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岬に住む少女・1

クーデター前のキャビク島。岬の灯台を管理する、地主の娘のエール。黒髪の巻き毛に、色白の美少女である彼女を巡り、さまざまな事件が起こる。


岬に住む少女


舞台:キャビク島の南の港街、ニアへボルグ 


時間軸:新書本編とほぼ同時代。勇者王の治世〜クーデター前


人物


◎幼馴染み達

○ポッペア…地元の漁師の娘。伯父は缶詰工場を持っている。

○クリスン…地元の漁師の息子。父親は、組合の管理職。

○リーン…灯台を管理する地主の娘。

○エール…リーンの妹。一つ違い。

○ノワード…「砕氷師」の息子。

○リーナ…ノワードの妹。3つ違い。

○ジェス…貿易商の社長の息子。

○ジェム…ジェスの双子の弟。

○カラロス…数学教師の息子。


◎その他

○ルースン…クリスンの兄。10歳上。

○カオスト公爵家…キャビク島の管理を担当。

○テスパン夫人…クレセンティス

12世の父親の、シシュウス七世の愛人。コーデラ王室の、最後の公式寵姫。

○テスパン伯爵(先代)…テスパン夫人の弟。姉の後押しで伯爵になった。

○テスパン伯爵(現代)…先代の息子。カオスト公爵夫人のイスタサラビナ姫と噂がある。


新書「岬に住む少女」1(ポッペア)


岬に、その女の人は、一人で立っていた。夕日が真っ赤で、海も紅い、髪も紅い。

≪ねえ、あの人、うちのお客さんかな。≫

と、灯台守の娘の、エールが言った。ジェムが、ううん、ジェスの方だったかな、

≪なんでだ?≫

と聞いていた。岬に立ってる人を、岬に住んでる子が、うちの客、というのは、普通だと思うんだけど、ジェム兄弟は、頭はいいのに、鈍いって言うか。

あたしが、

≪髪の色が、不思議。≫

と言ったら、リーンが、

≪髪の色は、夕日のせいでしょ。多分、黒よ。エールと同じ。≫

と、知ったかに言った。突然、エールが泣き出した。

エールは、珍しい黒髪が自慢で、他の人が同じと言われるのを、物凄く嫌がる。知ってて言うリーンもリーンだけど。そんな事で、いちいち泣かないで欲しい。

リーナが、釣られて泣き出した。リーナは、小さいから、いい。でも、エールには、なんかうんざりして、ほっぽって帰りたくなった。今度、わけわかんない理由で泣いたり、泣いた理由を人のせいにしたら、もうエールとは遊ばないって、母さんにも、リーンとエールのお母さんにも言ってあるし。でも、世話焼きのノワードが、

≪ああ、リュラさんだ。≫

と、二人を宥めながら、女の人を見て、そう言ったから、カラロスが、

≪東のお屋敷の?≫

と聞いた。だから、黙って聞いてたけど、

≪ポルトシラルと、どれだけ遠いと思ってるのよ。≫

と言っちゃった。バカじゃないの、とは言わなかったけど。リーンが怒鳴るかと思ったけど、代わりに、クリスンが叫んだ。

≪あの人、死んじゃう?!≫


女の人は、岬から、飛んだ。

岬の端っこから、きらきらした海に。


 ※ ※ ※ ※ ※


キャビク島の南の港町、ニアヘボルグ。あたしは、よくある漁師の子として産まれた。ポッペアって名前は、なんかよくわかんないけど、島で一番大きな都市の、アルトキャビクのお城に住んでた誰か、偉い女の人が付けたらしい。母さんは、その人のお屋敷で、働いてたから。父さんは、漁師だったけど、一緒にお屋敷に勤めていた事がある、そこで出会った、と言ってた。父さんの兄さん、つまり伯父さんは、小さな魚肉の工場を持っていて、伯母さんとの間には、従兄弟がいたらしいけど、あたしが生まれる前に亡くなったらしい。

あたしはひとりっ子だったけど、同い年の子供は、たくさんいた。よく遊んだのは、七、八人くらい。

女の子は、岬の灯台守の一家のリーン、双子の妹のエール。本当は年子だけど、学年が一緒だし、エールは、双子だと言い張っていた。

エール達の親は、一つ違いでも、学年が同じでも、姉は姉だから、と、年上には礼儀正しく、控え目な態度を取りなさい、と教えてた。だけど、エールは、聞かなかった。身近に、本物の双子の、ジェムとジェスの兄弟がいて、彼等は、親から、何でも公平に、と育てられてた。それを見てたからだと思う。でも、彼等の家は、お金持ちで、地元とラッシルに、船の会社を二つ持っていた。エール達の灯台は、一つしかない。エールは顔だけのバカだから、わかってなかった。

あたしは、バカのエールも、エールよりも頭がいい事が自慢のリーンも嫌いだった。母親同士が仲が良かったから、それで一緒に遊んでいただけだった。

二人のうちなら、リーンのほうがましだった。エールみたいにウソつきじゃないし、泣いてごまかすとこもなかったし。

この二人に比べたら、ジェム達兄弟は、ずっといい子だった。でも、嫌われてて、遊び相手があまりいなかった。二人とも頭良かったし、性格もよかったんだけど、見た目が悪かった。子供の頃だけだけど、凄く太ってた。

二人の曾お祖父さんが、若い頃、コーデラの軍人で、とても活躍した人だったらしい。だから、双子は、その頃からの方針で、とにかく体作りが大事、で、目いっぱい食べさせてた。でも、温かいコーデラならいいけど、この島では、寒いときは、運動しない。お祖父さんとお父さんも、小さい頃は太りぎみだった、とか。で、双子は、体質的に、元々太りやすかった

