第百五十九話:効率化の成果
翌日。私はロイさんの家に向かうことにした。
エルには、副学園長のことを頼んでいるので、今は別行動である。
エルならそんなに心配しなくても大丈夫だろうし、私は私の仕事をするとしよう。
「ハク、来たわね」
「フランさん。おはようございます」
ロイさんの家に行くと、すでにフランさんがいた。
普通にお茶してたけど、ロイさんはフランさんに対して思うことはないんだろうか?
一応、直接ではないにしろ、いじめていた張本人だし、普通だったら少しは気にしそうだけど。
「いや、フランちゃんから何かされたことはないしなぁ……」
「そうなんですか?」
「うん。いじめてくる奴と一緒にいることはよくあるけど、直接手を出されたことはないし。それに、ほんとは優しい子だって知ってるからね」
明らかにいじめの指示をしているとわかっていても、それは何か理由があると思っているようだ。
元々は仲が良かったようだし、その時の関係を信じているのかもしれない。
ロイさんも割とおおらかな性格しているよね。
まあ、私も似たような考えはするかもしれないけど、完全に信じ切れるかと言われたらわからないし。
よっぽど仲が良かったんだろうね。
「さて、さっそくで申し訳ないですが、魔法陣は覚えてくれましたか?」
「うん、まあ。見たことない魔法陣だったけど、どんな魔法なの?」
「内容的には、昨日やってもらった上級魔法と同じようなものです。ただ、コストを抑えるために、色々と手を加えています」
「へぇ、ハクちゃんって器用なんだね」
「器用なんてレベルじゃないと思うけど……」
ロイさんののんびりとした意見に、フランさんが小さく呟く。
と言うか、これが世紀の大発見だとするなら、今回の発表はやばかったりする?
今回発表する内容は、まさにそれだし。
あんまり目立ちたくはないんだけど……まあ、最悪ルシエルさんに全部任せてしまおう。あの人が呼んだんだし。
「まずは庭に行きましょう。今日も魔法の練習をします」
「わかった」
場所を移して庭である。
昨日、均した地面だけど、特に陥没しているところもないので、多分大丈夫だったんだろう。
問題があれば、別で固める必要があったかもしれないけど、特に処置の必要はなさそうだ。
「ロイさん、まずは覚えてもらった魔法陣を、頭の中で思い浮かべてくれませんか?」
「うん……思い浮かべたよ」
「もっと正確に、細部まで隅々とイメージしてください。あ、それとこちらは向かないように、あっちを向いててくださいね」
「う、うん……」
ロイさんは何をやっているのかわかっていないんだろうが、まずは魔法陣を正確に思い浮かべられるかどうかである。
この時、イメージがぼんやりしていると、それだけでかなり不安定になるから、はっきりと思い出さなければならない。
これが大雑把でもいいなら、ある程度戦闘にも流用できそうなんだけど、そこらへんが難しいよね。
まあ、後衛で、防御や回避を捨ててやるんだったら行けるかもしれないけど、そこまで前衛を信用できるかと言われたら難しいだろうし。
そこら辺の運用については、特に考えようとは思ってない。
元々、これは私が使いやすくしようと思って作ったものであり、誰かに教えることを想定しているわけではない。
だから、多少教えづらいのは仕方のないことだ。
「お、思い浮かべたつもりだけど……この後は?」
「きちんと思い浮かべられたら、放ちたい方向に向かって魔力を流してみてください。それで魔法が発動するはずです」
「えー? うーん、そういうことならやってみるけど……」
半信半疑の様子だったが、ロイさんは軽く手をかざし、キーとなる魔力を流す。
その瞬間、ロイさんの目の前に、巨大な土の槍が幾本も隆起した。
うん、威力としては申し分なさそう。昨日やってもらった上級魔法と大差ないと思う。
後は維持できるかどうかって話だけど……。
「えっ!? ほ、ほんとに発動した!?」
「噓でしょ……」
ロイさんは驚いてしりもちをついてしまったが、土の槍が消える様子はない。
少し震えているような気もするが、昨日と違って、魔力に余裕があるからか、消滅まではいかないようだ。
効率化もきちんとできていそうである。うまく行ったようで何よりだ。
「どうですか? 魔力の方は」
「え? ……あれ、まだ余裕がある?」
「うまく行ったみたいですね。理論上は、中級魔法を撃つのと同じくらいのコストにしてあります。中級魔法を安定して撃てる腕があるなら、この魔法も安定して撃つことができるでしょう」
「す、凄い……」
軽くロイさんの魔力を確認してみたが、まだまだ余裕そうだった。
この調子なら、一発と言わず、二発、三発と撃っても乱されることはないだろう。
まあ、落ち着いた場所でなら、って言う条件が付くけどね。
「ねぇ、これどういう原理なの? 魔法陣を思い浮かべただけで魔法が発動するなんて」
土の槍を消し、落ち着いたところでロイさんがそう聞いてくる。
どういう原理と言われても、単純に、魔法に必要な魔法陣と魔力を用意したから、と言うくらいしか言うことはない。
まあ、一般常識からすると、詠唱が必要なのかもしれないけど、この町では詠唱破棄が当然のように行われているわけだし、やってることは大差ないと思うんだけどな。
要は、思い浮かべているのが、詠唱か、魔法陣かの違いだけである。
詠唱は、魔法陣を簡略化して展開するためのキーみたいなものだから、安定はするけど、威力はそこまででもない。
だから、きちんと練られた魔法陣を直接思い浮かべた方がよっぽど威力が出るわけだ。
「なるほどぉ……。なんか、わかったようなわからないような……」
「詳しく理解する必要はないですよ。ただ、教えたとおりに魔法陣を思い浮かべることができれば、魔法は簡単に発動できます。それだけ覚えていれば大丈夫です」
「そっかぁ」
「他の魔法の魔法陣も考えてきたので、よかったら覚えてみてください」
そう言って、あらかじめ書いておいたメモを渡す。
これをすべて使いこなせというわけではないけど、この中から数個でも覚えられれば、ノルマは達成したと言えるだろう。
後はロイさんの記憶力にかかっている。
まあ、不安なら、メモを常に持ち歩いて、見ながら思い浮かべても多分行けると思うけどね。
かなりの隙になるから戦闘では使えないかもしれないけど、ただ単に披露するだけなら問題はないと思う。
ロイさんも、ちゃんと上級魔法が使えるようになって喜んでいるようだし、後は経過観察していればいいかな。
そんなことを考えながら、ロイさんのことを見ていた。




