第二百二話:裏路地を回ってみて
次の日。私は今一度観光本で紹介されている店を回ってみることにした。
この観光本が理由だとするなら、必ずこの本の何かが原因のはずである。
一応、すでに店は全部回っていたが、今回はその周辺も含めて回ってみることにしたのだ。
「紹介されているのは、中央部から外縁部まで結構広いけど……」
シルヴィア達の目的は、観光本を通して、私とサリアの本に触れてほしいという理由があるので、わざわざ中央部に絞って紹介する必要は全くない。
むしろ、平民が多く住む外縁部に知れ渡ってくれた方が都合がいいので、そちらの方もきっちり紹介しているわけである。
まあ、単純に、いい店だったから紹介したってこともあるかもしれないけどね。
私も、たまに外食するけど、案外美味しいところはたくさんあるし。
「普通に考えるなら、この辺の路地裏とかが怪しいけど……」
隠れた名店と言われるだけあって、大通りから離れた場所にある店もそれなりにある。
その近くにある路地裏やら空き家やらが裏組織の何かに使われているなら、危機感を覚えてもおかしくはない。
もちろん、路地裏も空き家もそこら中にあるので、場所を変えればいいという話ではあるんだけど、そうできない理由もあるかもしれないし。
試しにその辺の路地裏に入ってみる。
日が当たらないせいか、少しじめじめとしているけど、特に誰かいるような気配は感じられない。
探知魔法を見ても、抜け穴のような場所があるわけでもなさそうだし、少なくとも今この場所は関係なさそうだ。
「こんな感じで調べていくしかないかな」
かなり地道な作業だけど、こうでもしないと尻尾を掴めそうにないしね。
私は地道に地図を頼って裏路地や空き家を総当たりしていくことにした。
「……ん? この辺り、ちょっと広いね」
普段、路地裏に入ることはあまりないんだけど、こうしてみると、一口に路地裏と言っても結構あるんだなと思った。
一直線で行き止まりとか、入り組んでいたりだとか、進んだ先にちょっとした広場のようなものがあったりだとか、割とバリエーション豊かな気がする。
今いる場所は、そんな広場のあるような場所であり、秘密の集会をするにはもってこいだなといった場所だった。
「と言っても、集会してるのは人間じゃないみたいだけど」
そこに集まっていたのは、猫の集団だった。
様々な毛色の猫が小さな空き地に集まっており、猫好きからしたら、楽園のような場所かもしれない。
見た感じ、飼い猫ってわけじゃなさそうだし、みんな野良なんだろうか。
野良猫は、駆除の対象だからこんなにも集まっているのは普通に珍しい。
「まさかこれが裏組織、なわけないよね……」
猫は可愛いが、流石に猫が脅迫状を送り付けたりごろつきを雇えるはずもない。
むしろ、この場所は猫が集まっているということで、人が集まってこない場所ってことだし、そういう組織とは無縁の存在だろう。
「でも、なんとなく人の気配があるよね」
ざっと辺りを見回してみても、人の姿はない。
しかし、この空間には、人が立ち入っていたという痕跡が残されていた。
例えば、小さな小屋のようなものがある。
板材を組み合わせただけの簡素なものではあるけど、明らかに人工物だ。
他にも、丸められた草の塊だったり、餌箱と思われる箱だったり、どう考えてもこの猫達を飼育、あるいは目をかけてやっている人物がいる。
別に、猫を飼うことは違法ではないけど……この数が町に出てきたら大変だろうな。
「まあ、どっちにしろここは関係ないだろうし、次に行こうか」
もうちょっと癒されてたい気もするが、今は裏組織の捜索中である。
早く見つけないと、安心して活動ができないし、早いところ見つかってくれると嬉しいんだけど。
そう思いながら、ひたすら地図をなぞっていった。
「うーん、成果はなしかぁ」
その日、一日中回ってみたが、これといった成果を出すことはできなかった。
まあ、ざっと見ただけなので、いたけど気づけなかった、って可能性もなくはないけど、探知魔法と併用して調べていたので、不審な場所に誰かがいたらすぐに気づけるはずである。
それこそ、地下とかにいたら真っ先に気づくだろうし、そういう意味での見落としはないはずだ。
「まあ、まだ始まったばかりだし、この先で見つけられるかもしれないけど、正直微妙なんだよね」
いまいち、裏組織がニドーレン出版を襲う理由が弱い気がする。
なにか、襲う明確な理由があるなら納得できるんだけど、今のところ、想像できるのはそんなたいそうなことじゃない。
せめて、理由がはっきりとわかれば、対策のしようもあるんだけどなぁ。
「まあ、言ってても仕方ないし、地道に調べて行こうか」
そう思って、まだ行っていない場所をピックアップするのだった。
それから、色々と調べて回ってみたが、それらしい場所を発見することはできなかった。
一応、いくつかの空き家に人の気配がするところはあったんだけど、どうやらスラムにもいきつけなかった人々が、空き家を使って生活しているようだった。
話を聞いてみても、今回の件とは関係なさそうだったので、放置してきた。
後でアルト辺りに報告して、保護するなり、職を与えるなりなんなりしてもらおうかな。
いつまでも空き家を占領していると、下手したら追い出されかねないし。
「聞き込みしても、大した情報はなかったしなぁ」
ニドーレン出版の評判は、回復しつつあり、特に初期から本を購入しているファンは、積極的にニドーレン出版の良さを広めて行っているらしい。
まあ、中には過激になりすぎて騒ぎを起こしている人もいるっぽいけど、味方であるのは間違いないので、特に問題にはならないだろう。
紹介されている店の周辺で、妙な噂がないかも調べてみたけど、特にそういったものもなかったし、八方塞がりである。
まじで、どうしたらいいかわからない。どうしたら、襲撃はやむのだろうか?
「今日も来てるみたいだし……」
最近は、夕方頃になると頻繁に襲撃が発生するようになってきた。
頻度が増えたせいなのか、ごろつきのレベルはどんどん下がっていて、制圧するのは簡単なんだけど、なんでこんなに送られてくるのかがわからない。
本当に殺したいなら、中途半端な戦力は役に立たないと気づいて、もっと腕のいい奴を雇った方がいい気がするんだけどな。
「助けに来ましたよ」
「ハクさん! 待ってました!」
いつものように転移して、ごろつきを制圧する。
狙われている従業員に法則性もないみたいだし、見境なく襲っているようにしか見えないんだよね。
少しは情報を持っててくれたらいいんだけど、どうせ今日も喋らないんだろうな。
私は心の中でため息をつきつつ、後処理に入るのだった。
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