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第六話 【ああああ】さん出てきてくださいこの野郎

 なんでこうなった? 何が原因だ? 授業中、ずっとあの悪夢の原因を考えていた。

「まあまあ過ぎたことだし。気にすんなって。しっかし不思議な事件だったよなアレ。なんだったんだろうな?」

「意味分かんねぇだろ? 俺がなにしたっつーの!」

 同じくクラスの蒼汰が励ましてくるが、正直聞く耳が持てない。野球推薦で上杉学園に入った。取り敢えず、この高校生活は野球をやっていればいいと思っていた。勉強なんてしなくていい。ただただ野球をするものだ。 ……と。それが当たり前だと。それがクビってなんだよ。部活にクビとかあんのかよ? おかしい。この野球部、いや高校全体が。クソみたいに理不尽過ぎる。

 頭を抱えていると放課後になっていた。そのまま家に帰る者に、部活動に急ぐ者に。教室からはひとり、またひとりと姿を消していく。俺はかつて紛れもなく後者だった。あんなに行くのが億劫だった部活。いざ行くなと言われると、なんだか複雑だ。

「めそめそすんなって。そのうちほとぼりが冷めればまた絶対一緒に野球できるって。えおん先輩に良いカッコ見せなきゃいけねえだろ?」

「えおん先輩? 誰だ?」

「この前の試合でお前に声を掛けてきた二年生の先輩じゃねえか? 学校のアイドルに一人で抜け駆けしやがって」

 あの時の。えおんって名前だったんだ。 ――えおん先輩か? めっちゃ可愛いかったよな。

「あの~気持ち悪い想像している所悪いが……。俺部活行くぞ。平助、諦めんじゃねえぞ。お前が居ないとつまんねえんだよ。いいか、俺は待ってるからな」

 蒼汰も行ってしまった。しかもなんか恰好良いセリフを吐いて。

「てめぇはアニメのキャラかっつーの。調子こくな!」

「ハハハ。ちっとは元気出たじゃねえか!?」

 さーてと。暇だ。どうせ帰ってもやることはない。今回の事件について俺なりに整理、考察してみる。

 あの日。いきなり俺の肩が異常化した。 ――蒼汰のグローブ破壊。 ――二瀬の左手粉砕。思い返してみれば前兆もあった。

 さて異常になったのはいつからだ? 試合の前日。文化祭の出し物で遠投対決を行った際も肩を使った。校舎の窓ガラスに当てたが、あれは自分でも想定の範囲内だ。あれくらいは行くだろうと思っていた。

 文化祭。練習試合。この間に俺に何かかしらの変化がもたらされたことになる。

 思い当たることと言ったら、、、 言ったら、、、 あの変な夢以外には――。しっかし、夢だぞ。夢。たかが。影響があるはずない。

 あの少女は実在するのだろうか? 通称:【ああああ】。夢だと思われた。しかし現実だというならば。【ああああ】は確かここの学校の制服を着ていた。仮にだ。もしかしての、もしかしての、もしかしての、もしかして。あの少女が実在するとしたら、ここの生徒ということになる。

 どうせ何もない放課後。暇つぶしに探してみる価値はあるのかもしれない。

 俺は教室を出た。

 俺が通う上杉学園の歴史は浅い。三年前、校舎が建つY県にかつてない大災害が襲った。突如として鳴り響いた大地が割れる轟音を俺は忘れもしない。地面には、ばかでかい亀裂が入った。それは雪山にみられるクレバスそのもので、割れ目は最深十数メートルにも及んだ。元々そこには生徒数日本一のマンモス高校が建っていた。だが、そのデカい校舎は跡形もなく崩れ落ちた。時間が深夜だったということもあり、奇跡的に死者はおろか怪我人すらでなかった。専門家の見解でも原因は完全に不明。土壌調査では何にも問題なかったし、地震の影響も全くなかったらしい。

 復興活動は早かった。政府はある企業に再建を全面に委託、半年という極めて短期間で校舎は再建された。上杉学園と名前を変えて。

只でさえ馬鹿でかかった校舎は更に数倍にもなり、収容可能な生徒数もそれに伴い増大した。付属の中等部、大学なんかも同敷地内に建てられ、学園都市と化したのだ。そして新校舎建設に伴い、新たに新設されたスポーツ学部に俺は入学したのだった。

まあ、その生徒数の化け物みたいな中から本当にいるのかどうかも分からない一人の生徒を探すことになる。こんなの二十五メートルプールからコンタクトレンズを探すことくらいに途方もないことである。

 しかし、俺にはただひとつ手がかりがある。あの教室だ。窓ガラスを割った教室。あそこに行けば会える ……かもしれない。諸悪の根源に辿り着ける ……かもしれない。

 一度行った可能性がある教室までの道のりだったが、この広い校舎、また行くとなっても骨が折れた。やっと見覚えのある光景が見えてきた頃には一時間もの時間が過ぎていた。

「やっぱりここだ。ってことは、あれは夢じゃなかったのか?」

 そこには文化祭の装飾はなかったのだが、「部員急募」の張り紙だけは残っていた。

 夢ではない。それが現実身を帯びてきたとき、デジャブにも似た気持ち悪い感覚に襲われた。

その感覚を振り払うかのように、俺は意を決して勢いよくドアを開けた。

絶対全部聞き出してやる。

「このヤ―― あれ!?」

 そこには誰もいなかった。教室の中は空っぽ。だが、その内装はやはり見覚えがあった。割れてまだ修繕されていない窓ガラスに、なんと言っても中央にそびえるただのドア。

 あの時は、このなんとも変哲がなさそうなドアがあの広い世界に繋がった。本当にわかには信じられない。

 おそるおそる中央のドアに近づいてみる。このドアをくぐればあの世界に行けるのだろうか?

 夢か現実か? いいだろう。証明してやる。

 ゆっくりドアノブに手をかける。心拍数は徐々にアップテンポに刻まれていく。

「どらぁあああああ」

 開けた。視界の先にあったのは…… 

 くたびれた黒板。しんとした空間。テーブル、椅子。

 まあ、紛れもなく上杉学園のとある部室だ。

 言ってしまえば、さっき入ってきた部屋。どこに行くでもなく座標軸は一ミリもずれることなくそのままドアを通り過ぎ直進しただけだった。

 アホらしい。実に無駄な時間を過ごした。何緊張してんだか。色々なことがあり過ぎて俺は疲れてる。

 なにか煮え切らない気持ちを抱えたまま教室を後にした。


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