第百七十五話:毒の影響
メリッサちゃんからの話を聞いて、大体の事情は把握できた。
状況を考えると、メリッサちゃんを元の世界に帰そうという当初の目的は果たせそうにない。
なにせ、国から島流しと言う名の国外追放を受けているのだから、帰る場所がない。
もちろん、複合神と言う、なにやら凄そうな力を持っているのだから、他の国とかに行けば、再起を図れないことはなさそうだが、複合神の技術は世界中に割と浸透しているものの、基本的に使うのは自国で生産した者に限るらしい。
だから、メリッサちゃんが暮らしていくには、国に頼らず、こちらの世界で言うところの冒険者とかになって、日銭を稼ぐくらいしかないようだ。
それに何より、もし他の国で活動しているのがばれれば、国から狙われる可能性もある。
こうして別世界に逃げられたのだから、できれば元の世界に帰りたくはない、と言うのがメリッサちゃんの考えのようだった。
〈親切にも助けてくれたドラゴンがいてくれたしね。私、恩はきちんと返す性格なの。だから、私はあのドラゴンのお世話をしながら、暮らしていくことにするわ〉
〈そのことなんですけど……〉
国から裏切られ、途方に暮れていたところを助けてもらったという背景を考えれば、確かにヴィオに懐くのはわかる。
しかし、一緒に暮らす気満々なところ悪いが、ヴィオには毒があるということを伝えなければならない。
いやでも、流石に毒があるとわかれば離れてくれるかな。別に、その後まったく会うなと言っているわけじゃないし、それで納得してくれるといいんだけど。
〈ああ、毒? そんなの問題にならないわ。私、毒には強いの〉
〈そうなんですか?〉
〈うん。私に混ぜられた神の因子のうち一つは、毒蛇のものだからね。実際、なんともないでしょう?〉
〈まあ、確かに〉
あの時診断してみた限り、確かに毒には侵されていたけど、体力的には問題がなかったし、そこまで深刻な毒と言うわけではなかったと思う。
まだ滞在時間が短いからだと思っていたけど、元から毒に強い耐性を持っているなら、一緒に暮らせていても不思議はない。
でも、耐性があっても毒になっていたというのは事実。
ヴィオの毒は、日が経つごとに効果が増していくタイプのものだし、今影響がないからと言って、今後も影響がないまま過ごせるかどうはわからないよね。
〈毒に強いのはわかりましたけど、それでも危険なのに変わりはないのでは?〉
〈そうは思わないけど……でも、確かに生活が不便なのは確かよね。言っちゃ悪いけど、茸以外はまずいし〉
そう言って、何かを思い出したのか、苦い顔をしているメリッサちゃん。
まあ、皆毒入りだろうし、いくら耐性があってもまずいだろうね。
私も、この数日でちょっと食べてみたりしたけど、結局途中から保存食に切り替えたし。
〈ねぇ、どうにかならない? あのドラゴン、一人で寂しそうだったし、一緒にいてあげたいの〉
〈うーん、そう言われても……〉
〈ほら、ハクは竜神でしょ? 毎日送り迎えしたりしてくれない?〉
〈流石にそこまで暇じゃありませんよ……〉
メリッサちゃん自身が飛べるなら簡単だけど、どうやらそういうわけでもなさそうだし、離れた場所で暮らして、通うと言うのも難しそうである。
いやまあ、お父さんに頼めば、送り迎え用の竜を用意してくれるかもしれないけど、ヴィオの森に行くとなったら引き受けてくれる竜はそんなにいなさそうだし、そもそもメリッサちゃんをそこまで特別待遇する理由もない。
ヴィオの話し相手になりそうだな、とは思うけど、それだけの理由で竜は動かせられないよね。
〈なら、私が住む場所にあのドラゴンを移動させるのは?〉
〈ヴィオの毒は周囲の環境も変えてしまいますから、どこへ移動させても同じだと思いますよ?〉
〈ああ、そんな強力な毒なんだ。うーん、困ったな……〉
ヴィオが毒の放出を制御できるならともかく、そういうわけではないからね。
ヴィオが移動するごとに毒に侵されたエリアが増えていくのも問題だし、たまに遊びに出かけるくらいならいいけど、そこに定住するとなったら厳しそうである。
どうしたものかと頭を悩ませていると、きゅぅ、とお腹の鳴る音が聞こえてきた。
どこからかと言われたら、目の前にいるメリッサちゃんである。
〈ああ、ちょっと話過ぎたかも。お腹すいちゃった〉
〈お腹がすくと話せないですか?〉
〈こうやって言葉を合わせるのって大変なんだよ。ハクは神だからまだ楽だけど、別世界の言葉なんて知らないし〉
〈まあ、結構話しましたし、休憩しましょうか〉
私も、しばらく竜神モードになっていたせいでちょっとそわそわしている。
こうやって事情を聞けただけでも大収穫だし、今日のところはこのくらいでいいだろう。
そう思って、元の姿に戻る。見慣れた人の姿に戻ると、先ほどまで感じていた全能感が薄れ、ちょっと違和感を感じるが、この姿が安心するのも事実だし、しばらくすれば違和感も消えるだろう。
メリッサちゃんは、お腹を押さえてしゃがみ込み、こちらに視線を向けてくる。
恐らく、ご飯をよこせということなんだろう。
先程朝ご飯を食べたばかりのような気もするが、空を見てみれば、太陽が高く上がっていたので、昼ご飯にはちょうどいい時間かもしれない。
「ルーシーさん、手助けありがとうございました」
「いえ、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありません。今後も基本的には見守りますが、何か御用があればいつでもどうぞ」
そう言って、ルーシーさんは姿を消す。
本当に、見守ってくれているというのが安心するね。まあ、監視の意味もあるんだろうけど。
すっかり話し込んでいたこともあり、エルもヴィオも心配しているかもしれない。早く行って、安心させてあげないとね。
そう思いながら、メリッサちゃんを連れ立って歩きだした。
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