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第三話 とある野球部員 無事異世界に舞い降りる

「またか。 ――どこだここ?」

 いつの間にかベッドに寝ていた。どうやら建物の中らしい。

 しかし学校の中でも、先ほどの暗い空間でもない。一度も来たことのない場所だ。

 あの空気読まない女が「行ってらっしゃい」とか言った後、急に空間が歪み、目の前がグルグル回ったのかと思ったら、今度はベッドの上。

 色々な事象の原因や成り立ちをいちいち考えるのが面倒なくらいに、あり得ないことが多過ぎる。

 少し廃れた木目調の天井をじっと見つめているのにも飽きて、ふと右に寝返りをする。

 !!!!

 ――目先三㎝に顔があった。

 ――女の子の。

 もう少しで唇がこの顔面に触れてしまうところだった。

「おまえ、変態だったんだな」

「おおおおっっ!!」

 俺はびっくりしてベッドから飛び起きた。顔がしゃべった。いや、顔なんだから当たり前か。ベッド上でじっとしているその顔は、よく見ると先ほど謎の部室で床に平伏していた女の子であった。

 辺りを見渡す。改めてやはり知らない場所だ。四畳半ほどの広さの中、ベッドがひとつ、ボロボロの机がひとつ。あと部屋の隅に黄色く光る変な箱。どういう原理なのか宙に浮いている。それとドアがふたつ。その内のひとつはあの部屋にあったように一見どこにも繋がっていない。 

「へ、へ、平気なんすか? さっきはなんか意識も危うい感じでしたけど」

 必死に平常心を保ちながら女の子に聞いた。

「平気な訳ないだろう? 体動かないんだよ。責任取れ」

 どうやら女の子は意識だけは取り戻したらしい。

女の子らしい可愛い声なのに、口調だけやたらきついのに違和感を感じずにいられない。

「もしかして…… 俺が投げたボールに当たったとか?」

「あれ、お前か? ふざけんな。当たってはいない。けど、びっくりしてコケてHPごっそり削られた。 ……瀕死。瀕死状態になると行動不能状態に陥り、自分で動けなくなってしまう。早急に回復薬を調達する必要がある」

HP? 行動不能状態? 回復薬? なに言ってんだこの人?

「あの! 一回ちゃんと説明してください。さっきからおかし過ぎやしませんか? 俺になにしたんですか?」

 怒りにも似た感情で少女に詰め寄る。もうさすがに可笑し過ぎる。

「早急に回復薬を調達する必要がある」

俺の質問に表情ひとつ変えずに先ほどとまったく同じように言い馳せる少女。

「なにを言ってるんですか? ここはどこで、何故俺はこんなところにいて、なんで回復薬なんて意味不明な物をあなたが欲しているか全部説明してください!」

「ここは『Lib#4』通称:『リヴ』であり、お前はキャラデザを経てこのゲームに参加し、わしは体力を回復するために早急に回復薬を調達する必要がある。はい。もうあとはめんどいから以下省力。ってことでアイテムショップ行くから」

 台本でも読んでいるかのような抑揚がない声でたらたらとそう告げられた。

大変だ。この子確実に脳に損傷をきたしている。こんな電波発言飛び出すとは相当なダメージだ。

「ってか早く病院行った方が良くないですか? 足もそうかもですが、たぶん頭を相当……」

「病院には行く必要がない。はい。おぶって」

 問答無用だ。俺の心情なんてまるで無視して自分の用件を済ますことだけに終始している。話を聞かないヤツの筆頭思考だ。

「もう。分りました。分りましたよ。連れて行きますよ。 ……その変わり、用事が済んだら全て、分りやすく説明してくださいね。いいですか? 分り易くですよ!?」

 このままでは埒があかない。ここは一回少女の気が済むまでに行動してみよう。実際問題、知らない土地に来ているのは明らかな為、彼女だけが頼りだ。

そして、なによりこの少女に傷を負わせてしまった可能性がある以上、何かかしらの方法で責任を取る必要もある。

まったく、なんでこうなった?

