第二百四話:門番の証言
その後、そう言えばと思い出し、門に向かうことにした。
というのも、ごろつきが初めから中央部にいるとは考えにくく、来たとするなら外縁部からだと推測できる。
であるなら、中央部に入る際に、中央部の門にて門番と対面しているはずである。
一人や二人ならともかく、あんないかにもなごろつきが数十人と入ってきているのだから、門番だって覚えているかもしれない。
中央部に入る際には通行料が必要になるので、それを払った何者かもいるかもしれないし、門番であれば、何か情報を持っているかもしれないと思ったのだ。
「すいません、少しいいですか?」
「おお、ハク様ではありませんか。いったいどんな御用でしょうか?」
私自身、ギルドやお店に行くために結構利用することがあるので、門番とは顔なじみである。
様付けで呼ばれるのはちょっとあれだけど、今はそれは置いておこう。
私は、さっそくごろつきについて聞いてみることにした。
「ここ最近、いかにもなごろつきって人を通したことはありませんか? 数十人くらいいると思うんですが」
「ごろつき、ですか? ああ、確かに何人か通しましたな」
門番の話によると、確かにごろつきっぽい見た目の人を通したことはあるらしい。
中央部は確かに貴族が多く住む場所であり、治安は維持されるべきだが、通行料さえ払えば、たとえごろつきであろうと入ること自体はできる。
中で何か問題を起こしたら即刻捕まり、外縁部よりも厳しく処分されるだけで、明らかにルール違反をしているでもない限りは、通す決まりになっているのだとか。
「身なりも整っていないし、通行料を払えるか心配ではありましたが、その時は、一人の貴族らしき男が代わりに払っていましたな」
「え、貴族の男?」
どうやら、ごろつきどもを手引きしたのは貴族の男らしい。
貴族がわざわざごろつきを中央部に入れる? これは一気に怪しくなってきたな。
「その男について、何か知ってたりしませんか?」
「いえ、あまり見ない顔だったので、詳しくは。ただ、本を何冊か押し付けられましたな」
「本?」
「はい。まあ、職務中でありましたし、本にはあまり興味もなかったので、読まずに保管したままになっておりますが」
門番にわざわざ本を渡すって、どういうことだろうか。
ごろつきどもを入れたことを見逃してもらうための賄賂とか? いや、別にルール違反を犯していたわけではないし、仮に賄賂だとしても、それだったらわかりやすくお金を渡すだろう。
確かに本は高価だが、賄賂として使うにはちょっとマニアックすぎる。
「その本、見せてもらうことはできますか?」
「ええ、もちろんです。今お持ちしますね」
そう言って、門番は屯所の中に入っていくと、しばらくして数冊の本を持ってきた。
いずれも割と薄く、重ねてもそこまで嵩張らなさそうである。
さて、タイトルは?
「……え?」
その本を見て、どうにも違和感があった。
というのも、どこかで見たことがあったような気がしたからだ。
どこだったかなと思いながら手に取って見て、それがどこだったのかようやく思い出す。
それは、先ほどまでいた、ニドーレン出版でだった。
「どういうこと……?」
タイトルを見る限り、この本はいずれも私とサリアの絡みを書いた本である。
なぜその男がこの本を持っていたのかもわからないし、わざわざ門番に渡したのかもよくわからない。
え、まじでどういうこと?
確かに本ではあるけど、この本ってそんなに高くはなかったような気がするんだけどな。
シルヴィア達が、なるべく多くの人に読んでもらうために、あえて値段を少し落としていると言っていた気がする。
仮に本を賄賂に使うんだとしても、これは流石に適さないだろう。
いったい何をもってこの本を選んだのか、全く理解できない。
「何も考えずに、本だからという理由で選んだ、とか?」
本は高価だから、賄賂として使えるかもしれない。そして、この本はそこまで高くない値段で売られている。
安く仕入れ、それを高値だと偽ることによって、出費を抑えようとしたと考えれば、理解できないことはない。
いや、だとしてもおかしいだろう。
確かに、本は手書きであるが故に、数が少ないが、この本に関しては、シルヴィア達がめちゃくちゃ頑張っているおかげか、本としては結構な数が出回っている。
貴族用の店だけでなく、普通の店でも売られているものだし、何なら図書館にだって置いてある。
知名度は確かに低いけど、見る人が見ればすぐにわかる代物だ。
それを賄賂して使うくらいだったら、素直に金を握らせた方がましである。
というか、そもそも賄賂を渡す必要すらない。
ごろつきを中央部に入れたことはあまりよく思われないだろうが、別にルール違反というわけではないのだから。
「お役に立てたかな?」
「あ、はい、ありがとうございます」
とにかく、ごろつきどもの後ろには、貴族が関わっているということはわかった。
確かに、考えてみれば、中央部に入る時点で、貴族の手引きがあってもおかしくなかったもんね。そこは盲点だった。
後は、その貴族の男が誰なのかがわかれば、一気に事は進みそうである。
「その男の特徴とかって覚えてますか?」
「ふーむ、若い男だったということくらいでしょうか。詳しくは覚えてませんな」
「そうですか。わかりました、ありがとうございます」
私は門番に本を返し、その場を後にする。
お次はその貴族を追いたいけど、若い男というだけでは流石に追えないよなぁ。
でも、その男がごろつきどもを大量に中央部に入れたことは事実だし、もしかしたら目撃者がどこかにいるかもしれない。
これは聞き込みしてみるべきかな。
「うまく尻尾が掴めるといいんだけど」
ひとまず、大通り近くの人から聞き込みを開始しよう。
そう思って、中央部の方へと戻っていった。
それから何人かに話を聞いてみたんだけど、確かにごろつきどもを引き連れた男を見たという人はそれなりにいた。
ただ、あまり外に出ない人物なのか、顔を知っている人はおらず、どこかの貴族家の次男とか三男なんじゃないかと噂されているようだ。
場所の特定までは流石にできなかったが、ここまで来た以上は、王都に住む貴族というのは確定でいいだろう。
この調子で聞き込みを続けていれば、いずれは家も特定できるかもしれない。
「ひとまず、情報収集はまた明日かな」
そろそろ夕方に差し掛かってきたので、襲撃が来る時間が迫っている。
もう、襲撃が来すぎて、いつ来るのか何となくわかるようになっちゃったよ。
今日は誰が狙われることやら。
そんなことを考えながら、襲撃を退ける準備をするのだった。




