第百八十九話:予想外の人数
それからさらに数日。お母さんの方から、メーガスさんが戻ってきたという報告を受けた。
あれから、次元の歪みの観察は続けていたようだけど、懸念していた、この間に消滅してしまうのではないかという問題は特に起こらず、相変わらず不安定な転移を続けている。
なぜ消えないんだろうか。不安定と見せかけて、実は安定していたりする?
それとも、メーガスさんが何かしたんだろうか。
よくわからないけど、無事に戻ってきたようなので、私達は再びあの時の平原へと足を延ばした。
「ちゃんと話はつけたのかな」
メーガスさんが戻ってから一週間ほどだが、ちょっと心配ではある。
一応、メーガスさんも、どちらかというとこちらの世界で一緒に暮らそうってことに前向きだった気がするけど、姉であるメルトさんがどう思うかはわからないし、最悪やっぱりメリッサちゃんを連れ帰りますとなってもおかしくはない。
メリッサちゃん自身は、どんな答えでも帰らないとは言っているけど、実力的に、無理矢理連れ帰ることは可能だろうし、下手をしたら戦闘になる可能性もある。
できれば、そんなことにはなって欲しくないけど、果たして。
「来たかな」
しばらくして、メーガスさんがやってくる。
見た限り、一人のようだけど、連れてくることはできなかったんだろうか?
〈ただいま戻りました。遅くなって申し訳ありません〉
〈いえ、大丈夫ですよ。それで、返答のほどはどうでしたか?〉
私は即座に竜神モードになり、報告を聞く。
どうやら、メーガスさんは戻ってからすぐに、メルトさんに事の顛末を報告したようだ。
すると、メルトさんはメリッサちゃんが無事だったことを大層喜び、さらに、こちらの世界に来ることにもとても前向きで、快い返事を貰ったらしい。
ただ、じゃあすぐに向かう、ということにはならなかったようで、知り合い達を連れて行きたいと言い出したようだ。
ここで言う知り合いというのは、同じ複合神や、いわゆる失敗作とされている人達らしい。
特に、失敗作となった人達は、上層部からの扱いが若干厳しく、それをメルトさんが抑えることによってどうにか均衡を保っている状態なのだという。
このままメルトさんがいなくなれば、彼らの未来は暗いものになるだろうとわかっているようだった。
だから、どうせなら一緒に行こうってことになり、しばらく準備が必要になったらしい。
なんか、話が大きくなってきたな。
〈すでに、大半の者には協力を取り付け、次元の歪みの前で待機しております。りゅう……ハク様の許可さえいただければ、すぐにでもこちらの世界に呼び出すことが可能です〉
〈ええと、それって何人くらいなんですか?〉
〈合計で50名ほどでございます〉
〈ず、随分と多いなぁ……〉
確か、国が保有している複合神の合計が30人ほどとか言っていたから、それの倍近くいる。
恐らく、その失敗作と言われている人達が大半を占めそうだけど、ただでさえメルトさんが抜けることで国が大変なことになりそうなのに、そんなことしちゃっていいんだろうか。
絶対、その国滅びると思うんだけど……。
〈許可をいただけないようなら、すぐにでも帰しますが……〉
〈あ、いや、だ、大丈夫ですよ。受け入れます受け入れます〉
これが、まだ国に待機していて、上層部にもばれていないって言うならまだ控えてもらったかもしれないけど、すでに次元の歪みの前で待機しているなんて言われたら、受け入れるしか選択肢がない。
だって、ここで断って国に帰るようなことになったら、絶対に罰を受けることになる。
特に、正規の複合神でない人達は扱いがより酷いらしいし、下手したら殺されてしまうかもしれない。
せっかく、別世界という希望を見つけたのに、その芽を摘み取ることは私にはできなかった。
〈ありがとうございます。では、さっそく呼んできますね〉
そう言って、メーガスさんはちょっと嬉しそうに去っていった。
これ、どうしようかな……。
元々は、三人の予定だったから、王都に別に家を買って、そこで暮らしてもらうって言う考えだったんだけど、50人ともなると話が変わってくる。
家を買おうにも、50人が同時に住める家なんてあるわけないし、あったとしても、目立ちすぎる。
確か、複合神の改造に失敗した人達は、化け物の姿になっているという話もあったし、万が一見つかるようなことがあったら大惨事だ。
仮に、彼らが受け入れられたとしても、言葉が通じないのだから異質な目で見られることは間違いない。
どう考えても、王都で暮らすのは無理だろう。
では別の場所に、と言っても、そんな都合のいい場所があるはずもない。
50人なんて、下手したら村レベルだ。それなりの土地が必要だし、家を作るだけでもかなりの時間がかかる。
いや、やろうと思えば家くらいなら建ててあげられるけど……ほんとに大丈夫だろうか?
世界が変われば常識も変わるし、いくらなんでも心配事が多いんだけど。
〈……これ、どうするのが正解かな?〉
〈流石に50人は予想外だったわ。どこかに廃村とかないの?〉
〈廃村……特に思い浮かばないかな〉
こういう、人目に付いてはいけない人達を匿うのなら、ヒノモト帝国が適任かなとも思ったけど、他の転生者とそりが合うかどうか。
あそこは、どちらかというと、魔物に転生した転生者達の楽園って感じだし、そこに似たような境遇とはいえ、異物を混ぜ込むのはちょっと気が引ける。
まあ、場所というだけなら、この平原でもよさそうではあるけど、ここに作るのが一番楽かな?
色々と問題はあるだろうけど、とりあえず受け入れるからには、休める場所が必要になる。
最悪、竜の谷でもいいけど、あんまり気は進まないな。
〈とりあえず、テントを集めようか〉
魔法を使えば、家を建てることも可能ではあるけど流石に時間が足りない。
まずはテントでとりあえずの宿を確保し、その後に徐々に開拓していくって感じにした方がいいだろう。
一応、【ストレージ】にもいくつかのテントは入っているけど、それだけじゃ足りないし、ちょっと取りに行った方がいいかもしれない。
「どうやらもう来たみたいですよ」
〈ねぇ、早くない? まだ一時間も経ってないんだけど?〉
あまりの出来事に行動を決めかねて、しばらく動けなかったというのはあるが、一時間足らずでもう来るとは思わなかった。
よっぽど近くに次元の歪みが出現したのか、それとも何かしらの移動手段があるのか。
どちらにしろ、もう猶予はない。
〈仕方ない。エル、ちょっとテントを取って来てくれる? 足りなかったら、買ってもいいから〉
「かしこまりました。すぐに戻ります」
現状、メーガスさん達の言葉を理解できるのは私しかいないから、私は離れられない。
全く、少しは手加減してほしいものだ。
そんなことを考えながら、遠くに見える大所帯を観察するのだった。
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