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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第六章:人工神とエンシェントドラゴン編
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幕間:独りぼっちの竜

 エンシェントドラゴン、ヴィオの視点です。

 吾輩はエンシェントドラゴンである。名はヴィオ。

 現在存在しているエンシェントドラゴンの中では、ハーフニル殿、ルフト殿に次いで古参ではあるが、他のエンシェントドラゴンとの交流はあまりない。

 というのも、吾輩は毒竜であり、ただ存在するだけで、周りの環境を汚染してしまうのだ。

 昔は、浄化を得意とする者も多く、そこまで問題にはならなかったが、時の流れとともにそう言った役職もいなくなっていき、今では吾輩の下に近づいてくる者もいなくなってしまった。

 まあ、下手をすれば死ぬような毒なのだから、当たり前ではあるのだが。

 おかげで、吾輩はここ数千年以上の間、森に引きこもっていた。

 いるだけで周りの環境を変化させてしまう故に、あまり場所を転々とすることができなかったというのもあるが、吾輩のせいで、他の竜にまで迷惑をかけるわけにはいかないと思ったのだ。

 これまでも、これからも、吾輩はずっと一人で生きていくのだと、そう思っていた。


〈ふむ? あれは……〉


 転機が訪れたのは、最近だった。

 吾輩の住む森は、吾輩の毒によって環境が一変し、すべてが毒を含むものへと変化していた。

 木々も、魔物も、吾輩の毒に適応した者だけが生きることを許される、そんな場所。

 人里からも離れている故、この森に誰かが入ってくるなど、本来は考えられないことだった。

 しかし、その日は、なぜだか人がいた。

 少女のようだったが、気を失っているのか、ピクリとも動かない。

 一瞬、死んでしまっているのではないかとも思ったが、確認して見れば、まだ生きている様子だった。

 このまま見捨てるわけにもいかず、吾輩はその少女を保護した。

 目を覚ました後は、そのあたりの茸を食べさせてみたりもしたが、よくよく考えると毒だということに気づいて、慌てていたが、少女は全く意に介していない様子。

 どうやら毒に耐性があるようだ。稀有な人物である。

 しばらく共に過ごしてみたが、言葉は通じずとも、吾輩に懐いてくれていることはすぐにわかった。

 まさか、吾輩が人に懐かれる日が来ようとは……。

 しかし、いくら毒に耐性があるとは言っても、限度はあるだろう。

 このままでは、せっかく助けた命が失われてしまう。それはだめだ。

 迷った末に、吾輩は同胞を頼ることにした。

 竜の谷へ訪れるのは気が引けたが、少しくらいであれば滞在しても問題はないだろう。他に行く当てもなかったし、竜の谷を訪れる以外に選択肢がなかった。

 その時は、たまたま他のエンシェントドラゴン達も揃っており、皆で少女の処遇を考えていた。

 一番いいのは、やはり人里に帰すことである。

 少なくとも、吾輩と共にいすぎて、命を落とすよりは、それが幸せだと感じた。

 だが、少女は吾輩から離れようとしない。懐いてくれるのは嬉しいが、ここまでくると少し困ってしまう。

 そのうち、ハーフニル殿のご息女、ハク殿までやって来て、事態は大きく変化していった。

 異世界の存在、カオスシュラームという邪悪な物質、少女メリッサの新たな家族。久方ぶりに、刺激のある毎日に、冒険心がくすぐられたことを覚えている。

 最終的には、メリッサの家族ともども、こちらの世界にやってきて暮らすということになり、メリッサも吾輩の元から離れていった。

 少し寂しい気もするが、本来これがあるべき形である。

 寝床の茸の笠の下から、森を眺めつつ、これまでの日々を思う。

