雪夜の王子・1
「狼頭の王」と同軸の話になります。
内戦の続く、最北の島国キャビク島。フィルスタル王家のジャント一世に仕える剣士のサンドは、自分を殺した敵の体で、「守護者」として蘇る。彼の「勇者」は、ジャントの弟のエイドル王子だった。サンドは、敵対していた陣営の重要人物として、エイドルに瓜二つの部下のゲルドル、狡猾な騎馬隊長エルキドス、サンドだった時の恋人のシャルリ達と共に、迷いながらも、役目を果たそうとしていた。
※具体的な描写はありませんが、ごく僅か、女性向け要素を含みます。
キャビク島(雪夜の王子)
◎キャビクの慣習
○「養人」…王子の側近の事だが、子供の頃に選ばれ、一緒に学び、後に部下になった者の事。上流階級だけでなく、戦災孤児もいた。
○首都は内陸のアルトキャビク。火山のキャビク山の麓。
○双子王…古代の伝説的名君。彼らの功績のせいで、双子は共同統治者として、同格の王につく習慣があるが、国力が分かれるため、忌避する王家もある。
◎フィルスタル・キャビク(フィルスタル王家)
○エインジャント(ジャント)…父シグランストと母ナスタシャの長男。祖父のエウドアル一世の後に即位する。
○グルエイドル(エイドル)…ジャントより3つ下の弟。
母親のナスタシャが、二人をむりやり双子扱いにしていたため、兄弟仲は悪い。
○オーレオン…ジャント達の大叔父。行方不明。
○ツィルシール(シール)…オーレオンの養女。ジャントの王妃。産まれた王子と共に行方不明。
○ファルジニア…オーレオンの実の娘。後のファルジニア一世。キャビク最後の女王となる。エイドル陣営にいる。
○イドルサンド(サンド)…ジャントの養人。戦災孤児。カイオンと争って死亡したが、カイオンの肉体に入り、守護者として蘇る。
○ゲルドル…エイドルと瓜二つの少年。元盗賊だが、カイオンに雇われている。エイドルの影武者になる場合もある。
○アージュロス…海軍提督。エウドアル一世の養人。
○ガルデゾ…アージュロスの長男。ジャントの養人。
○シャルリ…アージュロスの長女。ガルデゾの妹。火魔法使い。ジャントの養人。現時点では、エイドル側で、ファルジニアの世話をしている。
○ノアミル…宰相。エウドアル一世の養人。生死不明。
○シャリーン…ノアミルの娘。シールと行動を共にしていたが、行方不明。
○リリエール(エール)…シャリーンの娘。。カイオンの婚約者だった。行方不明。
○エルキドス…騎馬隊長。シグランストの養人。エイドルを王にしたがっている。
○シルス…エルキドスの長男。
○ガダジーナ…エルキドスの長女。
○カイオン……エルキドスの養子。ジャントの養人だが、後にエイドルの養人になる。サンドと争った時に死亡。肉体は残り、サンドが守護者として蘇った時に使用する。
○ターリ…ジャントの養人。
○グーリ…ジャントの養人。ターリの弟。エイドル陣営にいる。
○リルクロウ・キャビク…フィルスタルに対抗する一族。
○デラクレス・キャビク…フィルスタルに対抗する一族。
○タッカ…外国人の貿易商。
○ユーラーン(ラーン)…ゲルドルの妹。血は繋がっていない。ファルジニアの護衛。
○グレタ…ゲルドルとラーンの姉。二人と血は繋がっていない。行方不明。ガルデゾと恋人同士だった。
新書「雪夜の王子」1(サンド)
氷の壁や原が、最後の光に煌めく。「オールー」「オーラー」という、独特の掛け声と共に、火花が走り、氷から空と海を取り出す。
「これが、砕氷か。」
エイドルは、感動していた。初めて観る、「砕氷」の技。
「ようやく、春ですわい。」
と、老人が目を細めて言う。小さな子供達が、はしゃいで、駆け出す。母親達が、口々に止めていた。
「海の向こうから、何が来るかな。」
と、若者達が歌う。北の小さな港町、ブロト。真冬は、氷に閉ざされる。氷が緩くなった時、火薬で一気に砕いて、春に備える。
街の人々の明るい様子とは裏腹に、見つめるエイドルの目は、悲しげだった。俺は、まだ寒い空気から、彼を守るように寄り添う。
「何が来るかな。」
