第百四十八話:グラム家とは
その後、ロイさんを通りまで送って、別れた。
家まで送っていこうかとも思ったけど、流石に迷惑かと思って、安全そうな通りまで連れて行っただけに留めたのだ。
まあ、フランさんの仲間がまた何かちょっかいをかけてくる可能性はあるけど、流石に今日のところは大丈夫だろう。
そういうわけで、結構時間も経っていたので、宿舎へと帰ることにした。
「結局、お昼食べそこなったね」
別に、基本は朝と夜の二食だし、昼を抜いたところで問題はないけれど、せっかくならこの町特有の料理とか食べて見たかったなと思わないことはない。
まあ、まだ時間はあるんだし、明日以降にでも探せばいいだろう。
ああ、そういうことならロイさんに食堂の場所でも聞いておけばよかったかな。
学園に通ってるってことは、それなりにこの町に住んでいるだろうし、場所は知っていただろう。
今度会うことがあったら、お勧めの場所でも聞いてみようかな。
「ただいま戻りました」
「エル、お帰り」
部屋でくつろいでいると、エルが戻ってくる。
私がお風呂に入りに行く時に、ちょっと調べたいことがあると言って外に出て行ったんだけど、何を調べてきたんだろうか?
「一応、例の娘について調べておいた方がいいかと思いまして」
「娘って、フランさんのこと?」
「はい」
まあ、確かに気になることは言っていた。
なにせ、このロードレスを作ったという貴族家のうちの一つだという話だし、権力的に見れば、領主とか王族に匹敵する感じじゃないだろうか。
今回は、一応正式な決闘として処理したわけだけど、それを相手の親がどう思うかはわからない。
下手をしたら、難癖をつけられてもおかしくないし、一応知っておくのは悪くないか。
「それで、結果は?」
「彼女の家、グラム家ですが、どうやら同調魔法と言う魔法の開祖として有名な家らしいですね」
「同調魔法?」
「自分の特定の状態を相手にも共有することができる魔法、だそうです」
エルの話によると、例えば自分が身体強化魔法などで能力を強化した状態で同調魔法を使うと、相手も同じ状態になるらしい。
複数人相手に同時に仕掛けることもできるようで、これを使えば、一人の強化で複数の強化を行えるとして、戦いにおける優秀な支援役として名を馳せているようだ。
確かに、自分の状態を相手に押し付けられれば、相手は魔力を消費せずとも強化されるわけだし、割と便利そうな魔法である。
「この町を作ったとされる、いわゆる始まりの貴族達は、いずれも魔法に長けているようで、大抵は何かしらの魔法の開祖を名乗っていたり、それを専門にする家が多いようですね」
「まあ、魔法の聖地として作り出された場所なんだし、当然と言えば当然だね」
最初から、魔法を研究する場所として作り上げるつもりだったのだから、魔法に長けた人が選ばれるのは当たり前のことである。
もちろん、研究者達も必要だとは思うけど、そこら辺の人材は始まりの貴族に入っていないんだろうか。
「人柄とかはどうなの?」
「軽く調べた程度では噂くらいしかわかりませんでしたが、どちらかと言えば悪い寄りですね」
始まりの貴族達は、その功績を称えられて、この町においては王族にも等しいくらいの権限を与えられているらしい。
そんなことしていいのかと思わなくもないけれど、すべての家が魔法馬鹿と呼べるような連中であり、魔法のことになれば連携を惜しまないような良好な関係であったことから、運営の指針においてはそこまで軋轢は生まれていないようである。
ただ、魔法に関しては優秀ではあるものの、性格がいいかどうかは別のようで、いわゆる悪徳貴族のような一面もあるらしい。
魔法の研究のために一部の人達だけに重税を課したり、優秀な人材だけをあからさまに贔屓したり、とにかくこの町では、魔法において優秀でなければ生きていけない、そんな町になっているようだった。
だから、魔法の扱いに長けている、いわゆる優秀者からは感謝されることも多いが、実力がそこそこだったり、実用性のない魔法を扱っていたりする人にとってはとんでもない悪人、みたいな評価らしい。
この町は、優秀な魔術師しかいないと言っているし、そういう裏の事情は隠されているってことなんだろう。
なんだか町の闇を見た気がする。
「フランさん、大丈夫かな」
話を聞く限り、私は王族みたいな連中に喧嘩を売ったことになるんだけど、そこらへんは特に気にしていない。
別に、非合法な方法で攻めていったわけではないし、最終的に決闘を受けたのはあちらである。
学会発表が少し不安ではあるけど、最悪私がひきつけて、ルシエルさんだけで発表してもらえば済む話だし、そこまで大きな問題ではない。
ただ、フランさんの方は少し心配だ。
それだけ優秀な貴族であるフランさんなら、恐らく今まで決闘で負けたことなんてなかっただろう。
他の始まりの貴族とかと戦ったならわからないけど、最低でも格下相手に負けたことはないはず。
それが、私と言う相手から見たら格下相手に一方的に負けたとあっては、自分の家の顔に泥を塗ることになる。
もちろん、フランさんが正直に報告するとは限らないし、報告したとしても、娘をちゃんと大事にしている親ならばそこまで大事にはならない気もするけど、もしかしたら悪い方向に舵が取られる可能性もある。
そんな格下相手に負けるような奴はうちの子じゃない、みたいなね?
まあ、フランさんとは初対面だし、ぶっちゃけどうなろうと私には関係ないことだけど、仮にも私が喧嘩を吹っかけたわけだし、それでフランさんの立場が悪くなってしまったらちょっと後味が悪い。
そんなに悪い人に見えなかったというのが特に響く。
だって、確かにフランさんは取り巻きにロイさんをいじめるように指示していたけど、自分から手を出す様子は全くなかった。
むしろ、少年二人がやりすぎないように監視していたようにも見える。
最初は学園でも仲が良かったようだし、何か理由があっていじめざるを得なくなり、それに周りが変に同調しちゃったものだから、退くに退けなくなった、って感じなんじゃないかなぁ。
まあ、本当にそうかどうかはわからないけど、あの決闘の時点でお灸は据えてあげたわけだし、あんまり酷すぎる処罰が下らないようにと願いたい。
「まあ、変に干渉しすぎるのもよくないし、ひとまずは様子見するしかないね」
変に開き直られてロイさんに再びいじめをされても困るし、しばらくは様子を見て、何かアクションが起きたら対処する、これで行ったらいいと思う。
「変にこじれなきゃいいけど……」
私は冷えた水を飲みながら、窓の外を見る。
まあ、考えすぎても仕方ないし、今日は休むとしよう。
私は寝間着に着替えた後、エルと一緒にベッドに横たわった。
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