第百五十四話:学園長の動向
話を聞く限り、元凶は副学園長にあると思う。
副学園長は、自分が学園長と言う座に収まりたいがために、始まりの貴族を通じてのし上がろうとしている。そのための点数稼ぎとして、自分が見出した人物が優秀な成績を収めるのを見せ、こいつは使えるなと思ってもらいたいわけだ。
しかし、その慧眼は悪くはないが、誰もかれもが優秀者として卒業していくわけではない。外では天才と呼ばれるような人材でも、この町ではそんな天才がごろごろいる。
だから、悪くもないけど良くもない、そんな普通の人材ばかりが流れていった。
結果として、点数稼ぎはうまく行かず、副学園長は勝手に焦り、それなら無理矢理優秀者を作り出してしまえばいいと思いつき、周りにいじめと言う名の教育を施してもらうことによって、優秀者を作り出そうとした。
しかし、ただいじめをしているだけでうまく行くはずもなく、ロイさんは休学。焦った副学園長はさらに悪手を打ち、今に至るというわけだ。
どう考えても、副学園長の頭が悪すぎる。
そりゃ確かに、得意分野で負けたりすれば、次こそは勝ってやるとやる気を湧きあがらせることはあるかもしれない。
いじめに対する考え方にも、今に見ていろ、将来凄い職業について見返してやるという考え方もある。
だけど、それでうまく行くのは一部の心が強い者だけだ。大抵の場合は、いじめられたら心を病み、その道から離れていくだろう。
今回は、フランさんと言う味方がいたからこそ、まだそこまで心を病んでいないように見えるが、それがなかったら、ロイさんはとっくに学園をやめていると思う。
恐らくだけど、手段と目的が入れ替わってしまっているんだろうね。
副学園長の中では、強くなってもらうためにいじめているんだと思うけど、生徒達からすれば、いじめの口実を与えられたとしか思っていないだろう。
そりゃ、最初は中にはまともに教えてあげようとした人もいたかもしれないけど、周りがみんないじめている中、自分だけが味方したら自分に対象が移ってしまうかもしれない。
始まりの貴族として、権力を持っているフランさんでもなければ、あえて庇おうなんて思う人はいなかっただろう。
この様子だと、副学園長も、なんでうまく行かないのか悩んでいそうだね。
そもそもの始まりが間違っているということにも気づかずに。
「学園長はどう思っているんですか?」
「一度、手紙を送ってみたけれど、返事は簡潔に、善処する、とだけ。本当に読んでくれたのかしら」
「微妙な回答ですね」
「あの学園は、学園長がいたからこそこの町でも有名になれたと思ってる。だから、生徒からの手紙を無碍にすることはあまりないと思うのだけど」
返事を返している以上、目は通しているはず。それでも、そんな簡素な返事しか出さなかったということは、関与する気がないのか、それとも。
前向きに考えるなら、副学園長の目を欺くためにあえて突き放したような言い方をしたとも考えられるけど、検閲でもされてるんだろうか。
いや、検閲されているとしたら、フランさんも目をつけられてしまう気がするし、それはないのだろうか?
学園長が動くつもりがない以上は、こちらで解決しなければならない。
一体どうしたらいいんだろうね。
「簡単なのは、ロイが本当に魔法が上達して、学園で優秀な成績を収めることでしょうね。それなら、いじめる理由がなくなるわけだし」
「でも、その手はあまりとりたくないでしょう?」
「なんでわかるのよ」
「自分が見出した優秀者を、ただ学園でいい成績を取ったという実績だけで見逃すわけがないでしょうから」
ただ単に点数稼ぎをするだけなら、それでもいいかもしれない。
けれど、そうやって手塩にかけて育てた人材を、卒業したらはいさようならではもったいなさすぎるだろう。
自分の優秀者を誇示するためには、そうやって育てた人材を、よりうまく使ってもらうことである。
つまり、ロイさんは卒業したら、そのまま副学園長が懇意にする始まりの貴族の傘下に入る可能性が高い。
別に、始まりの貴族は悪徳貴族ではあるけど、魔法の優秀者に対しては寛容だ。きちんと実力を示せれば、案外悪くない勤め先なのかもしれない。
けれど、ロイさんが今後の就職先をどう思っているかはわからないし、それを無理矢理狭めるようなことはしたくないだろう。
もちろん、ロイさん自身がそれを望むって言うなら何の問題もないけれど、そうでないなら、単純に成績優秀者にして送り出すって言うのは難しいわけだ。
「よくわかってるじゃない。そう言えば聞いてなかったけど、ハクって貴族なの?」
「一応はそうですね。剣爵ではありますが」
「へぇ、なんだか意外だわ」
「よく言われます」
実際、この肩書を使ったことはほぼないしね。
一応、令嬢とかではなく、当主だから、フランさんより身分は上なんだけど、それは言わない方がいいだろう。
そもそも、そんな分け方したくないし。
「それより、話してよかったんですか? 秘密にしていたんでしょう?」
「見ず知らずのロイを助けるために、決闘を挑んでくるような奴なんだから、別にいいでしょ。それとも、このネタを使って私をゆする?」
「そんなことはしませんよ。もちろん、エルも、ルシエルさんもね」
「あ、そっちのことを考えてなかったわね……」
バツが悪そうな目でエルとルシエルさんの方を見る。
成り行きで着いてくることになったけど、エルはともかく、ルシエルさんは戻ってもよかったのではないかと思うけどね。
ロイさんに魔法を教えるように頼まれたのは私だし、ルシエルさん自身学会発表の準備で忙しいだろうし。
「はっはっは、成り行きではありますが、たまにはこういうのもいいでしょう。純粋に、この町の生の魔法のレベルを見たかったというのもありますがな」
「ルシエルさんに集まる人達って、みんな強そうですしね」
ほとんど幽霊学会員ではあるけど、ルシエルさんの名前は割と有名である。
そんなルシエルさんに会いに来る人達は、上級貴族や、研究者ばかりだ。
確かに、ロードレスに置いての普通、というものはなかなか見れないかもしれないね。
「ちなみに、フランさんから見て、ロイさんはどの程度の実力なんですか?」
「可もなく不可もなくって感じね。属性が土で、使えるのは中級まで。上級も使えないことはないけど、安定しないって感じ」
「十分では?」
「この町ではそうもいかないのよ。中級まではできて当たり前、上級も安定して数個使えるくらいじゃないと、優秀者は名乗れないわ」
「やっぱりレベルが高いですね」
わかっていたことだけど、水準はめちゃくちゃ高いようだ。
私が通っていた学園では、上級なんて教えてもらいはするけど、使える人なんてほとんどいなかったのに。
となると、ロイさんはやはり普通、と言う立場なんだろう。
副学園長としては面白くないだろうが、この町において普通になれるだけ凄いと思う。
さて、どうやって教えたものか。まずは会ってみて、魔法がどの程度使えるのか見ないと始まらないけど、うまく教えられたらいいんだけど。
そんなことを考えながら、歩みを進めた。
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