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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第五章:学会発表編
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第百四十九話:思っていたのと違う

 それから三日ほどが経った。

 事を急ぐなら、すぐにでも何かが起こると思って、ルシエルさんにも事情を説明し、警戒していたんだけど、すぐに何かしらのアクションが起こることはなかった。

 念のため、探知魔法でロイさんやフランさんを探ってみたけど、特におかしな点は見つからなかったので、多分普通に過ごしているんだと思う。

 まあ、よく考えればロイさんは休学中とはいえ、二人とも学園に通う生徒なのだから、昼間っから何かすることは難しいかもね。

 いや、それだとあの時昼間からいじめていたのがおかしいか。

 確かに学園では授業を好きに取ることができるから、場合によっては時間が空くこともあるけど、わざわざそういう調整をしたわけではないよね?

 ちょっとよくわからないけど、まあ単純に休みだったって可能性もあるし、そこまで気にすることじゃないか。


「そろそろ何か起こる気がしないでもないけど」


「そうですね」


 感情的に動くのであれば、本当にすぐに行動を起こしていてもおかしくはないけど、三日の間何もしてこなかったってことは、恐らくこちらを調べていたんだろう。

 実際、意識してみてみれば、怪しそうな人も何人か見かけたし、遠目からこちらの情報を把握しようとしていたのかもしれない。

 ただ、こちらの情報と言っても、そんなに大したものはない。

 私がオルフェス王国の所属だということや、宮廷魔術師であるルシエルさんの弟子としてやってきたことなんかはすぐにわかると思うけど、だから何だって話だ。

 ああ、でも、ルシエルさんって魔法に携わっている人の中では結構有名なんだっけ? なら、もしかしたらちょっとは警戒されるかもしれないね。


「あ、そんなこと言ってたらさっそくかな?」


 探知魔法で宿舎に近づく反応を検知する。

 ここ数日私達の周りを嗅ぎまわっていた人もいるし、恐らくフランさんの家の関係者か何かじゃないかなぁ。


「はい、どうぞー」


 そんなことを言ってたら、部屋の扉がノックされる。

 特に準備することはないので、軽く身だしなみを整えてから返事をした。


「失礼する。貴殿がハク殿で間違いないだろうか?」


 入ってきたのは全部で三人。

 一人はルシエルさん。一応、私は登録上はルシエルさんの弟子と言うことになっているし、会うためには師匠であるルシエルさんの許可が必要になったんだろう。

 師匠を差し置いて弟子に連絡を取り付けるなんて失礼だしね。

 で、もう一人は背の低い女性。

 この人は、私達の周りを嗅ぎまわっていたうちの一人のようだ。

 一見子供にも見えるけど、恐らくショーティーだろう。

 で、最後の一人が、今話しかけてきたこちらも背の低い男。

 子供にしては口ひげが立派だし、この人も恐らくショーティーなんだろうな。

 ショーティーは、力が弱い代わりに、手先が器用で、魔法の扱いにもそれなりに長けている種族として有名である。

 流石に、エルフの特化具合には勝てないけど、人間と同じくらいには魔法は得意分野だろう。


「はい、私がハクですよ。どちら様でしょうか?」


「おっと、唐突に失礼した。私はハムールド・フォン・グラム。グラム家の当主をやっている」


 そう言って、どや顔を見せつけてきた。

 いや、まさか当主自ら来るとは思わなかった。どんだけフットワーク軽いの?

 フランさんの家の人だというのは当たってたけど、これは完全に予想外である。

 私は動揺を押し殺して、勤めて冷静に相手をすることにした。


「ご当主自ら会いに来ていただけるとは、とても光栄です。しかし、そのような栄誉を賜るようなことをした覚えがありません。ご用件は何でしょう?」


「うむ、実はフランのことなのだが……」


「旦那様、ひとまず部屋の中に入った方がよろしいかと」


「む、それもそうだな。すまないが、部屋の中に入ってもいいかな?」


「もちろんです。客室で勝手がわからず申し訳ありませんが、ひとまずお茶をご用意しますね」


 私はちらりとルシエルさんの方を見る。

 ルシエルさんは、それに対して軽くウインクをしてきた。

 この感じを見るに、そう悪い話と言うわけでもないのかな?

