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第一話:捨てられたと思ったら異世界に転生していた話

 寒い、痛い、苦しい。どうやら私は崖から落ちたらしい。全身に走る痛みは手足の痺れを誘発し、目の前に聳え立つ崖は霞んで見える。


 私はここで死ぬのだろうか。思えばなんともあっけない人生だった。


 貧しい農村に生まれ、来る日も来る日も倒れるまで父の仕事を手伝い、僅かな食事をとって寝るだけの毎日。そんな日常でも、私にとっては幸せな日々だった。

 それが変わったのは10歳の時。私のいた村では10歳になると村の子供達を集め、魔法の適性を調べる儀式を行う。魔力に反応する特殊な石を使い、それぞれに適性のある属性と魔力の量を調べるのだ。


 ここで魔法の適性ありと判断された子供達はその力を家族のため、また村のために役立てるために町へと向かい、魔法の修練を積みながら冒険者となるのが普通だ。まだ子供で、しかも駆け出しともなれば稼ぎはたかが知れているし、そもそも冒険者として成功できず、そのまま帰ってこない者も多い。しかし、それを当てにしなければならないほど村の財政は厳しかった。

 私には兄と姉がおり、二人とも冒険者として家族を支えてくれている。両親は、より豊かな暮らしのために私も冒険者になれることを期待し、祈るような気持ちで儀式に臨ませた。しかし、結果は酷いものだった。


 魔法の適性はあった。基本となる火、水、風、土の属性は問題なく扱うことができるという。それどころか、特殊属性の雷や氷、光と言った属性さえも適性があった。ダメだったのは魔力の量だった。私の魔力は雀の涙ほどしかなかったのだ。

 いくら魔法の適性があろうとも魔力がなければ魔法は使えない。魔法が使えなければ剣の扱いもままならないような少女が冒険者などできるはずもなく、両親が夢見た道は潰えたのだった。

 私は落ち込む両親を見て、もっとお手伝いを頑張ろうと思った。大好きな両親のために少しでも報いようと思ったのだ。だが、現実は非情なもので、私が役立たずだと知った両親は私を森に捨てたのだ。


 最初は理解できなかった。なぜ私は捨てられたのか、何か悪いことをしたのだろうかと自問自答した。私は両親に愛されていると思っていたが、どうやらそれは妄想にすぎなかったようだ。それに気づいてしまったら、私は昼夜を問わず泣き続けた。なんとか両親の元に帰ろうと森をさ迷ったが、どこに足を延ばしても村に辿り着くことはできなかった。

 枝や葉っぱで体が擦りむけ、空腹で足はふらつき、動けなくなるのも時間の問題だった。そして、運悪く崖から落下したというわけだ。泣きながら闇雲に歩き続けた結果だった。


 足が酷く痛む。動かそうとすると激痛が走る。どうやら骨折しているようだ。空腹のせいもあってか体を動かすのも億劫になり、私は何とか身体を仰向けに転ばせて空を仰ぎ見た。

 空が青い。時間的には昼頃だろうか。以前なら休憩時間も忘れて研究に励み、結局お昼を食べそこなっていたことだろう。あるいは同僚に突かれて今行くと返事はするが、結局没頭して忘れてしまうかのどちらかだ。

 ……いや、待て、今のはなんだ? 研究? 同僚? 私は貧しい村に生まれたただの10歳の少女だぞ? 研究なんて仰々しいことは誰もしていなかったし、友達はいたが、同僚と呼べる者などいなかったはずだ。落ち着け、私は誰だ?


 私はハク。辺境の村で育ったただの女の子。……であるはずなのに、なぜかもう一つの人物像が浮かんでくる。

 春野白夜。大手薬剤メーカーの研究員であり、もうすぐ30歳を迎える男性。それが自分。

 ……いやいやいや。おかしいおかしい。私は私であるはずなのに、なぜか二人の私が混在している。いや、この感じはどちらかというと思いだした? かのようだ。

 崖から落ちた時の衝撃で忘れていた記憶を呼び起こした? だとしても、10歳であるはずの私が30年も生きた、しかも男性の記憶を持っているのはおかしい。

 記憶の断片を思い出したせいか、他にも次々と記憶が蘇っていく。地球……日本……車に撥ねられて……。頭痛を伴う記憶の噴出をしばらく体験していると、ようやく事情が呑み込めてくる。

 私はどうやら転生してしまったようだ。私は前世で地球の日本という場所に住んでいて、車に撥ねられて死んだ。その後転生し、今の世界でハクとして生まれた、ということらしい。


 あまりに突飛な出来事にさらに頭痛が激しくなる。それと同時に僅かな羞恥心がこみ上げてきた。この世界では女の子に生まれたとはいえ、前世は成人した男性の身。今まで何一つ違和感なく行ってきた女の子としての所作は男性としての記憶を思い出した今では黒歴史でしかない。思わず頭を押さえたくなるが、力が入らずぴくりと動くのみだった。

