幕間:最愛の妹
異世界の複合神、メルトの視点です。
メリッサが島流しに遭ったと聞いた時、何の冗談だと思った。
自慢ではないが、私は国で一番の実力者だった。それ故に、色々と優遇されており、上からの命令が絶対とは言っても、私がお願いすればそれなりに意見は通っていた。
メリッサは私の大切な妹の一人であり、離れ離れになるなんてあってはならない。だから、私はメリッサがミスをした時に、すぐに要望を出した。
メリッサのことを許してあげて欲しい。せめて、軽微な罰で済ませてほしい、と。
しかし、結果はどうだろう。私の知らないうちに、メリッサは島流しになることが決定し、あまつさえそれが実行された後だった。
私はすぐに抗議したが、私が何も知らないと思っているのか、上は検討しているの一点張り。
確かに、メリッサはそこまで真面目な子ではなかったけど、かと言ってさぼるようなこともしていなかったはずだ。
それなのに、たった一回のミスで、島流し? 冗談じゃない。
私は国の反対を押し切って、メリッサを探しに出た。
もう一人の妹である、メーガスも大事ではあるけど、メリッサも私の大切な家族の一人である。
それをあっけなく手放した国への信頼度は、一気に地の底へと落ちた。
メリッサが見つからなければ、私はこのまま国を出て行ってやろうとも思っていた。
私が居なくなれば、さぞ国は困ることだろう。それがわかっているからか、最終的には国もメリッサを島流しにした事実を認め、連れ戻すために人員を割いてくれるようになった。
と言っても、あくまで形だけ。本気で探している者など誰もおらず、いるとしたら、それは妹のメーガスだけだった。
「メリッサを勝手に島流しにしたことは謝罪しよう。だが、あんな役立たずのなにがいいのだ? パートナーであれば、メーガスがいれば十分だろう。そこまでかっかせんでも……」
国の上層部がそんな感じの態度だから、本気で探してくれるはずもない。
私は頭に血が上りそうになったが、何とか抑え、必死にメリッサの捜索に尽力した。
何日も、何日も。道中の魔物はすべて倒し、あらゆる方角へ探し回った。
でも、見つからない。もしかしたら、もう死んでいるのではないかと、嫌な予感が頭をよぎった。
メリッサがいなくなってしまったら、私は……。
「姉様、ちょっといい?」
暗い未来を想像し、落ち込んでいた私に声をかけてきたのは、メーガスだった。
メーガスの話によると、メリッサを見つけたらしい。
私はそれを聞いて、すぐさま向かおうと思ったが、どうやら事は割と複雑なようだった。
なんでも、メリッサは、次元の歪みを通って、別世界へと渡ったらしい。
本来、次元の歪みが世界を超えるようなことはないのだが、なぜだかそういうことになっているようだった。
さらに驚きなのは、その先で竜神様に会い、メリッサを保護しているのだという。
竜神様というと、国が崇めている、最高神の一角である。
もちろん、別の世界であるようだから、その竜神様とは別人なんだろうけど、竜の神がいたというだけでも驚きである。
メーガスは、メリッサを連れ戻そうとしたようだが、メリッサはあちらの世界に残ることを望み、なんなら私やメーガスも一緒に暮らさないかと提案しているらしい。
私は考えた。メリッサをあっさりと捨てた挙句、私が怒っている理由すら察せない無能な国の上層部と、最愛の妹であるメリッサ。どちらが大事か?
そんなの後者に決まっている。
「私は、あっちの世界に行ってもいいと思ってる。姉様は、どうする?」
「そうね、私もその意見には賛成だわ。ただ、少し準備をさせて? その世界に行きたがっているのは、私だけではないでしょうから」
別に、私達だけで行ってもよかったけど、私達がいなくなることによって、この国が存続できるかは不明である。
いや、どちらかといえば、崩壊する可能性の方が高いだろう。
別に、メリッサを捨てた国に未練なんてないけれど、それによって巻き込まれる人々が可哀そうだ。
せめて、私の手の届く範囲くらい、助けてあげたい。それには、時間が必要だ。
同じく国のやり方に不満を持っている複合神、扱いが酷く、窮屈な思いをしているキメラ、優しくしてくれる町の人達。
あんまり悠長にしていると、国に感づかれる可能性もあるから、手早く済ませなければならない。
「待っててね、メリッサ。お姉ちゃんもすぐにそっちに行くから」
そうして、声をかけまくって、人を集めた。
ちょっと声をかけすぎて、50人もの大所帯になってしまったけど、もう戻る気もないからばれても問題はない。
そうして、メーガスの案内で次元の歪みまで行き、異世界へと渡った。
「ここが、異世界……」
私達のいた国と違って、そこまで荒廃した印象は受けない。むしろ、自然に満ちており、活力を与えてくれている気がする。
メーガスの案内で待ち合わせ場所まで向かうと、そこにはメリッサと、竜神様が待っていた。
竜神様というのがどういうものなのかと思っていたけど、確かにこれは竜神様だ。
私達のような、混ざりものではない、完全な神。
今までにも、神には何回か会ってきたけれど、これほど高潔な神は見たことがなかった。
その溢れる神々しさに、直視できないと思っていたけれど、話してみると、凄く気さくでいい人である。
言っちゃ悪いが、とても神とは思えない馴染みやすさだった。
竜神様は、唐突に訪れた私達のことを拒絶することもなく、居住場所を探してくれると言ってくれた。
異世界という勝手がわからない地で、これほど心強い味方はそういないだろう。
無事にメリッサとも再会できたし、思い切って来てよかったと実感した。
それからしばらく。私達は、竜神様に見つけてもらった地で、小さな村を作り、そこで暮らしている。
最初は不安もあったが、竜神様があっという間に家を作ってくれた上に、食料などの物資も大量に持ってきてくれたので、普通に生活する分には何の苦労もなかった。
この場所は、いくつかの集落が点在する場所の近くらしく、そこには獣人と呼ばれる種族が暮らしているらしい。
基本的に、よそ者には厳しいらしいが、それらの集落を超えると、普通の町もあるようだ。
今はまだ、言葉も覚えていないし、気軽に行くことはできないけれど、いつかは交流し、竜神様の支援なしでも暮らしていけるようにするべきだろうな。
「あら、御使い様がやって来たようですわね」
ふと、空を見上げてみると、純白の体が美しい、ドラゴンがやってきていた。
聞いた話によると、竜神様の友人らしく、この世界では、エンシェントドラゴンと呼ばれているらしい。
神ではないようなので、私は竜神様の眷属という意味も込めて、御使い様と呼んでいるけれど、今のところ怒られたことはない。
御使い様は、時折この村を訪れ、何か問題がないかを確認してくださっている。
物資が足りなければすぐに用意してくれるし、何か不都合があれば検討してくれる。
役割的には、私達の村のお目付け役ってところだろうか。
確かに、私達はよそ者だし、管理する者は必要となるでしょう。
私達は、すでに竜神様に忠誠を誓っているが、形だけでも、そういうものは必要だ。
さて、さっそくお出迎えしなければ。
私はさっそく、御使い様の下に向かった。
 