海から来るもの。それは、春の陽だけではない。
ラッシルとコーデラ主催の会談。ジャント、リルクロウ、デラクレス。そして、俺達。体制の決まらないキャビクに、資源や貿易の価値を求める二大国が業を煮やし、和平交渉の場を設けた。
ジャントは、正当な王としての権利を主張したが、リルクロウ、デラクレスも、それぞれの王権を主張した。エイドルは、もともと自分寄りだった地域を、領土にと要求したが、王としてはジャントを支持した。
これは、「打ち合わせ」とは異なる物だった。予定では、ジャントはへボルグで新しい王国を、エイドルはアルトキャビクで伝統ある王国を、と主張するはずだった。
最初は、俺とエイドル、グーリの代わりに、エルキドスとゲルドルが参加する予定だった。ジャント側は、会談自体に乗り気では無く、恐らく、ガルデゾあたりが、一人でくると予測していた。だが、ジャント側には、本人だけでなく、アージュロスとターリが出てくる、と情報が入った。会談中は、個別に交渉はしない約束をしていたので、代理の立場なら、ガルデゾは、約束は遵守するはずだ。エイドルに対して、礼儀も距離も保つ。しかし、ジャント本人は、兄だ。昔の話でも振られ、答えをまずったら、ばれる。
さらに、ターリは、ゲルドルに会った事がある。情報が伝わっていれば、色々、試してくるだろう。だが、エイドルを出すのも、不安があった。彼が王権に消極的なのもあるが、暗殺の可能性もある。
かなり揉めたが、エルキドスとシルスが留守番、エイドルと俺、ターリが、正式に出席、と言うことになった。
非公式には、ゲルドルも共に。
ゲルドルの同行は、本人が主張した。様子を見て、危なかったら、入れ替わろう、という事だ。彼のお陰で、カイオンとしての記憶の穴を埋める事が出来た俺は、正直に言えば、同行は有りがたい。しかし、エルキドスとシルスだけでは、後が不安だ。力の問題ではない。安全の問題だ。
エルキドスは、エイドル自身に忠誠を誓い、彼を単独で王にするのが目標だろう、と思っていた。だが、そうでもない事が分かった。当然、エルキドス本人は、そんな発言はしない。一歩下がって観察しているうちに、気づいてしまった。真面目な騎馬隊長は、狡猾な将軍だった。彼は、エイドルが自分の意向に沿う間は、盛り立てるだろうが、もし違いが目立ちだしたら、恐らく、切り捨てる。彼は、以前から、コーデラ沖の自治都市をいくつか手に入れ、暖かい地方を確保したがっていた。だが、前王とジャントは、他国の領地を、積極的に奪い取るのは、反対だった。エイドルも同じだが、ジャントを説得するより、エイドルのほうが、容易い、と思っていたのだろう。
今の所、エイドルに代わる駒はないので、背後を襲うことは、無いと思いたい。
もし、長男のシルスが、頼りになる人物だったり、娘のカダジーナが、女丈夫なら、自分達を王家にしたかったかもしれない。だが、もしそうなら、父親に反発して、独立する可能性も強い。エルキドスの、二人に対する態度には、いわゆる「親心」が無かった。
エルキドスは、自分の妻と娘は、「田舎」に避難させた。場所は俺達にも、明らかにしなかった。これは仕方ない。シルスが、役人なのに、一隊連れて、街を出たり入ったりしていたのは、その連絡の為。彼は、ひっそりした生活に慣れていない母親と、極端に体の弱い、妹を心配していた。エルキドスは、息子が持ち帰る手紙を見る事は見るが、ため息を付いて片付けてしまう事が多い。シルスは、手紙を貰った時くらいは、母親と妹のこれからの事を、紛れもなく父親であるエルキドスと、話したがった。だが、エルキドスは相手にしない。さらに、返事を持たせる事は、三回に一回程度だった。それも、何回も、代筆を頼まれ、俺が(ゲルドルと)書いた。向こうからの手紙は、主に、エルキドス夫人が書いていたが、何が足りない、何が不満、と、愚痴が殆どだ。彼女の立場を、考えたら、気持ちはわかる。だが、俺ですら、たまに読んでうんざりするくらいだ。エルキドスは毎回だから、尚更だろう。そこは同情する。