 ハク殿も吾輩のことは気にかけてくれているようなので、もしかしたらそのうち来てくれるかもしれないが、またしばらくは先になりそうだ。


「****」


〈ふむ? おや、なぜメリッサ殿がここに?〉


 次第に空には雲がかかり、ぽつぽつと雨が降り始める。

 雨が降ると、毒の霧が発生し、より厄介になるこの森だが、そんなこと気にも留める様子もなく、一人の少女がやってきていた。


〈家族と共に暮らすことになったのでは?〉


〈そうだけど、遊びに来たっていいでしょう?〉


〈おや、言葉が通じたのですな。てっきり、ハク殿にしか通じないものかと〉


〈やろうと思えば、どんな言葉にだって合わせられるわ。お腹がすくからあんまりやらないだけで〉


 メリッサ殿は、そう言いながら、吾輩の下へとやってくる。

 手慣れた手つきで吾輩の体をよじ登り、背中へと座ると、辺りの様子を見回しながら、話し始めた。


〈この森、ほんとに誰も来ないのね〉


〈それはそうでしょうな。ここは人どころか、魔物ですら入る者を選ぶ場所。メリッサ殿も、不用意に入れば毒に侵されますぞ?〉


〈大丈夫、私、毒には強いから〉


 吾輩の心配をよそに、メリッサ殿は懐から握り飯を取り出し、頬張った。

 確かに、しばらく吾輩と共に暮らしていても死ななかったのだから、毒の影響は薄いのかもしれない。

 ただ、元々吾輩の毒は即効性があるわけではない。それを考えれば、たとえ毒に強くても、長居しない方がいいに決まっているのだが。


〈私ね、ヴィオに出会えて、本当によかったと思ってるの〉


〈ほう、それはなぜ?〉


〈ヴィオがいなかったら、私は死んでいたでしょう。異世界にやって来て、誰も頼れる人がいなかった私に手を差し伸べてくれたのが、ヴィオなの〉


 異世界云々は出会った当初は知らなかったが、その背景を考えれば、確かに助けた吾輩のことを想うのは理解できる。

 だが、吾輩はこれでも竜である。異世界ではどうだか知らないが、普通は竜を見れば、人々は怯え、離れていくものではないか?


〈それに、ヴィオのことも知れたしね。ヴィオが、この森で独りぼっちだってことも〉


〈それは仕方のないことですな。吾輩の毒は、容易に環境を変えてしまう故〉


〈でも、ヴィオは優しいのに、独りぼっちで寂しくないの?〉


 そう言って、こちらの方を見るメリッサ殿。

 まあ、寂しいかと言われたら、そうだったとは思う。

 昔は、他の竜や人々と共に、楽しく暮らしていた。それがなくなってしまったのは、寂しいと思う。

 だが、それは仕方のないことだ。

 吾輩が毒竜である以上、それをどうにかできる手段がなければ、一人にならざるを得ない。

 それに、この数千年で、その感覚にも慣れた。

 寂しいとは感じても、孤独で押し潰されるようなことはないのである。


〈寂しくないと言えば嘘になりますが、耐えられないほどではありませんな〉


〈でも、できるなら、誰かいてくれた方がいいでしょ?〉


〈ふむ、まあ、話し相手くらいは欲しいと思う時はありますな〉


 一応、この森には魔物がいるが、彼らは話してはくれない。竜の谷に行けば他の竜には会えるが、話すとしてもひと時の間だ。

 それは退屈だと思うし、そういう意味では話し相手は欲しいと思う。


〈だったら、私が話し相手になって上げる。これからも、毎日来るから〉


〈毎日とは、また思い切ったことを言いますな。吾輩のことを心配してくれるのは嬉しいですが、体に障りますぞ?〉


〈大丈夫だって。私は、ヴィオのことが好きなの。だから一緒にいたい、それじゃあだめ?〉


〈そう言われると、言い返すことはできませんな〉


 もうここには来ないと思っていたが、まだまだ来る気満々らしい。

 毒のことが心配ではあるが、来てくれるのは素直に嬉しかった。

 孤独だったこの日々も、いましばらくは解消できそうで何よりである。

 その事実に、思わず笑みがこぼれた。

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