第百八十八話:友好的に
王都に戻った後、メリッサちゃんのことをお姉ちゃん達に紹介した。
メリッサちゃんは、私の後ろに隠れるようにしてもじもじしていたが、敵ではないと確信できたのか、しばらくしたら普通に接してくれていた。
喋ってる時はあんなに強気なのに、言葉が通じなくなると途端に人見知りを発揮するのは何なんだろうか。
いやでも、確かに言葉が通じなければ、相手が何を言っているのかわからないわけだし、不安になるのはしょうがないのかな?
私の場合、この世界の言葉は大抵覚えていたけど、転生前だったら、英語とかで話しかけられるのは若干苦手だったし。
やはり、言葉を教えるのは急務なようである。ちゃんと覚えてくれるかな。
〈その気になれば、相手の言葉を理解することはできるけどね。これでも複合神だし〉
〈なら、なんでやらないんですか?〉
〈お腹が減るから。後、単純に面倒〉
ヴィオの森に転移し、竜神モードになって話を聞く。
すでに、王都に戻ってから数日が経ったが、まだメーガスさんは戻っていない。
まあ、次元の歪みの先がどうなっているのかはわからないし、国までどの程度かかるのかもわからないから、これが早いのか遅いのかもわからないけどね。
せめて、どれくらいで戻るのかを聞いておけばよかった。
〈でも、話せないと困るでしょう? 私だって、いつでもこの姿になれるわけじゃないんですから〉
〈私としては、その姿かっこいいと思うけどね。そっちの方がデフォルトでいいんじゃない?〉
〈いやですよ。私は人間です〉
〈いや、神でしょ〉
メリッサちゃんは、複合神としての性質なのか、相手と言葉を合わせることができるようだけど、積極的にそれをしようとはしない。
お腹が減るからと言っているけど、そんなに燃費が悪いんだろうか?
私としては、頻繁に竜神モードにならされるので、できれば自力で解決してほしいんだけど。
この姿が嫌いってわけではないけど、なんか、この姿になりすぎたら、本格的に元に戻れなくなりそうで怖いんだよね。
私は色々混ざっているけど、心は人間なのだ。
〈私は人間ですよ。ちょっと精霊だったり、竜だったり、神様だったりの力が混ざり込んでますけど、れっきとした人間です〉
〈ふーん。純粋な神だと思ってたけど、ハクも複合神みたいなものってこと?〉
〈複合神とはちょっと違うと思いますけど……まあ、似たようなものだと思います〉
正確に言うなら、素体は精霊で、それに竜の血が混じり、その後に後付けで神様の力が入り込んだって感じだけどね。それにさらに人間の意識が乗っかってるって感じ。
こうして考えると、私の体ってほんとに複雑だな。
神様にも、魂が独特とか言われた気がするし、私って何者なんだろうか。
〈他にハクみたいな人いないの?〉
〈どうでしょう。あんまり思いつきませんが……〉
私ほど複雑な人物はそうはいないだろう。
特別な力を持っているというだけなら、聖教勇者連盟とか、ヒノモト帝国とか色々あるけど、神様の力が混ざっているのは私くらいだと思う。
神力を持っているというだけなら、もう少し候補がいるけどね。
神力は、元々は神様が扱うものだったわけだし、神力を使えるイコール神様、みたいな扱いにはならないだろうか。
……流石にないか。あっても、竜のような神獣扱いってところだろうな。
〈こちらの世界には、カオスシュラームのような、神様でなければ対処できないようなものはありませんから。神様自体、大昔に地上の管理からは手を引いていますし〉
〈なるほどね。それなら数が少ないのも納得だわ〉
メリッサちゃんがいた世界では、複合神がいなければそもそも国として発展できないくらいには殺伐とした世界だったらしい。
複合神を作り出すことによって、多くの犠牲が出るとわかっていても、それに縋らなければ対抗できない。だからこそ、メリッサちゃんのような子がいるわけだ。
あんまり深くは聞かないけど、もしかしたら、志願制とは言っても、徴兵のような強制的なものだったのかもしれない。
メリッサちゃん自身は、それしか選択肢がなかっただけで、こんな力は望んでいなかったと言っているし。
〈ハクは、その力を手に入れてよかったと思ってる?〉
〈……まあ、悪くはないと思います。なんだかんだ、この力に助けられてきたことはたくさんありますし〉
力を望んでいたわけではない。ただ、この力があったからこそ、私は生き延びられたと言っていい。
精霊の力に竜の力。少々オーバースペックではあるけど、仮に私が何の力もない少女だったとしたら、どこかで命を落としていたかもしれないし、仲間や家族を失っていたかもしれない。
身を守るため、皆を守るため、そのためには力があった方がいいに越したことはない。
一番いけないのは、力に溺れて、傍若無人にふるまうことだ。
完全に正しく力を振るえているかどうかはわからないけど、少なくとも、理性を持って操れていると思える間は、力があった方がいいと思う。
〈……そう。ハクがいれば、この世界は安心かもね〉
〈あんまり期待されても困るんですが……〉
〈ま、安心しなさい。これからは、私もこの世界を守るために力を貸してあげる。ハクだけに背負わせはしないわ〉
そう言って胸を張るメリッサちゃん。
どうにも子供が背伸びしているようにしか見えないが、その言葉が真実であることはよくわかる。
なんとも頼もしい限りだ。
〈ありがとうございます。もしもの時は、頼らせていただきますね〉
〈ええ。でもその前に、その喋り方やめない? 私に敬語は必要ないわ〉
〈そ、そうですか?〉
〈そうよ。なんか壁を感じるし、これからは普通に話したらいいわ。私も、遠慮しないし〉
まあ、確かに気にしていた部分ではあるけど、いいんだろうか。
年齢的には、こちらの方が年上らしいし、問題はないけど、仮にも神様だしなと思わないことはない。
もちろん、複合神であって、本物の神様というわけではないけれど、私としては、崩した上でこの喋り方なんだよね。
でも、そうしてメリッサちゃんを神様扱いするのは失礼なのかな? 別に、神様だからと偉ぶっているわけでもないし、むしろそういう扱いには辟易してそうな気がする。
少しくらいは、チャレンジしてみてもいいかもしれない。
〈わ、わかった。もうちょっと崩してみるね〉
〈そう、そんな感じよ。私達の仲じゃない、遠慮する必要はないわ〉
そう言って、ぺしぺしと足元を叩くメリッサちゃん。
そんな急激に仲良くなった気はしなかったんだけど、思ったよりも友好度はあったようだ。
まあ、そこまで言うなら私も努力してみよう。
私はメリッサちゃんの認識を検めつつ、会話を続けた。