ガダジーナは、極めて病弱、と言うことだが、実は、不自由なのは目だけだった。赤ん坊の時の病気のせいだ(俺は初耳だったが)。エルキドスは騎馬隊長なのだから、目が見えないなりに、きちんと教師を選び、教育する事も出来たはずだが、何故か、そうしなかった。夫人も、他人に任せるのは嫌がり、外に出したがらなかった。
俺は、ゲルドルから聞いた時、
「可哀相にな。」
と言ったが、彼は、目を丸くして、
「あんたが、言うとはなあ。」
と言った。藪を突いて蛇がでたが、カイオンは、確か、ガダジーナを嫌って(婿にされるのは嫌だっただけで、毛嫌いしていた訳ではないかも知れないが)いた。それで、好みではないエールと愛し合っているふりをして、婚約した。養子のカイオンの花嫁が、ノアミルの娘で、有能な水魔法使いの彼女なら、エルキドスも文句は言えない。
しかし、後ろ盾が欲しいだけなら、ガダジーナと結婚するのも、悪い話ではないはずだ。エルキドスは、そのつもりで、カイオンを養子にして、シルスやガダジーナに親しませて育てたのだろうし。ガダジーナの母の
エルキドス夫人は、コーデラの北方出身で、色白の金髪だった。元々、ナスタシャがシグランストに嫁いできた時に、侍女として付いてきた女性だ。ラッシル出身だが、黒髪ではなかった。エルキドスも金髪なので、娘のガダジーナも、色白の金髪だろう(確かそうだ)。カイオンの好みのはずだ。
不思議は不思議だったが、ゲルドルの、
「無理ないと思うよ。将軍様の奥さん、不憫がって、付ききりで何でもしてしまうから。母親や侍女がいないと、泣けばいいわけだから、一人じゃ、何も出来なくなってるらしいし。流石に、それで新婚生活なんて、出来ないよね。」
で、納得した。この理由は、カイオンがゲルドルに語った物らしいが。(だからエルキドスも、無理に進められなかったんだろう。)
「ま、それに、あんた、女は、好きじゃないだろ。嫌いでもなさそうだけど。」
と、続くゲルドルの一言は、手紙の代筆を、一時中断させるだけの力を持っていた。
ゲルドルの事は、真面目に、本当に、驚いた。確かに、女子と見ても、可愛らしい顔をしているが、昔から、よく知ってる、エイドルにそっくりだ。育った環境が違うから、表情や仕草、話し方まで、同じという訳ではないが。お互い、わざと真似でもしない限りは、見分けは付く。
だが、こうなると、そもそも、カイオンは、エイドルを好きだったのだろうか、と疑問が残る。しかし、エイドルとは、良い養人で相談役、という立場を守っていた。ゲルドルも強調していた。しかし、ゲルドルの立場から見ると。
「カイオン、カイオン。」
グーリが俺を呼んだ。ごちゃごちゃと考えて、躓きかけた。
「気をつけてくれよ。」
「ああ、ありがとう。」
小声でやりとりする。四者会談のため、会場に当てられた、丸い屋根の、異国風の建物。白い石の床は、緩い段差で、外から中に伸びていた。
先頭はエイドル。続くゲルドルは、ターバンのある南方風の服で、顔を隠している。俺、グーリと続くわけだが、俺の歩みが遅れていた。
「昨日の、気にしてるのか。」
と、グーリが言った。俺は、素早く、「いいや。」と答えて、自分の位置を直した。
昨日、グーリから、夕食の後で、
「ゲルドルが一緒でも、『控えて』くれよ。彼は、あくまでも、エイドルの護衛だから、いざという時に、動けない状態、じゃ困るから。」
と、言われた。度肝を抜かれたが、「わかった」と返事はした。その時、ゲルドルはいなかったので、どう話そうか迷っていたが、彼は心得たもので、
「まあ、旅行にきた訳じゃ
ないからね。」
と、素直に納得していた。
この「会談」は、大陸の港町の、シーラスで行われた。シーラスは、キャビクのシーラスレと対になる名前だ。シーラスが先にできて、「シーラスへの海路」という意味で、「シーラスレ」が命名された。シーラスレは、フィルスタル・キャビクの街だが、シーラスは、ラッシルとコーデラが、意図的に設けた、「中立地帯」の自治都市だ。
