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短編その1 異世界のタピオカ

作者: 五寸

連載作品『異世界インスタ』の外伝作品です。


簡単なキャラ紹介

アカネ・・・異世界転生したギャル ゼル・・・チンピラ妖精

ルビー・・・食いしん坊アサシン ネク・・・泣き虫アラクネ

「タピオカ飲みたいなぁ・・・」


 とあるオフの日の昼下がり。

 何をするでもなくギルドでぼーっとするあーしの口から、そんな言葉がこぼれ出た。


「あ? なんだって?」


 同じようにだらっと伸びきっているゼルがその言葉を拾い上げ、暇つぶしの会話が始まる。


「タピオカだよタピオカ。知らないの?」

「知らねぇよ。何だそりゃ」


 ゼルの反応を聞いて、どうやらこの世界にはタピオカが無い、もしくはそこまでメジャーでは無いことを察する。まぁ元の世界でもブームが来るまでは埋もれてたわけだし、別におかしくは無いか。


「こう、こんくらいの大きさの、グニグニした柔らかい食べ物のこと。それを飲み物の中に入れて、一緒に飲むの。ちょー美味しいの!」

「はぁ・・・そうか」


 説明するごとにテンションの上がってきたあーしに対し、ゼルは心の底からどうでも良さそうな表情と声音で会話を打ち切ろうとした。・・・男ってどの世界でも一緒だなぁ。


「でさ、それが飲みたいわけ」

「はぁ」

「どっかで売ってるとか、そういうの知らない?」

「知らん。つーかそういうのはルビーの専門だろ。あいつに聞けよ」

「だってルビーちゃん今日は料理店巡りで忙しいって」

「一緒に行かなかったのかよ?」

「前に行ったけど、マジで休みなしに次々行くから断ることにした・・・」

「お、おう。そうか・・・」


 前の休みにルビーちゃんオススメのお店巡りをやって、三店目でギブアップした。もっとこう、一店一店ゆっくり堪能しつつ、ウィンドウショッピングなんかしながら巡るものと思ってたら、どんどんどんどん次のお店に入っていくんだもん。しかも本人顔色一つ変えないし。


「だからさ、何かない?」

「だから知らねぇって・・・つーかそういうのこそ冒険者らしく自分で探してこいよ。このアルフィノエなら大体のモンは揃ってんだろ」

「あー、それもそうだね。よっし! 行こうゼル!」

「おいちょっと待て。俺様は行くなんて一言も・・・聞けって! 聞いてください!」






 そうしてしばらくアルフィノエの大通りを巡り歩いたあーしたちは、結局本物のタピオカそのものは見つからなかったものの、似たようなものをいくつか見つけることができた。


「うーん、探せば色々見つかるもんだね」

「えらい見境なく買ってきたが、コイツらを茶ん中にブチ込んでホントにウマくなるのか?」

「言い方。まぁ見ててよ、何事も実践あるのみ!」

「そうか、頑張れよ」

「どこ行くの? 味見役は必要でしょ?」

「そう来ると思ってたぜ・・・」


 諦めてやれやれと首を振るゼルを尻目に、あーしは机の上に並べられたタピオカもどきたちを手にとって眺める。もしかしたら名前が違うだけって可能性もあるし、早速作ってみよう。


 とりあえず前にクック○ッドで作った記憶を頼りに、あれやこれやと並行してタピオカミルクティーを作っていく。

 いくつか調理途中でダメになっちゃったのが出てきたけど、最終的には三つのタピオカミルクティー(仮)が出来上がった。


「よーっし! かんせーい!」

「おー」


 あーしの掛け声にゼルが力なく合わせてくれる。そこはもうちょっとノリよく行こうよ。


「うん、見た目は悪くないね」

「そうか? なんかこの沈んだ玉が気持ち悪いんだが」

「そこが可愛いの!」

「はぁ・・・そうか」


 力説するあーしを心底理解できないといった風に眺めるゼル。こういう感性の違いは言ってもしょうがないのかもしれない。


「じゃあこれ、ゼルの分ね」

「やっぱり俺も飲むのか・・・」

「大丈夫だって! あーしの腕を信じて! はいカンパーイ!」

「かんぱーい・・・」


 ジョッキでも酌み交わすように二人で乾杯した後、あーしたちはストローに口をつけて一つ目の試作品を飲んでいく。そのお味は・・・!


「んー! 美味しい!」

「おぉ、悪くねえな」


 半信半疑だったゼルからも高評価をもらい、あーしは軽くガッツポーズを取る。よっし成功!

 ミルクティーの出来はもちろんとして、肝心のタピオカの方もモチモチとした弾力があり、ほとんど本物と一緒の出来栄えだった。てかこれ本物なんじゃないの?