「……承知した。 ……たぶん」

「えーー!? いま小さい声でなにか言わなかったですか?」

「早く行くぞ」

 本当に今日は強引に押し進められる日だ。自分の思うようになんて何一つ進まない。

 もう一度女の子を後ろに抱えるとこの部屋のドアを開け廊下に出た。少女が案内するままに木造の廊下を少し行くと、狭いエントランスが見えてきた。

「おう、よく寝れたか?」カウンター越しのおじさんがこっちを見て話しかけてきた。

「おう、親父元気か?」少女が覇気のない声でそう返答する。

 カウンターの上に掛けられた木製の看板には『コメットヴィレ宿屋』と書かれてあった。そう書いてあるのだから、ここは宿屋なのだろう。この男はこの店の主人らしい。しかし、宿屋と言っても俺ら二人以外に客は見当たらない。今通ってきた廊下を見る限り客室は四部屋ほどしかない。床には穴が空き、至る所に蜘蛛の巣が張っている。向かいの部屋に至ってはドアノブが取れているくらいだ。かなりぼろい。普通の家庭の一軒屋ほどの小さい宿屋なのだろう。

 さて、外に出た。やはり知らない光景だ。 そこには村が広がっていた。電気は一通り通ってそうだが、小さな村だ。それは、RPGゲームかなんかでよく見るものそのもので。主人公が冒険して一番最初に訪れる村、と言えばしっくりくる。レンガ造りの建物が並んでおり、その中には市場のような光景も見え、野菜かなんかを売っていた。大都市みたいに賑わっているでもなく、必要な物品は一通り揃うが、専門的な物は無理っぽい。そんな村。

「ふん」

少女は何軒か先にあるオレンジ色の瓦の建物を指差していた。紛れもなく少女が言ったように『アイテムショップ』とそのまんまの看板が掲げられている。

 通りにはちらほらと人がいるが、やはり誰も知らない。というか肌や瞳の色も体格だってどう見ても日本人じゃない。ゴリゴリにごつい白人や二メートルを優に超える眼の碧い人。服装だってあまり見たことのない、チマヨ柄の麻生地のような薄くて寒そうな衣装を身に着けている。