らしくて、全部肉になってしまった。結局、学校の先生やら、お医者さんやら、色々出てきて、ちゃんと痩せさせてたけど。

あたしと一番、仲が良かったのは、クリスンだった。男だけど、とてもおとなしい、いい意味で、女の子みたいな子だった。この子は漁師組合の防災班長の息子だった。彼には、十歳離れたルースンってお兄さんがいたけど、シレルの学校に行ってて、一年に数回、帰って来た。明るくて面白い人だった。

後は、学校の先生の息子の、カラロスと、砕氷師の息子のノワード、彼の妹のリーナ。リーナだけは、あたし達より、三つ下だった。

先生一家は、冬はもっと田舎の子達を教えに、皆で二ヶ月くらい、毎年、北に行ってしまう。カラロスの家には、コーデラから来た「出戻り」の叔母さん(父親の妹)のブランカがいたけど、彼女は着いていかなかった。この叔母さんは、元旦那さんから、たくさんお金をもらっていて、自分の家を買えるはずなんだけど、カラロスのお母さんの事が嫌いで、当て付けに一緒に住んでいる、なんて言われていた。嫌いで一緒に住むのがよく解らないけど、カラロスのお母さんは、お父さんと違って、漁師の子と、教師の子を一緒に遊ばせるなんて、て考え方の、嫌な女だったから、みんなは、あたしの母さんも、叔母さんの方に味方していた。ブランカさんは地元の人で、カラロスのお母さんは、ポルトシラルの人、つまり余所の人だから、そういうのもあったんだと思う。

ノワードのお父さん、砕氷師も、氷を割るために、冬は地方回りだった。けど、子供達は、母親と街に残っていた。

ノワードだけ、たまに父親に着いていくこともあった。学校が無い時に限るけど。

砕氷師は、冬に凍結した湖や港で働く。氷を溶かすには、火の魔法が一番だけど、地域によって、火魔法を派手に使うと、特産品に影響がある、と禁止している所が多かった。そういう場合は、砕氷師が活躍する。ニアヘボルグは、砕氷師のお世話になる事がほとんど無かったから、ノワードのお父さんは、旅芸人みたいなものだ、と思ってた子供が多かった。

ノワードが、リュラさん、と言ったのは、北東の街のポルトシレルの、港を仕切ってる家の、六人姉妹の、一番下のお嬢さんだった。家出してニアヘボルグまで来て、岬で飛び下り自殺してしまった。あたし達が七歳の時で、原因は、子供には伏せられてたけど、地元の新聞が一面に書いていて、

「恋人を追いかけて家出したのに、相手が既婚者だとわかった。」

「妊娠していた事がわかった。」

と堂々と載っていた。それを親に聞いたら、あたしが悪い訳じゃないのに、凄く怒られた。

カラロスとノワードの所は、もっと大変で、二人の父親は、ポルトシレルで、リュラさんの家に出入りしていたから、相手の男と噂されていた。でも、カラロスの所はポルトシレルでは、一家で家を借りてたし、ノワードの父親は、たまに息子を連れていって紹介もしていた。結婚した時、お祝いもしてもらったから、独身なんて、騙せるはずがない。

記事のせいで、カラロスのお母さんは、とうとう出ていった。カラロスは、その時、母親に着いていって、街を出た。その後、ブランカさんも再婚して街を出た。先生は、一度、北のほうに転任して行ったけど、その後、戻ってきた。カラロスは、こことシレルをいったり来たりしていた。奥さんの姿は、二度と見なかった。


でも、こういうのより、あたし達子供には、もっと真面目な問題が出た。

あたしは、飛び下りるところを見た後、カラロスとクリスンと一緒に、大人を呼びに行ったんだけど、リーンとエールは、自分の家の近くってこともあって、飛び下りた後を追って、崖を下って、「見てしまった」。

リーンは、拒食症になってしまって、ガリガリに痩せちゃって、しばらく、母親の実家に(ラッシルのほう)行っていた。エールは、逆に過食症になってしまって、彼女もしばらく、街の病院に入院していた。ノワードは、リーナに見せないように頑張ったせいで、自分は見てしまい、リーンほどじゃないけど、しばらく拒食症になっていた。

無理もないけど、エールはかなり神経質になって、荒れて手がつけられない時もあり、周囲は大変だった。あたしもクリスンも、気を使ったつもりだが、何度も無神経と罵られた。

夏のお祭りも中止になってしまったし、あたしの、「岬」「夕日」「黒髪の女の子」に対する、イメーシが最低最悪になった年だった。


でも、その年、というか、あの日あの時の岬、あたし達、昔の遊び仲間が揃ったのは、あの岬の夕日の下が最後だった。カラロスの話は、さっきの通り。次の年には、リーン達は入退院だったけど、ジェスとジェムの双子は、アルトキャビクの学校に行った。ノワードは、何か難しい試験に受かって、コーデラの学校に行った。クリスンとあたしは、ずっと街に残っていた。あたしには、伯父さんの工場を継ぐ話があって、それなら、お金の勉強がいるけど、学校より、伯父さんから、直接教わる事が多かった。クリスンは、将来はまだ決めてなかったが、兄さんと同じ学校に行きたい、と言ってた。


子供時代なんて、田舎では、早く終わる。あのお嬢さんがいなくても、こうなったんだろうけど、どうしても、「岬の夕日と、佇む彼女」のせいだ、と、あの時のあたしは、思ってしまった。


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