「ゼル、これってどこのお店で買ったやつだっけ?」

「場所までは覚えてねぇが、確か芋かなんかっつって売ってた気がするぜ」

「芋・・・芋?」


 芋とタピオカに何の関係が・・・? まぁいいや、とにかく後で買い足しに行こう。

 満足感たっぷりに一つ目の試作品を飲み干したあーしは、すぐに二つ目の試作品に手を伸ばす。


「じゃあこれ二つ目、よろしくね」

「なぁ、これ結構甘ったるくてそこそこ重いんだが・・・」

「何言ってんの。お酒パカパカ飲んでるゼルなら平気でしょ? ほら、カンパーイ!」

「まだやんのか・・・かんぱーい」


 そうは言いつつノッてくれるゼルと二つ目の試作品に口をつける。

 口に入ってきた時の感触はさっきと変わらないけど、果たしてその中身は・・・!


「んー・・・んっ!? ブッハ!! ゲッホゲッホ!!」


 突如あーしの口の中を何かが蠢きだし、たまらず用意していたバケツに吐き出した。

 一体何なのかと顔を背けながらバケツの中を覗いてみれば、得体の知れない黒い物体がバケツの底でうにうにと蠢いている。


「何これ何これ!? あーしの口ん中で動いてたんだけど!? 何これ生き物!?」

「落ち着けアカネ。こりゃトゥースライムだな」

「スライム・・・?」

「あぁ。ちっこい割に働き者でな、汚れなんかを食べてくれる」

「汚れ・・・?」

「つまるところ、お前さんの歯の」

「わー!! オッケーオッケー!! もう分かった! それ以上はナシ!!」


 慌てるあーしに対してゼルは小首を傾げながら、プッとスライムをバケツの中に吐き出した。・・・もうちょっと乙女に対してのデリカシーを学んでほしい。


「さぁーて歯も綺麗になったことだし、ラストいってみっか」

「うぅ・・・なんかあーし飲むの嫌になってきたかも・・・」

「お前さんが言い出したことだろ。せめて作った分は飲めよ。ほれ、カンパーイ!」

「かんぱーい・・・」


 いつの間にかテンションが逆転したあーしたちは、最後の試作品をその手に取る。

 未ださっきの感触が残る口の中に恐る恐る吸い込むと、今回は特に動き出したりすることもなく、少し固めの弾力が押し返されるだけだった。・・・何でタピオカ飲むのにこんなドキドキしなくちゃなんないの。


 安心と若干のストレスを乗せて、口の中のタピオカもどきを噛み潰す。ちょっと力がいるけど、こういう歯ごたえが好きって人もいるし、バリエーションで考えるなら全然アリかな。



 ・・・なんて、油断したのが間違いだった。



「ンンッ!!? ブゥーーーーーーーーーーッ!!?」


 突然あーしの口の中で小爆発が起こり、更にそれが連鎖的に口の中に広がっていき、我慢できず盛大に吹き出した。幸いバケツの中には入ったものの、勢いが良すぎてあっちこっちに跳ね返ってしまっている。


「ハァ・・・ハァ・・・何コレ!!?」


 最後にあーしの怒りが小爆発し、ほとんど八つ当たり気味にゼルに問い詰める。


「弾けダマだな。いわゆるジョークグッズってやつだ」

「ジョークで済むのコレ!? 口破裂するかと思ったんだけど!?」

「食い方が悪いからだ。本来は一個ずつ食うもんだぞ」

「言ってよ!!」


 特に被害を受けた様子のないゼルは、一粒一粒楽しむように飲み込んでいく。男のゼルには強い刺激が心地よいのか、今までの中で一番美味しそうな表情をしていた。・・・もうそれタピオカじゃないと思うけどね。


「さて、一通り飲んだわけだが。満足したか?」

「・・・いらん体力まで使っちゃったけど、まぁ概ね満足かな」

「で、どうするよこれ。多分三つともそこそこ売れると思うぞ」

「三つ!? 最初の一つだけじゃなくて!?」

「王道はもちろんいいが、こういう変化球も案外ウケはいいもんだぜ?」

「はぁ・・・まぁあーしは別に商売する気は無いし、そこは任せるよ」

「まいど」


 なんやかんやノリ気になっていたゼルはあーしから商売の許可を取ると、いつの間にコネを作ったのか商人たちと結託し、アルフィノエでタピオカドリンクを売り始めた。



 結果、元の世界ほどでは無いにせよちょっとしたブームにはなった。・・・スライムが。何でよ。

ツイッター始めました。よろしければ覗いて行って下さい。

https://twitter.com/5thHagiri

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