 まあ、悪い話だったとしても、返り討ちにするだけだからいいけどね。

 持ってきていたティーセットでお茶を出し、隣の部屋から人数分の椅子を持ってきて、ひとまず落ち着くことができた。

 貴族を相手にするにはちょっと簡素過ぎるけど、まあ、あっちから来たんだから多少は許してくれるだろう。


「うむ、まずは突然の訪問を許してほしい。どうしても、早急に解決しておきたいことだったのだ」


「いえいえ、わざわざお越しいただいてありがとうございます」


「それで、用件と言うのは、うちの娘である、フランのことだ」


 そう言って、ハムールドさんはここに来た用件を話し始めた。

 先日、家に帰ってきたフランさんが、どうにも落ち込んでいたので話を聞いたところ、決闘で小さな子に負けたのだという。

 その子はここに住んでいるわけではなく、学会発表の付き添いできたらしいのだけど、一緒にいた護衛らしい女性をあえて使わずに、自分で決闘を挑んできたのだ。

 確かに、この町では子供の頃から優秀な魔術師は多いし、あえて決闘を挑んでくるってことは、それなりに実力があるのはわかっていた。

 けど、それでも、始まりの貴族の娘として優れた教育を受けてきたはずの自分が、まさか手も足も出ずに負けてしまうとは思わず、意気消沈していたというのだ。

 これを聞いたハムールドさんは、すぐさまその決闘を挑んできたという少女のことを調べた。すると、どうやらオルフェス王国でも有名な、ルシエル殿の弟子であるという。

 見た目が幼く見えても、実際の年齢は高いなんて種族はいくらでもいる。自分がその一角であることを認識していたハムールドさんは、その少女がどんな人物なのか興味を抱いた。

 しかし、それはついででしかなく、本来の目的は、消沈する娘をどうにかして元気づけてやって欲しくて来た、と言うことらしい。

 私がルシエルさんの弟子だということを知って、優れた魔術師だと思ったようで、負けたのは単純に実力が足りなかったからだと思い知った。

 しかし、それを自分の口から言っても、すぐには聞き入れてもらえないだろう。

 そこで、負けた張本人である私の方から直接アドバイスなりをしてもらえたら、負けた理由もはっきりし、立ち直ってくれるのではないかと思ったようだ。


「つまり、フラン様を慰めてあげればいいということですか?」


「うむ。できれば、何が悪かったのか、アドバイスも一緒に添えてくれると助かる。ただの慰めの言葉では、逆効果になりかねないしな」


「えっと、それだけでいいんですか?」


「そうだとも。ああ、もちろん報酬は払う。娘が元気になった暁には、相応の額を払うし、この町に来た時に便宜を図ろう」


 なんというか、思ってたのと違う。

 エルの話を聞く限りでは、悪徳貴族と言っていいような、傲慢な貴族を想像していたんだけど、この様子を見る限りはそんな兆候は一つも見られない。

 娘のことだから、と言うのはあるだろうけど、当主自らが動いているし、私のことを容姿で馬鹿にするとかもなく、きちんと一人の魔術師として扱ってくれている。

 それほど、ルシエルさんの影響力が強いってことなんだろうか。

 確かに言われてみれば、優秀な魔術師にはいい人扱いされていると言っていたし、私は優秀だと判断されたのかもしれない。

 まあ、ただ慰めるだけでいいなら、そこまで手間でもないし、問題はないだろう。

 変にこじれなくてよかったと安堵しつつ、了承の意を示した。

 感想ありがとうございます。

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