 ひとまず言われた通り、そのアイテムショップを目指した。

「ここあんたの私有地ですか?」

「んな訳あるか。よく考えてものを言えよな」

 怒られた。なんだか回復薬を買うまでちゃんと説明してくれないっぽい。いや、さっきの感じを見ると目的を達成しても怪しい。

 アイテムショップに着くと、迷わずドアを開け放った。

 店の中には店員が一人。前髪が後退した初老のおじいさんが、カウンター越しに直立不動で待機していた。

「はい、着きましたよ。回復薬とやらを早々にゲットしてくださいな」

 俺は彼女をカウンターに差し出した。

「おっさん、いつものをくれ」少女はドヤ顔で注文する。

「やあ、何にするんだ?」見事スルーされる彼女。

「だから回復薬をくれろ」

「さあここから選んでくれ」

 なんかこの話が噛み合わない感じ。いつぞやのあいつを思い出す。

 渡されたメニューから、回復薬を指差すとおじいさんはようやく回復薬を欲していると理解してくれた。

 少女は財布からお金を取り出したのだが…

「回復薬一個五百ポカスだ」「ほい」

 俺の背中で意味不明な単位のお金のやりとりがされている。まず聞いたことがない。その硬貨は全く見慣れないもので、日本、いやおそらく外国の通貨でもないと思う。

 そして彼女は五百ポカスと引き換えに店員から回復薬とやらをゲットした。

 ゲームでよくみる、金具の蓋がされている瓶だ。緑色の液体がいかにも回復させてくれそうだが、進んで飲みたいとは思えない。

 俺はアイテムショップ内の椅子に彼女を降ろしてやった。そして、その妖怪液みたいなのをどうするか見守った。

「これだよ。これ。これを待っていたんだよ」

 今までどこか感情の起伏がないような少女だったが、ここでちょっとテンションが上がった風だった。あくまで風。

 少女は、その得体も知れない液体の蓋を手慣れた手つきで開けると、躊躇することなく飲み始めた。

 女の子らしく少しずつ。だけど残すことなく全部。時間をかけて飲み干す。

「相変わらずまずい。しかも五百ポカスでHP半分しか回復しないとかマジぼった」

 ぼそっと独り言を言うと、少女は椅子から立ち上がろうとし始める。

 座面を右手で支持すると、両足をよろよろとよろめかせながら膝を伸ばしていく。一瞬バランスを崩し左側に大きく動揺したが、そこからなんとか修正。

「うぐぐ」最後渾身の力で体幹を起こすと、少女はようやく自分の二本の脚で立ち上がることに成功した。

「しょ、しょ、少女が立ったーーーー!! ……ってたまるかーーーー! 茶番かよ!?しょうもないわ! はい、これで満足っすか~? はい、帰りますよ~」

 少女に言われたミッションをコンプリートしたところで、早速この意味が分からない世界からの離脱を提案したのだが……。

「ふん」

 少女は、上目遣いで平助をまっすぐに見つめると、手のひらを上にして差し出している。

「ふん」なにかを欲している。

「えーっと。『ふん』だけじゃ分らないのですが……」

「弁償。回復薬代五百ポカス。あと、慰謝料として百万ポカス」

「まずポカス分かんないですから」

「ポカスはリヴの通貨。 ……お前もしかして払えない?」

「当たり前じゃないですか? ポカス持ってないですし」

「①ギルドのクエストをこなす ②バイトする ③モンスターを討伐する ……どれがいい?」

 少女は指をひとつひとつ折りながら、選択枝を提示する。その選択を俺が選ぶのがさも当たり前かのように。

「だぁあああああ。訳が分かりませんよ! あなたが設定した用語混ぜて話されても! とにかくこの世界でお金を稼げって言いたいんですか?」

「いかにも。 ……ふん。なるほど ③のモンスターを討伐するだな。一番手っ取り早いしそれでいいと思う」

「あの、俺何も言ってないんですけど……」


 そう言って半ば強引に連れて行かれたのは森林地帯だった。最近雨でも降ったのか、地面はヌメヌメしていて足が取られやすく歩きにくい。

先ほどの街から十分ほど歩いただろうか? 少女の足が遅く距離以上に時間がかかったように感じる。そんな場所だが、少女は歩いている。まあ、当たり前だ。びっくりして転んだだけで歩けなくなってたまるか。おぶる必要がなくなったことで、ひとまず必要以上の体力は消耗しなくて済みそうだ。どうやら現実世界にはまだ当分帰れそうにない。

 そういえば……。ふとあのことを思い出した。

「てか、さっきこれ貰ったんですけど。重要アイテムらしくて。何か知ってます?」

 俺はあの空気読まな女から重要アイテムだと言って貰った紙切れを差し出す。

「はぁあ? なんとなくでわかんだろ?」

「いや、分りませんって」 

「しょうがねーなー」

 目線に合わせる為に俺が屈むと、少女が俺のスマホをのぞき込む為に顔を近づけた。か、顔が近い。なんでまた照れてんだよ俺! 童貞かよ! ……いや、誰が童貞だよ! 

そんな俺の中の問答を知る由もなく、少女は淡々と紙切れの使い方を教えてくれた。すんごい面倒くさそうに。

 どうやらこれはそのままスマホのバーコードリーダーで読み取るらしい。野球部のユニフォームのままだったのだが、その後ろポケットにはしっかりスマホが入っていた。文化祭なのだから、それくらいいいだろうと遠投対決中も監督の目を盗んでは暇つぶしにスマホで動画サイトを見ていた。それが功を奏した。

 少女の言う通りに操作すると、あるサイトに飛ばされた。どうやらアプリのダウンロードページだ。『りゔあれこれ』とかいうふざけた名前のアプリらしい。言われるままに『同意』をタップするとダウンロードが始まった。

 10% ――30% ――50% 【電源を切らないでください】

 ダウンロードが進む。

堅物の親をやっとの思いで説得して獲得した愛しいスマホ。辛い練習も、理不尽な先輩からの扱きも、俺を【ワラワラ動画】(ある投稿動画サイト)という快哉な娯楽で癒してくれたスマホ。

 これで変な課金サイトだったら。俺の唯一の楽しみが。俺の無二の親友が魔の手に。

 ――99%

「い、いくなあああああああああ」

 それは『やっと再会した生き別れの兄弟がダークサイドに落ちるのを必死に止める』勢いの魂の叫びだったに違いない。寸でのところで俺は電源ボタンを長押しし、スマホを強制終了させた。

