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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第七章:ハクサリ本の行方編
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第百九十四話:情報収集

 ひとまず、守るべき対象も把握できたので、一度家へと戻った。

 護衛というなら、護衛対象にぴったり寄り添うべきかもしれないが、流石に20人近くもいる対象と常に一緒にいるのは物理的に無理がある。

 それに、今回の件は、従業員を死なせないというのも大事だが、同時に犯人を捕まえたいという意味もあるようだ。

 私は王都ではそれなりに有名人だし、そんな私がぴったりとくっついていたら、犯人だって手を出してこないだろう。そうなると、尻尾を掴むのが難しくなる。

 だからあえて、離れた場所で観察しようというわけだ。

 まあ、タイムラグによってみんなを危険に晒してしまうかもしれないというデメリットはあるけど、私の探知魔法なら、よほど運が悪くない限りはすぐに察知できる。

 みんなも、多少時間を稼ぐくらいならできると言っていたし、犯人を捕まえるためにも、多少のリスクは必要となるだろう。

 できることなら、早めに出てきてくれたら嬉しいんだけどね。


「とは言っても、情報収集くらいはしておくべきだよね」


 一応、キーリエさんからの情報で、カナディ出版というところが怪しいという話はあったが、私はそれがどんなところなのか知らない。

 もし、襲ってきた犯人を捕まえられたとしても、トカゲの尻尾切りをされたらかなわないし、ある程度の証拠を得るためにも、多少は調べておいた方がいいだろう。

 そう思って、私は図書館へ向かうことにした。


「図書館なんていつぶりだろうね」


 王都には、王立の図書館が存在する。

 中央部にある上、入場料もあるので、平民とかは滅多に利用しない場所ではあるけど、その蔵書は周辺諸国と比べても随一と呼べるらしい。

 ここならば、件の出版社が出版した本もあるだろう。

 入場料を払い、さっそく目当ての本を探す。すると、すぐにそれは見つかった。


「どれどれ……」


 ジャンルとしては、歴史が多めだろうか。

 オルフェス王国の歴史はもちろん、周辺諸国の歴史について書かれた本もそれなりに見かける。

 歴史以外だと、その年の流行をまとめたものだったり、人気の観光スポットだったり、なんとなく、シルヴィアが出している観光本と似たような内容を出しているようだ。

 もしかして、自分達が独占していた情報を真似されたから、脅迫したのかな? だとしたら、短慮すぎるけど。


「そこまでおかしな部分はない。けど……」


 私も、学園で色々学んできたこともあって、オルフェス王国の歴史に関してはある程度知っている。

 けれど、この本に書かれているのは、どうにも誇張が多いような気がする。

 例えば、戦争をすれば全戦全勝、無敗の将軍がいた、だとか、オルフェス王国は常に正しく、戦争を仕掛けてきた国が一方的に悪い、だとか、なんとなく、オルフェス王国をよいしょしている感じがする。

 いやまあ、自国のことなのだから、よく見せようとするのは当然っちゃ当然なんだけどさ。

 特に、この世界では、国によって歴史が違うなんてことはよくあることである。

 以前に行った、ロードレスのように、研究馬鹿がたくさん住んでいるところなら、ある程度正確な歴史も書かれているかもしれないけど、戦争なんてどっちも正義だと信じてやっているのだから、自国こそが正しいと歴史に残すのは、特におかしなことではない。

 ただ、それにしてもやりすぎというか、間違ったことは言ってないけど、読む人によっては解釈を間違いそうなことがたくさん書かれている。


「うーん、流石にこれだけじゃ判断できないよね」


 いくら大げさに書かれているとはいっても、別にそれが違法なわけではない。

 むしろ、こういうのは国がそう書くように仕向けた場合もあるし、そうだとしたらこの出版社は被害者ということになる。

 今の王様がそんなことすることはない気もするけど……。

 とにかく、これでわかることは、多少誇張表現を使うってことくらいだ。それが悪とも言えないし、これだけで脅迫してきた犯人とみるのは早計過ぎるだろう。

 やはり、証拠を得るなら忍び込んだりする必要がありそうだ。


「私が調べて来ましょうか?」


「うーん、まだいいかな。襲い掛かってきた奴が白状すれば、国が正式に家宅捜索できるだろうし、それを待ってもいい気はする」


 もちろん、シルヴィア達を危ない目に遭わせたのだから、それ相応の罰は受けてもらいたいけど、私が単純に叩き潰すのは私怨になってしまうだろう。

 殺されてからでは遅い、という見方もできるけど、今なら守り切れる自信はあるし、多分大丈夫だと思う。

 まあ、やるにしても、まずは正攻法を試してからだ。焦る必要はない。


「とりあえず、今日は帰ろうか」


 調べるべきことは調べたので、本をしまって、退館の準備をする。

 しかし、本棚に本を戻そうと、席を立ち、戻ってきた時、不意に話し声が聞こえてきた。


「ねぇ、聞いた? ニドーレン出版の噂」


「ニドーレン出版? なにそれ?」


「まあ、知らなくても無理ないわね。マイナーな出版社ですもの」


 話しているのは、貴族のご令嬢っぽい二人である。

 図書館だからなのか、その声はとても小さいが、私の耳は、それを拾ってしまった。

 話の内容をまとめると、どうやらニドーレン出版の悪口らしい。

 ニドーレン出版は、意味のわからない趣味の悪い本を出しているとか、大手の真似をしようとして失敗した落ちこぼれだとか、そんな内容だ。

 挙句の果てには、取材に行った店で当たり散らしたとか、どう考えても嘘だろと思うようなことまで言っていて、聞いているだけで少し不快な気持ちになった。

 あれが噂のカナディ出版の奴だろうか? いや、ご令嬢っぽいから、カナディ出版の人から聞いた話をそのまま話しているのかもしれない。

 聞いている方は、よくわかっていないのか、きょとんとした顔をしていたけど、話している方は実に気分よさげに語っていた。

 噂話か。そちらも調べた方がいいかもしれないね。


「……」


 気づかれないうちに、そっと離れて図書館の外に出る。

 シルヴィアの話だと、相手が有名なところだから、ニドーレン出版の方が悪だ、みたいな風潮ができつつあるらしい。

 ただの噂と甘く見ていたけど、事はもっと深刻なのかもしれない。

 ひとまず、噂の真意、そして出所を探った方がよさそうだ。キーリエさんの情報の信憑性は高いとはいえ、実際に見てみないとわからないしね。


「ひとまず、明日から調べてみよう」


 すっかり夕焼けに染まった空を見ながら、予定を組み立てる。

 カナディ出版、必ず尻尾を掴んでみせるぞ。

 そう思いながら、帰路についた。

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