会談主催者は、ラッシル側はトージェフ伯爵。コーデラ側はコースル伯爵だ。街の宿と、民家、会場になった港湾協会の会館などの手配は、彼らがした。会場のテーブルは、木と石を組み合わせた、広い円形の物だ、二人の議長席は、一番奥にある。
トージェフは、アージュロスより、だいぶ年上だった。ラッシル人は黒髪が特徴だが、白髪になっていた。騎士か武人だったらしく、左耳から頬に、剣の傷がある。コースルは、反対に、細身で、役人らしい雰囲気だ。見た目は、エルキドスと、だいたい同年代だ。
二人はそれぞれ自己紹介し、エイドルはそれに答えた。
「殿下は、そちらに。」
と促され、彼は二人から見て、正面よりの左の席に促された。主催者のすぐ右の席に、ジャントがいた。
「席は、会期中、毎回、入れ替えます。」
と、トージェフが言う。
久しぶりに会うジャント、背後には、アージュロスとターリがいる。ジャントは、俺を一瞬見たが、直ぐにエイドルに視線を移した。エイドルは、背後からなので、わかりにくいが、主催者を見ているようだ。「後は、デラクレス郷士だけですな。」
と、トージェフが言った。流暢なキャビク語だ。「郷士」という言葉だけは耳慣れなかったが、コーデラ語の響きだ。
「何を遅れてるんだ。宿は、直ぐ裏だろう。」
と、ジャントが、鋭く言った。コースルが、
「申し訳ありません、陛下。デラクレス郷士は、船で停泊を希望されまして。」
と言った。ジャントは、
「いや、貴方に謝って頂く事では。」
と、穏やかに答えた。しかし、机を叩いて抗議した者がいた。エイドルの右手側、主催者のすぐ左にいる、銀髪の男だった。
「ここにいるのは、みな、対等なんだろう。何で、彼らだけ、陛下に殿下だ?」
と言った。見かけは締まりのある顔つきと体格、触れ込みは北西部を「伝統的に」収める王族、と言う話だった。なるほど、外見だけなら、高貴な身分にも、見えなくはない。だが、なんと言うが、立ち居振る舞いに、高貴な物が感じられない。
「当たり前だろう、俺は正当な王だ。」
とジャントが答えた。リルクロウは、立ち上がった。しかし、主催者より早く、エイドルが、
「全員、『郷士』でいいでしょう。デラクレスがまだ、どのような人物かわかりませんが、これで毎回、揉めたくありません。」
と言った。リルクロウは、エイドルに向き直ったが、ジャントが、
「分かった、それでいい。」
と早々納得したので、座った。
すると、遅れて、デラクレスがやってきた。
「いや、失礼。都合で遅れて。」
と、リルクロウより、丁寧な口調で言った。彼は、どうやら移民出身のようだ。南方と東方の特徴のある顔立ちだ。キャビク語は訛りのない、真っ直ぐな物だった。主催者二人のものと同じだ。
四人揃ったので、トージェフが開催の挨拶をし、手早くルール確認し、早速本題に入る。今日は、まず、お互いの要求の確認だ。
ジャントの要求は、キャビク全土の王権だ。元々持っている、正当な権利だ。リルクロウは北部と西部の王権を主張したが、彼が支配下に置いているのは、北部のみだ。何故、西部まで主張するのか、俺には分からない。
デラクレスは、飛び飛びに街を抑えていたので、それらを自治都市として完全独立、自分も含め、彼の派閥一人一人に、今収めている街を貰う。これは彼等からしたら、現実路線なのだろうが、彼もまた、不思議な要求をした。アルトキャビクを四分割して、一つを寄越せ、と付け加えた。ただ、単に支配したい、という訳ではなく、こういう会合は定期的にやる事になるから、アルトキャビクに代表を置こう、という意図だ。
デラクレスは、意外に頭の良い男だった。話し方も丁寧で、学が有った。孤児院出身の労働者と聞いていたが、元は誰かの養人の家系で、きちんと教育を受けていた、という経歴があってもおかしくないくらいだ。ガルデゾの家のように、移民から国王の養人に出世した一族の話は、フィルスタル・キャビク以外にもある。だが、勝ち残る王家に仕えられなかったら、身は立てられない。
反対に、リルクロウは、怪しかった。王家だ高貴だと触れ回ってはいたが、込み入った話に弱く、すぐ不機嫌になるし、数字に大雑把だった。剣は持っていたが、装備の仕方が、少しだが、おかしかった。また、議論が白熱して、相手に食って掛かる時に、剣には手をかけず、拳を前に出す。部下に促されて、剣の存在を思い出していたくらいだ。
