第百九十一話:場所の選定
戻ってみると、メルトさんとメーガスさん、そしてメリッサちゃんが、三人集まって話し合っていた。
久しぶりの再会だからだろうか、その表情は明るく、とても楽しそうに見える。
他の人達も、エルに渡されたテントを立てて、各々の寝床を確保しているようだ。
この時期だと、結構寒いから、テントだけでは凍えてしまうかもしれないので、一応毛布も持ってきておくとしよう。
「ハクお嬢様、お帰りなさいませ。どうでしたか?」
「ちょっと怒られちゃった。でも、やることはやるよ」
「そうでしたか。何から始めましょう?」
「まずは、場所の選定だね」
最初は、この平原に開拓村でも作ろうかと思ったけど、流石にそれはやばいかなとも思う。
まあ、見た目のことを考えると、あんまり人里に近すぎても困るんだけど、この大陸なら、そこまで目立たない気がしないでもない。
なにせ、この大陸には獣人が多いから、ぱっと遠くから見るだけなら、獣人に見えなくもない見た目の人も結構いるからだ。
いずれは、この世界に慣れて、自然と暮らして行って欲しいということを考えると、あまりに隔絶された場所だと困るような気もする。
いい感じに人里に近すぎず、遠すぎずの場所に作れれば一番だけど、果たしてどこがいいか。
「この大陸のことなら、ホムラが詳しいでしょう。ホムラに聞いてみては?」
「そうだね。さっき聞いておけばよかったかな」
どうしても、報告をするために転移しなければならない関係上、転移の回数は多くなる。
まあ、別に何回転移しようが神力はなくならないから問題はないんだけど、ちょっと面倒と感じる時もある。
通信魔道具でも持つか? 竜はあんまり持たない気もするけど。
それは後で考えるとして、とりあえず転移で再び竜の谷へとやってきた。
エンシェントドラゴン達は、まだ待機していたらしく、同じように私を出迎えてくれる。
せっかくだから、他のエンシェントドラゴンにも聞いてみようか。
「ねぇ、人里に近すぎず、遠すぎない場所で、広い場所が確保できるところって何か心当たりない?」
〈あん? そうだなぁ、エルクード帝国あたりなら割と多いと思うが〉
ホムラを筆頭に、他のエンシェントドラゴン達も意見を出してくれる。
この世界は、人族が開拓しているとはいえ、未だに未開拓の地域は多い。
人里から近すぎず、遠すぎずという、曖昧な条件でも、それなりにヒットする場所はあるようだ。
一応、今回はこの大陸で考えているから、ホムラの意見を参考にすることになるけど、いずれ同じような状況が起きた時には、他の場所も参考にするかもしれないね。
〈エルクード帝国では、小さな集落が乱立している地域も多い。そういう奴らに紛れれば、そう難しくはないと思うが〉
「ああ、確かにそうだね」
エルクード帝国自体は、様々な獣人が集まる国ではあるけど、中にはそれぞれの種族、例えば犬獣人とかだけで集まっている集落とかも珍しくない。
一種の国への反抗心らしいのだけど、そう言った集落は、他の種族を許容しないので、孤立しやすい。
ただ、孤立するとは言っても、補給がなければ飢えてしまうので、交易がないわけではない。
人里から近すぎず、遠すぎない距離という意味では、まさに適任とも言える場所だろう。
魔物の間引きができるなら、場所の確保はそう難しいことではないだろうし、そう言った場所に集落を作るというのは手かもしれない。
〈何なら案内してやろうか? それっぽい場所ならいくらでも知ってるぞ〉
「じゃあ、お願いできる?」
〈おう、任せとけ!〉
それから、ホムラの背に乗って、場所を案内してもらった。
あんまり時間もかけてられないので、転移魔法で時間短縮をしたが、場所としては、そこまで悪い場所でもない。
そう言った集落の一番のネックは、山や森の強力な魔物を処理することができる能力があるかってところだけど、今の時点でもそれらを担当している集落はたくさんあるようだし、仮に彼らが全く戦闘能力がなかったとしても、問題はなさそう。
もちろん、50人規模となるとそれなりに大きくなるから、大きく場所を確保するならそういう役割を負う場所の方が楽だけど、その辺は聞いてみないとわからないかな。
静かに暮らしたいと言ってたし、もしかしたら魔物の相手は嫌がるかも。
「候補としては、このくらいかな」
他の集落との折り合いも考えると、候補は割と絞り込むことができた。
後は、現地に生活の基盤を作成できれば、問題なく集落として活動できるだろう。
「ホムラ、ありがとね」
〈これくらいはどうってことねぇよ。また困ったことがあったら言えよ?〉
「うん、わかったよ」
ホムラと別れ、再び平原へと戻ってくる。
竜神モードへと変化し、メルトさんを探した。
〈これはこれは竜神様。私に何か御用でしょうか?〉
〈居住区の場所の選定が終わりました。一つ聞きたいのですが、魔物の間引きなんかはできますか? それによって、ある程度住む場所が変わりそうですが〉
〈それくらいでしたら喜んで。魔物の相手は慣れておりますわ〉
どうやら、魔物を狩ることには何の抵抗もないらしい。
一応、実際に現場を見てもらう必要はありそうだけど、これなら大丈夫そうかな。
〈私達のために、ご尽力感謝いたします。私達は、竜神様に忠義を尽くすことを誓いますわ〉
〈そんな大げさな……それと、竜神様ではなく、ハクです。これからも仲良くしてくれるのなら、そっちで呼んでくれたら嬉しいです〉
〈そうでしたか。では、ハク様、これからもどうぞよろしくお願いしますね〉
そう言って、にこりと笑うメルトさん。
この人達の中では、竜神って言うのは特別な存在なのかもしれない。いや、竜神というよりは、神様が、かな?
どちらにしろ、お父さんが懸念しているような、反逆を起こして竜が脅かされるってことにはならないと思う。
もしなったら……その時は私が責任をもって鎮圧するしかないね。
〈ハク〉
〈メリッサちゃん、どうしました?〉
メルトさんと別れ、居住区の設計を考えていると、メリッサちゃんが話しかけてくる。
なにやらにこにこ顔で、とても嬉しそうだ。
やはり、姉妹に会えたことが嬉しかったんだろう。戻らないと息巻いてはいたが、それでも家族に会えないのは悲しいからね。
〈こうしてみんなと会えたのも、ヴィオとハクのおかげだわ。どうもありがとう〉
〈いえ、私は当然のことをしただけだから〉
〈それを当然と思えるところがハクらしいわね。ちょっと聞こえたけど、住む場所も決まったんでしょ?〉
〈うん。ちょっと、ヴィオの森からは離れてるけど、ちゃんと行けるようにはするから安心してね〉
〈わかってるわよ。というか、そうじゃなかった私はそこには住まないわ〉
相変わらず、ヴィオのことが好きのようである。
まあ、これでヴィオにも話し相手ができたし、一石二鳥なのかな。
本当に、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
〈ハク、これからも、私の友達でいてね〉
〈もちろん。よろしくね、メリッサちゃん〉
異世界から来た新たな友達。
今後、どうなるかはわからないけど、みんな幸せになれたら嬉しいな。
感想ありがとうございます。
今回で第二部第六章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第七章に続きます。




