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第二話 きゃらくたーでざいん?

「おーい? どこ行ったんだよ?」

 おかしい。いや、おかし過ぎる。

 確かにあの少女をおぶってドアをくぐったはずだ。なのに背中の何とも言えない感触も、あの良い匂いだってしない。

 少女が消えた。

 というかここはどこだ? 真っ暗な空間だ。光はなく、何も見えない。学校の中だよな?

 止まっていても何も解決しそうでなかったので手探りで進んでみる。

 しかし、五分ほど進むも何にぶつかるでもない。あの部室の中から繋がった空間にしては奥が深すぎる。あの馬鹿みたいなドアがここに繋がったとでも言うのか? あり得ない。

「ようこそLib#4(りぶしゃーぷふぉー)の世界へ」

その時、どこからともなく女性の声が聞こえた。それは透き通っていて聞きやすい声だった。そして目の前のある一点にスポットライトが当たる。そこだけにようやく光が灯る。

 そこには人影があった。そいつは右手を顔の隣に持ってきてキャビンアテンダントが救命胴衣の説明をするような姿勢をしている。それでも灯りはまだ暗く、顔ははっきりとしない。

 ……これどこかで見たことがある。

「あのー、こんな所で何してんすか? ……いろいろと大丈夫っすか?」

「まず、君の名前を教えてください」

 ?

「あのー。まずここどこっすか? なんか迷っちゃったみたいで。もうなんなんでしょうねこの学校?」

 初対面の人影相手に世間話を持ち掛ける。人間、心の壁というものが誰にでもあって、こと日本人は空気を読んでまずは雑談から相手を和ませて――

「君の名前を教えてください」

 その綺麗な声で先ほどと寸分違わないトーン、声色でまた名前を聞いてくる人影。

「(無視かよ!)あのですね。あまりがみがみ言いたくないですけどね~。こういうのは決まり文句があって。名前を教えて欲しかったらまず自――」

「君の名前を教えてください」

「だから――」

「君の名前を教えてください」

「あの――」

「君の名前を教えてください」

「どわっしゃあああああああ。駄謝だよぉおおおおおお。わしゃあ駄謝ちゅうもんだよぉぉおお」

 俺は負けた。何に負けたかは分らない。でも負けたのだ。

 答えると、一瞬で目の前に半透明のスクリーンが現れた。丁度学校の机くらいの大きさだろうか。

「それでは入力をお願いします」

 そのスクリーンには五十音表や数字、英数字切り替えなどどこかで一回見たことがあるような文字盤が浮かんでいた。

「入力をお願いします」

「だから――」

「入力をお願いします」

「やりゃあいいんだろ、やりゃああ」

 渋々、言われた通りにそのスクリーンに触れて自分の名前を漢字で入力する。

「フルネームを教えてください」

「だからな、なんの義理があって――」

 もう居ても立っても居られなくなり、その声のする方に駆け寄った。

 しかし、勢いよく突進したはいいが、辿り着く前になにか見えない壁に勢いよく顔面をぶつけてしまった。前のめりに床にひれ伏し情けない醜態を晒す俺。もう!

「フルネームを教えてください」

「なんなんだよおまえは」

 今の激突で流出した鼻血をふき取りながら尋ねる。

「フルネームを」

「わぁああああったよ。教えればいいんだろ教えれば。いいか。お前みたいな空気読めない女、例えどんなに顔かわいくてもモテねぇからな。いいか甘えんなよ。駄謝平助だよ。これでいいか?」

 もうこの場はこいつが実権を握ってしまった。俺はもう言われるがままに質問された内容を黙々と入力していくしかなかった。

「ニックネームを教えてください」

「そんなもんねえよ。恥ずいだろ。『へいすけ』だよ。『へいすけ』。ってかそんなこと聞いてどうすんの?」

 無視。

「あなたの趣味を教えてください」

「なあ? これはお見合いか? 俺は婚活パーティ会場にでも迷い込んだのか? ゲームをするか、動画サイトを見ることですかね? でも親がゲームに大反対で今はできなくて―― ってか。なあ、俺は一体なにしてんだよ?」

 もう従うしかなかった。

分かった。この無機質でなんかロボットかなんかとでも話しているような感じ。

ゲームだろ?

間違いない。これはRPGゲームかなんかのキャラクター作成ステージだ。

この後も「好きな味噌汁の具は?」「体の中で一番自慢できるところは?」「無人島になにかひとつ持っていくとしたら?」などなど、なんの役に立つか分からない下らない質問は問答無用で続いた。

「最後にあなたのJOBを選択してください」

 画面に選択肢が現れた。

 そこには「戦士」「騎士」「武闘家」「僧侶」「盗賊」「漁師」「空師」「魔術師」などゲームでよく聞き慣れた職業やら、聞いたこともないような物まで様々並んでいた。それは百個を超え、スクロールしなければいけない程であった。

ここまで手が込んでいると逆に感服する。

 もうあれこれ考えたり、疑うのをやめた。今日の面倒くさいことを今日中に消化し綺麗さっぱり忘れるために。とことん付き合ってやることにした。未だに俺は倒れていた先ほどの少女のごっこ遊びの延長だと思っている。

《現在の段階までは ――そう》

 試しに武闘家を選択してみる。すると、そこにはまた派生した選択肢が並ぶ。「拳闘士」「脚闘士」「柔術士」「少林寺拳法家」これも多岐に渡る。

これでも俺は元ゲーム廃人。学校をさぼりまくってゲームにのめり込んだものだ。それが原因で入院までしたからあれはやりすぎだったと思う。反省はしている。まぁでも、なんかテンションは上がる。そう、嫌いじゃあない。それは確かだ。

「なになに。競技師とかもあんのかよ。もう無理やりでしかねぇな。 ……ほぉ~。鎧球師、蹴球師、庭球師、籠球師、排球師――。なんでも『師』付ければいいってもんじゃねぇだろ。どうせスポーツ名日本語表記したかっただけだろ? かなり厨二入ってるぞこれ」

 俺はその中からひとつのJOBを選択し決定ボタンを押した。

「お疲れ様でした。では、最後にこれをお渡しします。これからの旅に欠かせないアイテムです」

旅になんか出ねえっつーの。最後まで意味が分からないヤツだ。

 そんなことを呟いていると、床面の一部に穴が空き、そこから長方体の鉄のブロックがせり上がってきた。その上にはマッチ箱くらいに小さい箱が載ってある。中を開けてみると、一枚の紙切れが入っていた。そこにはただバーコードリーダーのプリントが成されているだけだった。

「ちょ、おい。これ何に使うんだよ?」

 俺の質問には答えなかった。

「ではいざ『Lib#4』の世界へ。いってらっしゃい!!」

 最後まで空気を読まないその人影は俺にそう告げた。


 



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