思っていたけど、そんなことはないらしい。

 見た目を見る限り、私の家より小さい気がする。貧乏貴族というのは本当のようだ。


「さて、いるかな?」


 私は早速探知魔法で中の様子を探ってみる。

 中に感じた気配は四人。フォルネというのがどれなのかはわからないけど、もし、門番が言っていた若い男と同一人物だとしたら、恐らく対象は一人に絞り込めた。

 恐らく、自室にいるのだろう。何か作業をしているのか、その場から動かない。

 さて、とりあえず、出てくるまで待機だね。


「アリア、今回の件、どう思う?」


 しばらく暇になりそうなので、一緒についてきているアリアに話を聞いてみることにした。


『どうって言われても、不可解な事件ってことくらいかな。何がしたいのかさっぱりわからないよ』


「だよね。ごろつきどもをけしかけて、何がしたいのかわからない」


 脅迫状の内容が真の目的だとするなら、観光本を出されちゃ困る理由があるんだろうけど、今のところその理由もわからない。

 何度読んでみても、何か問題がある風には見えなかったし、このアルカス家だって、別に本に載っているわけでもない。

 裏にいる貴族家が載ってたりするのかな? 載ってるだけで、脅迫状送るのは違う気もするけど。


『ああでも、ごろつきをけしかけていたのは、マッチポンプで助けたかったんじゃないかなって感じがするよ』


「マッチポンプ? どうして?」


『だって、この家の人の気配と同じものを、襲撃の時にも感じたから』


「え、ほんと?」


 それはかなり重要な情報じゃないだろうか。

 でも確かに、フォルネがごろつきどもを雇っている理由を考えれば、その線も十分に考えらえる。

 例えば、ごろつきどもに襲わせて、そこをフォルネが助けに入り、恩を売る。その後、ニドーレン出版に対して何かしらを要求するという形であれば、わざわざ意味不明な脅迫状を送った理由もわかるし、ごろつきがめちゃくちゃ弱いのも納得できる。

 つまりは、初めから殺す気などなかったというわけだ。


「となると、狙いはニドーレン出版とのコネ?」


 貧乏貴族だから、お礼にお金を要求する可能性もなくはないけど、裏に資金援助をしている人物がいるのだとしたら、それは考えにくい。

 お金では買えないものとなると、ニドーレン出版に対するコネくらいしかないだろう。

 出版社に対するコネってなると、何か自分達の都合のいい内容を本にして欲しいってところだろうか。

 ニドーレン出版は、世間一般からするとマイナー出版社だし、儲け話という形で持ち掛ければ、靡く可能性もあると考えたのかもしれない。

 脅迫状は、恐らくカナディ出版の送ったものに便乗した形なんだと思う。要は、ごろつきを仕向ける理由さえあれば何でもよかったというわけだ。


「でも、そこまでして何をやらせたいんだろう」


 保釈金のことを考えると、今回の件で相当な金を使っているはずである。

 そこまでして、ニドーレン出版に何をさせたいのかがよくわからない。

 ただ単に何か書いてほしいなら、要望を送るなり、最悪直接脅してやればいいだけの話な気がするんだけどな。

 私には想像もつかない、恐ろしいことでも考えているんだろうか。だとしたら、何としても阻止しなければならないけど。


「とにかく、今は大本を確認しないとね」


 どちらにしろ、裏にいるのが何者かを確認しなければならない。

 私は、ひたすらフォルネが出てくるのを待った。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんかもうハクサリ過激派なんじゃないかと疑ってる
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