「お前色々と大丈夫か? 一刻も早く病院行けな。 ……ほい、着いた。ここゴブリンの縄張りだから」

 ゴミでも見るような目で少女がこっちを見ていた。そんな俺を無視して、唐突に告げられた。

「なんだよゴブリンって。あのゲームとかによく出てくる釣り上がった目と尖った耳を持った緑色の醜悪な顔立ちの小人の ……あのゴブリンか?」

「そうだな」

そうらしい。

 遠くの方から木と木をゴンゴンと打ち合わせる音が聞こえてきた。

「これは威嚇の音。この音でも立ち退かない場合攻撃してくる。 ――さぁ構えて」

 そうは言っても武器とか何にもない。

「おいおい。どうすんだよ? どうやって戦えって言うんだよ? それぐらいいい加減説明してもいいんじゃ?」

「さあ? このモンスターに勝ったことないし」

「はぁあ?」

 木陰の向こうから何かが飛んできた。

俺は咄嗟に身を屈めそれをかわす。

 ……しかし、俺の後ろに隠れた少女は反応するのが遅れた。その飛来物は――

「はうーーーーーーー!」

 運悪く少女に命中した。豪快に床に倒れこむ。

 え!? 言っても小学生が投げたくらいの勢いだったはず。しかも、飛んできた物を確認すると只の小石だ。

「まぁ、あれくらいでまさか? オーバー過ぎだよな」

 少女のことはひとまず放っておくことにして、今は目の前の何かに集中することにした。

これが現実にせよ、妄想にせよ、あいつの作った文化祭の出し物にせよだ。くたばる訳にはいかない。武器になるかどうか分らないが、地面に落ちている石を握りしめる。

 俺がさっき脳内で再生したゴブリン。 ――まんま。現れた。数は三体。

 その内の二体は手に木製の剣を握っている。もう一体は少し離れた小高い場所にいて、手には小石。狙撃兵だろうか。先ほどの一撃もこいつの仕業なのかもしれない? 三体ともに薄汚れた革の装備を纏い、腰には布袋をぶら下げている。

 どう見ても人間が仮装したものには見えなかった。当たり前だがゴブリンなんて生で見たことない。だが、本物に見えた。

「いいですか? これが文化祭の出し物だとしたら俺はそんな暇ないので即刻やめてくださいね」

 一応人間だという可能性を考え警告した。だが、その内の剣を持った一体が奇声を上げ、問答無用で斬り掛かってきた。

「どわっ」

 それほど俊敏な動きではない。その太刀筋を見極めると、側方にステップし避けることができた。

「あぶね。もう分かりました。クリーチャーもしくは犯罪者と認識して正当防衛を適用させてもらいますよ」

 一応、現実世界での出来事ということも加味して、防御線を張る。面倒事が一番嫌なので、後から警察になにか聞かれたらどうしようとか思ってのことだ。

 その隙ができた後ろ姿を蹴っ飛ばした。

 ボーリングのピンのように地面を跳ねながらすっ飛んで行くゴブリン。

「あのー、一応手加減はしましたが、怪我したって知らないですからね」

 一応また警告しておく。そのゴブリンは起き上がってこなかった。倒したとみなし、後の二体に向く。

「どわっ」振り向いた瞬間、目の前にもう一体のゴブリンの剣が迫っていた。さすがに先の尖った凶器なだけに、当たったら血が出るのは明白。

 しかし、やはり運動神経では俺に分があるようだ。十分に動きが分かる。運動部の反射神経を舐めてもらっちゃ困る。これでも時速百キロ以上の硬球を相手にしてきたのだ。 

 その剣の攻撃を右手で薙ぎ払うと、カウンターに膝蹴りを見舞ってやった。

 誰に習った訳でないが、よく格闘技ごっこと称して友達とプロレスやらボクシングの真似事はやっていた。

「俺すげーじゃん。よっしゃあ、これであと一体」

 残りは狙撃兵のみ。勢いに乗った俺は、少し離れた相手に先手を取られる前にと、先ほどから手に握っていた小石を投擲することで、先制攻撃を仕掛けることにした。 

 命中したとしても牽制くらいにしかならないかもしれないが、その隙に距離を詰める。近距離用武器も持っていなさそうだし、肉弾戦に持ち込んだら先ほどのゴブリン同様、分があるのは自分だ。