 そうだ、今はそんなことを考えている場合じゃない。この窮地を脱することが最優先だ。


 冷静になったところで状況を分析する。今、私は崖から転落し、運良く生き延びたものの足を骨折してしまい満足に動けない。さらに極度の空腹状態にあり、早急に何か食べなければ数日で餓死してしまうだろう。ついでに頭痛も激しい。うん、割と深刻な状態だ。

 とにかく、動けないことには何も始まらない。痛みに耐えながら無理矢理体を起こすと、ようやく周囲の情報を知ることができた。


 そこはとても綺麗な場所だった。深緑色の草花が生え揃い、近くには小川が流れている。森の中のはずだが、見る限りでは疎らに木があるだけでどちらかというと草原のような印象を受ける。ぽっかりと空いた空からは日の光が差し込み、柔らかな風が頬を撫でていくのが心地よい。森の中にこんな綺麗な場所があるとは知らなかった。

 しかし、景色に見とれている余裕はない。周囲に何か使えそうなものはないか探してみる。周囲には草花が生えているのみだったが、その草の一つには見覚えがあった。


「これ、薬草だ……」


 森に入ったのはこれが初めてではない。村の近くの浅い場所ではあったが、採集をしに潜ったことは何度かある。この草はその時に見たものとよく似ている。葉が瑞々しかったり、とても大きいという差異はあるが、傷薬に用いられる薬草だ。

 これを使えば応急処置くらいならできるかもしれない。早速手を伸ばしてみるが、どうにも腕が上がらない。なんでだと思って見てみると、肘の少し上あたりがぱっくりと裂け、血がだらだらと流れていた。道理で腕が冷たいはずだ。こっちも早く止血しないとまずい。

 しかし、もう一方の手は体を支えているので動かすわけにはいかない。手を伸ばせば届く距離にあるというのにもどかしい。なんとかこちらに引き寄せることはできないだろうか。


 うーん、こんな時に【ストレージ】が使えれば楽なんだけどな。

 【ストレージ】とはアイテムを無限に入れて置ける収納箱のようなものだ。いつでも好きな時にアイテムを出し入れすることができ、冒険者や商人などが持つと重宝されるスキル。もちろんアイテムの持ち運びがものすごく有利になるスキルではあるのだが、収納する際の射程は視界内の約3~4mくらい。今私が手も足も出ない距離も見るだけで引き寄せることができるのだ。

 まあ、結構なレアスキルだからそうそうお目にかかれないんだけどね。スキルは何かしらの条件を満たすことで習得できるものもあるらしいんだけど、詳しい条件はわからない。【ストレージ】なんてどうやったら手に入るのやら。

 ……普通の事のはずなのに、なぜだかゲームみたいだなと思ってしまう。やはり前世の記憶が影響しているのだろう。魔法はもちろんの事、スキルなんてもの存在してなかったからね。それを考えればだいぶゲーム寄りな世界だと思うよここは。


 それはさておき。

 そんな夢物語なことを考えている暇はないのだ。早く何とかしないと、すでに足の感覚がない。腕の出血もだいぶやばいことになってる。早く薬草を取らないと……って、あれ?

 改めて先ほど見ていた薬草を見てみると、そこには何もなかった。いや、薬草自体は他にも自生しているんだけど、さっき見ていたやつがない。あれー?

 ……まさかね。

 万が一ということもある。私は頭の中で袋に入れた薬草を取り出すようなイメージを取った。すると、私の手の中に薬草が現れたではないか。


「……マジか」


 どうやら【ストレージ】、使えちゃうみたいです。いやいやいや、どうしてそうなったの。頭打って色々おかしくなった? いや、前世の記憶を取り戻すって時点でおかしいのは確定なんだけどさ。

 まあ、うん、いいや。今は応急手当が最優先。薬草を咥え、噛んで汁を出す。うへぇ、苦い。でも、効果があるのはこの汁だから仕方ない。

 崖を背に寄りかかることで無事な腕を使えるようにし、口も使って腕の傷に汁を擦り付けていく。ものすごく沁みる。痛い痛い。でも、ここは我慢。

 あとは適当な葉っぱを巻き付けて縛り、止血すればひとまずは大丈夫だろう。

 ……はぁ、ものすごく疲れた。眠い……。

 もともと体力的に限界だったということもあり、止血が終わったと同時に私は気絶してしまった。

 自分で書いて自分で読んで満足していたけど思い切って投稿してみることにしました。

 楽しんでいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
二人の仕送りでも貧しいってどうなの? 村に問題があるというより、親の浪費が問題ですね
[一言] 記憶覚醒したからストレージが発現したのか、あるいは元から持ってたけど気づかなかったのか どっちにしても稼ぎのアテにならんとわかると森に捨てるような毒親の元にいる時に発現しなくてよかったですね…
[一言] 可愛い娘を捨てざるを得なかったにしても、こんなひどい親が居るのかと、物語にしても思ってしまいます。ハッピーエンドであると思って読んでいきます。
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