どうにかこうにか、三人の主張が出尽くした所で、最後に、エイドルの番になった。彼は、開口一番、
「私は王権は望みません。王権は、兄のジャ…エインジャント郷士の物です。」
と言った。傍らで、ゲルドルとグーリが、「えっ?!」と言った。ジャントも驚いていた。
「ですが、シーラスレ近郊を、私の領地として、希望します。これは、エインジャント郷士もご存知ですが、前王が、私に約束していた土地です。
他は、アルトキャビクの、私の研究施設を、シーラスレに移転することを希望します。
王宮からは、これが叶えば、退去します。独立するので、納税はしませんが、他国と戦争時には、同朋として協力します。希望なら、祭礼や行事には、臣下として、参加いたします。」
ざわめきが広がる。俺はエイドルに、背後から声を掛けようとしたが、グーリが俺を軽く突き、
「おい、予定違う。」
と言った。
彼は、俺は知ってたと思ったようだが、俺の様子から、初耳を悟った。
ジャントは、エイドルを見たまま、
「エイドル、お前…。」
と言ったまま、動かない。
トージェフが、要求を各自に確認して、記録した後、署名を求めた。エイドルは署名した。他の三人もだ。
「では、本日は、確認だけですので、明日、検討しましょう。」
と、コースルが慌ただしく締めた。
俺は宿舎に戻るまでは、平静を装ってたが、仲間だけになると、
「どういう積りだ。」
と、思わず詰め寄った。グーリも、打ち合わせと違う、と言った。ゲルドルが間に入って、俺の手を、エイドルの肩から、そっと離した。
「折れちゃうよ?」
と言いながら。
「知ってたのか?」
の、グーリの問いには、
「まさか。あんた達さえ、知らないものを。」
と、平然と答えた。
エイドルは、
「最初から、この積りだった。」
と、俺の目を見て、答えた。
「黙ってて悪かったけど、ちょっとでも、エルキドスに知られたら、反対される。彼は、俺を一人で王にしたがっている。そのために、努力してたのも。」
「解ってるなら、何でだ。」
と、グーリが言った。
「俺達には、正面からジャントと対決しながら、小さな勢力を倒していくだけの力はない。兵士の数も足りない。資金はあるけど、勝つためだけに全部使ったら、コーデラかラッシルから借りないと続かない。
それに、ジャントに付いた兵士は、俺達の兵士と、とても近い。根は同じフィルスタル・キャビクの兵士だ。それで全力で戦えるか?」
と、エイドルは、グーリを見た。確かに、グーリは、ターリとは、対決したくないと考えている。彼は、落ち着きを取り戻し、
「解った。その通りだ。報告書、まとめておくよ。」
と、部屋を出た。ゲルドルは、
「理屈はわかるけどさ、将軍様、もう、エイドル様が王位につかないと、引っ込み付かなくなる所まで、来てるんじゃないかな?背後から、狙われないといいけど。」
と言った。エイドルは、
「正直、それは悪かったと思う。だけど、エルキドスは、父のシグランストから、産まれてくる俺の事は、頼まれてる。父は、俺を、ジャントにとって、オーレオンみたいな存在にしたかったようだ。そこに漬け込むようだが。」
と言った。ゲルドルは、軽くため息ついて、
「カイオン、あんた、どうする?」
と聞いてきた。
「もし、エイドル様の希望、全部叶ったとしても、エインジャント陛下は、面白くないだろうし、適当な時期に、暗殺されるかもしれない。すっきりしないけど、俺は、あんたに雇われてるから、あんた次第だ。」
さっきは、思わずエイドルに抗議したが、確かに、エイドルの案が一番自然で、ジャントが王のまま、エイドルを支えられる。よく考えたら、反対する理由はない。
カイオン本人は、どうか分からないが。
「そこまで考えているなら、それでいい。最善を尽くすよ。」
俺は静かに答えた。
この時、エイドルの周りに見えていた光の粒が、僅かに小さくなった気がした。