 そのゴブリンは予想通り小石を投げようと構える。それよりも早く俺は勢いを付けて小石を投げた。

 瞬間、目標のゴブリンがすっ飛んだ。

 さっきのゴブリン達とは明らかに違うリアクション。そして、遠くでぶっ倒れたゴブリンをじっと見ていると、不思議な現象が起こる。仰向けのまま動かないゴブリンの体。そこから半透明のゴブリンが分裂し、そいつが空に吸い込まれるように上昇していくのだ。その後、本体も徐々に姿が透けていく。最後着ていた革装備と身に着けていた袋を残し、完全に消えた。その袋の中から小石がコロコロと転がる。

「え!? さっきはこんなことなんなかったろ?」

 途端、足に鋭い痛みが走った。足元を見ると先ほど膝蹴りで倒した筈のゴブリンが噛みついてきていた。

「いってぇえええええええええ」

 必死に脚を振ってゴブリンを振り落す。先ほどの一撃では倒せなかったらしい。どちらかと言えば膝蹴りの方に手応えがあったが、石でやっつけたようにしないと倒したことにならないということか? 

 脚にはくっきりと歯型が付き、うっすらと血が滲む。だが、致命傷には至っていない。しかし、なかなかの攻撃だった。あのまま噛みつかれていたらどうなっていたか分らない。

 まず、人間が仮装している説は省いた。人間くたばった後消えないし。ゴブリンが落とした剣を拾う。今度はこの武器で攻撃してみることにした。

 ゴブリンが先ほどの鋭い牙を剥き出しにして再度迫る。リーチは俺の方がある。その突進に合わせて前方に剣を突き出した。

 確実にゴブリンの胸部に剣が突き刺さる手応えがあった。 ……しかし。

「うぉおおお。いてぇえええええ」

 剣の一撃を受けても意に介さず突撃したゴブリンの牙が、今度は俺の首筋を狙う。こいつ、確実に人間の急所を分っている。総頸動脈を噛み千切るつもりらしい。

「痛ってぇな!!」

 俺の首から血が伝うのが分かる。力任せにゴブリンを引き抜くと、その頭を掴み、宙ぶらりんの状態にした。 

「くっそ。完全に怒った」

 そのまま地面に向けて投げ飛ばした。 ――破裂。

 そして一体目のゴブリンと同じように、身に着けていた物だけ残して二体目のゴブリンは消滅した。

これは効くらしい。なんだかよく分らない。ひとまず、首の傷も大事に至る前に対処できたようだ。

だが、落ち着くのも束の間だった。悪い予感が走る。

「これって…… 最初に吹っ飛ばしたゴブリンも、生きてるってことじゃねえか!?」

 予感した通り、そのゴブリンはすでに立ち上がり、あの少女がいる場所に迫っていた。

まずい。このままではあいつがゴブリンの餌食にあってしまう。

おおよその理屈は理解した。俺の攻撃で有効打になっていることに共通して言えることは『投げる』という行為。それ以外はダメージを与えられない。

「これで終いだゴブリン!」

 地面に落ちてる剣を『刺す』ではなく今度は『投げた』。一直線にゴブリンに向かう凶器。

 ゴブリンの額に突き刺さると、その勢いで体が浮き後方に吹っ飛んだ。

 そしてその体は消滅する。

「よーーーし! よし! よし! よし! 今度こそ、撃破だなおい」

 ひとまず安堵した。危機は去っただろう。

さて少女だ。小石に当たったくらいで大げさにぶっ倒れていたが、戦闘を俺に押し付けるために演技していた可能性もある。まったく、ふざけやがって。今度こそガツンと言ってやらないと気が済まない。こっちは出血しているのだ。

「おーい。無事か? ってか、この演出はやりすぎだろ? これで文化祭の出し物とか言ったら――」

 少女の返事はない。 

「おいおいおい……」

 というより、そこに少女の姿はなかった。




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