第二百話:号外
第二部でも200話を達成しました。ありがとうございます。
その後、カナディ出版から、ニドーレン出版が営業停止命令を受けておきながらまだ活動を続けているという旨が書かれた冊子が世に送り出された。
明らかに、出版する速度が速すぎる。これは、初めからこのネタで出版するために、あらかじめ書いておいたんだろう。
情報をいち早く世に送り出すのはいいことだが、あまりに早すぎて、もはや自白しているようなものだということに気づかないんだろうか。
それを見た世間の反応は、やっぱりニドーレン出版は悪い奴だ、国に逆らうなんてとんでもない悪党だ、と口々に文句を言い、中には出版社の方までクレームを入れに来る奴もいた。
世間的な信用がなくなった出版社は、今後活動を続けていくことは難しい。当然ながら、観光本の売れ行きはどんどん下がっていくことになる。
だが、ニドーレン出版の強みは、元々が一部の層に向けた本であるために、コアなファンがついていることである。
彼らは、ニドーレン出版が悪いという流れを良く思っておらず、ひそかに抗議してくれている優しい人達だ。
だから、仮にこのままの状況がしばらく続いたとしても、ニドーレン出版が潰れる心配はないだろう。
まあ、このままにしておくほど優しくはないけどね。
「あれから三日。そろそろ事態が動く頃かな」
王様の言っていたことが本当ならば、今日にでもカナディ出版の悪事は明らかになることになる。
少ないとはいえ、クレームでシルヴィア達も困っているみたいだし、早めに何とかしてくれると嬉しいんだけど。
「ごうがーい! ごうがーい!」
と、そんなことを思っていると、家の外からそんな声が聞こえてきた。
出てみると、派手な衣装に身を包んだ人物が数名、声を挙げながら走っていくのが見えた。
この世界の号外は、突発的に起こった出来事や、緊急性の高い内容を国民に伝えるために、国が発行している新聞のようなものであり、こうして目立つ格好で走り回って、知らせてくれるのである。
内容自体は、広場で配られていることが多く、詳細を知りたいならそこまで取りに来てくれってことだね。
これは、十中八九王様の仕業だろう。どんなふうに書かれているのか気になるし、私も行こうか。
私はエルと共に広場へと向かう。
広場に着くと、すでに何人もの人達が集まっており、国の担当者達が、一人一人に配っていた。
「あ、ハク、来たんですのね」
「おはようですわ」
「シルヴィア、アーシェ、おはよう」
広場には、シルヴィア達の姿もあった。
私が三日後には明るみになると言ったから、この号外には期待しているのかもしれない。
まだ受け取っていなかったので、担当者の下に向かって新聞を受け取る。
さて、どんな内容かな?
「これは……真っ黒だね」
書かれていたのは、案の定カナディ出版のことについてだった。
カナディ出版は、国との繋がりがあることをいいことに、今まで好き放題してきたらしい。
取材の際の横柄な態度、抗議しようものならあることないこと書いて貶め、その店を潰す、他の出版社に対する脅迫行為、挙句の果てには、虚偽の営業停止命令書を発行させる。
私達が知っている内容も多かったけど、それ以外にもたくさんの悪事を働いていたようだ。
中には、裏組織から献金を受けていたって内容もあったし、清廉潔白な世間のイメージとは真逆の、真っ黒企業であった。
そして、今回の件が明るみになったことで、カナディ出版には、正式に営業停止命令が下ることになるらしい。
本来なら指導が入るのが先だと思うけど、明らかに黒すぎて、更生の余地はないと判断されたようだね。
「で、でたらめだぁ!」
ふと、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
視線を向けてみると、三日前に会った、カナディ出版の編集長がいた。
まあ、今回の件は、カナディ出版にとって破滅とも言える出来事だしね。
あそこまで会社を大きくするのは大変だっただろうし、仮に新しく始めるとしても、営業停止命令を食らったという事実は消えない。そこから這い上がれる確率は、相当に低いだろう。
だから、認められないのかもしれない。
「こんな、こんなことが許されるわけがない! 私達は潔白だ!」
周囲の人々に対してそうまくしたてるが、人々の視線は冷ややかなものである。
確かに、カナディ出版は大手と呼ばれるほど大きな会社であり、世間からの信頼もあったが、それ以上に、国の信頼の方が大きい。
カナディ出版と国、どちらを信じるかといったら、国に決まっているのである。
それに、今まで虐げられてきた店や、取材を受けた人々も、確かに横柄な態度を取られたという言葉も飛び出してきており、号外の信憑性はとても高くなってしまった。
今更になって、自分達は潔白だと言っても信じてもらえるはずがなかった。
「あ、貴様! 貴様の仕業だな? カナディ出版をここまでコケにして、ただで済むと思っているのか!?」
そう言って、ずかずかとこちらに近づいてくる。
私はとっさに、シルヴィア達の前に出て、立ちふさがった。
「どけ! 貴様も痛い目に遭いたいか!?」
「そんなこと言われて退くと思いますか? 私はこの二人の護衛です、ここから先は通しません」
「黙れ! 貴様の、貴様のせいでぇ!」
怒りに任せて拳を振り上げる。
止めるのは簡単だけど、ここは一発殴らせるべきかな?
すでに号外によって、こいつの処遇は決まったようなものだけど、そこにさらに暴行まで加われば、罪はさらに重くなるだろう。
それに、周囲の人達に、号外は本当のことだと、より信じてもらうこともできる。
どうせ痛くもないだろうし、やらせてやるか。
そう思って軽く防御の構えを取ったのだけど、いつまで経っても拳は飛んでこなかった。
あれ?
「はい、そこまでです」
そんな声が聞こえたと同時に、男はその場に倒れ伏した。
まだ何もしてないんだけど……。
それより、さっきの声は、誰だろうか。とっさに辺りを見回す。
すると、男のすぐ隣に、一人の女性が立っていた。
「大丈夫でしたか? ハクさん」
「キーリエさん! お久しぶりです」
きっちり切りそろえられた前髪と小さな眼鏡が特徴的な女性。
学園卒業後は、ほとんど会う機会がなかったが、それでも大事な友達を忘れるようなことはない。
自称記者、現在は諜報部にて町の噂を調査しているキーリエさんである。
まさか、こんなところで出会うとは思っていなかったな。
「殺しちゃったんですか?」
「まさか、そこまでしませんよ。ちょっと気絶してもらっただけです」
そう言って、ちらりと男の方を見る。
確かに、息はあるようだし、見たところ、外傷もないように見える。
いったいどうやって気絶させたんだろうか。記憶では、キーリエさんはそこまで魔法は得意ではなかったような気がするんだけど。
でも、ここで出会えたのは素直に嬉しい。
私は、久しぶりの友人の姿に、心の中で頬をほころばせた。
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