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第九話:ドワーフ

 天気が良い日だな。


 そうだ、アルベルトを呼び出して、また出張させよう。


「お呼びですか」

「君が従えてくれたオーガ、非常に強力で良いね。陸戦力は十分なので、次は海と空が欲しいな」

「……はい」

「海は西海にヒュドラが居るようなのでそれに、空は南西の山頂付近に竜が居るようなのでそれに、それぞれ糸を刺してきてください」

「は、い……あの、一目でいいのでベロニ――」

「では頑張ってください」

「………………はい」


 アルベルトが快諾して旅に出る。


 この旅によって、彼の経験は凄まじいことになっている。普通ならばアイリスやその他の頂点者に対抗できるほどに、高い実力を備えていることだろう。ただ、寄生糸のレベルアップドレインによって、その経験の全てが俺に流れ込む。後方で左団扇の俺に近接戦闘能力なんて必要ない、が、万が一の侵入者対策等のためには鍛えておいて損はない。


 さて、アルベルトについての些細なことは置いておこう。


 今日はジルライン王国支配者として初めて獲得した、実利のことを考える日だ。


「クソッ、クソッ! 離せのろまのオーガども!」

「ゴ――――――!」

「ぐ、はぁ……ッ、……畜生……なぜ、枷もないのに……う、逆らえない……」


 南方に開通した航路から、次々と積み荷が下りてくる。


 南方諸国。


 海を挟んで向こう側の地域では、先日情勢に大きな変化があった。支配者が人間種からオーガへと切り替わったのだ。まさに激変。


「第一陣が来たか、どれどれ。おぉ……ガーベラ、何人くらいいる?」

「まずは男女合わせて一万人です。軌道に乗れば十万人/年ほど運び込める見込みです」

「よしよし。引き続き進めろ」

「はい」


 船で運ばれてきた積み荷とは、ドワーフである。


 ドワーフ。


 ここ西方諸国を支配する我々長身族とは異なるルーツを持つ種族だ。


 非常に背が低く、成人してもせいぜい百三十センチ。男性は体つきが筋肉質で、鉱脈を掘り当てたりその金属を加工したりするのに長ける。女性の方も同様に背が低く、こちらは男性よりも更に平均十センチは小さい。狭い鉱脈を移動するのに長けているのだ。また、女性は長身族のものに比べて胸部や臀部が大きく発達しているのも特徴である。長身族にもファンが多い。


 当然、鉱脈堀りや加工業だけでは食糧事情が安定しない。彼らは一つの気に入った山に住居を構えることが多く、必然的に農耕技術も大きく発展している。我々は麦や芋を育てるが、ドワーフらは向こうの気候に適した稲という作物を育てる。麦の何倍もの収穫効率を見込める優れものだ。


 そんな優れた文明を発展させていたドワーフが、先日オーガの群れに強襲された。


 普段ならば得意の冶金術で撃退するはずが、その時のオーガは強力な鎧で守られていた。


 自分たちと同等の技術に驚いたドワーフたちは、最後までその鎧がギルライン王国のフィンルド製だとは気づかなかった。


 こうしてドワーフたちは隷属の身となった。


「ガーベラ。君は先日、これで南方との格付けは済んだといったよね」

「はっ、間違いなくククルト様の覇権に逆らえなくなりました」

「その辺よく分からなくてさ。経済のことを説明してほしい」


 本来ならばガーベラの頭を寄生糸で読み取ればいい話だが、彼女の知的な説明が好きで、敢えて説明させる。


「経済の根幹は人口です。人口が無ければ経済圏は萎え、増えれば栄えます」

「ふむ……そうか。普通なら繁殖して増やさないといけないのが……」

「はい、奴隷として運んで来ればジルライン王国だけ内需が増えます。しかも労働力はほぼ無料。富の集積は技術革新も促進します。人口を失った南方は、今後千年この地域に逆らえなくなるでしょう」


 千年帝国か。


 良いフレーズだ。


 それの第一歩がこのドワーフたちか。


 そんなドワーフ奴隷たちの内でも最上質な者、それが今目の前に運ばれてきた。


「初めまして。アネモネ・イーミール」

「く、貴様……ジルラインの宮廷魔法使いか。おのれ、オーガなどを手なずけおって……」


 両膝をつき、悔しそうにこちらを睨みつけるのはドワーフの女性、アネモネだ。


 ドワーフの政治体制は世襲有力者の合議制。その有力者の中でも最古の良家、イーミール氏の令嬢。


 上品な紅茶にミルクをたっぷりと溶かしたような茶白髪。童顔だが凄みがある表情。睨みつける瞳は穴倉のように黒い。背丈は俺のへそより少し上くらいしかない。他のドワーフ娘の例に漏れず、大きな大きな胸元をしているが、その一方で腕回り、腰回り、脚周りはかなり鍛え上げられ、引き締まっている。


 アネモネは武闘家だ。


 それもイーミール氏と言えば南方諸国でも随一の、体術使いだ。


 そんな彼女を一人引き連れた理由は一つ。自分の腕試しである。


「アネモネ、ドワーフを解放されたいのなら条件がある」

「……誇り高いドワーフ族は辱めを受けない。殺せ」

「何か勘違いしているな。そのバカでかい胸部を使うのは後。条件はこうだ。俺と一対一武器無し魔法無しで勝負し、勝ったら全ドワーフを解放してやる。負けたら、しっかりと体を洗ってそれなりの覚悟はして貰おう」

「なんだと……ふっ、正気か貴様。いいだろう」


 自信満々でアネモネが立ち上がる。


 ぐっ、ぐっと膝を伸ばして準備運動も万全。


 ばしん!


 とその場で片足を踏み鳴らし、「いつでもかかって来い」と言わんばかりに半身に構える。


「多分、俺結構強いから気を付けてね」

「多分? ふん、自らの実力も測れない未熟者が、私に勝てるか! はぁああッ!」


 長髪を翻し、左右にワンステップずつフェイント。


 同時にあっという間に距離を詰めたアネモネは、ずどどどっ、と岩をも砕く拳の連撃を見舞って来た。


 その手首一つ一つに、丁寧に手刀を差して落とす。


「なっ……!」

「うわ、ちょっと寄生だけで強くなりすぎたな。悪いなアネモネ」

「くっ、うぉォオッ!」


 拳をはたき落とされたアネモネは互いの実力差を薄々感じ取った。しかし、種族の危機に敗北を認めるわけにもいかず、その場で思いっきり足を持ち上げてハイキック。


 ずどしん


 と常人なら首ごと吹き飛びそうな蹴りを片手で抑え、そのまま股を開かせたまま仰向けに押し倒す。俺と床の間に挟まれたアネモネは、もはや身動き一つとれない。


「お”っ! ……い、ぎ、痛っ……!」

「模擬戦終了。うん、相手にならなくて実力が測り切れないな。もっと強い奴が来たらもう一度試そう」

「ふッ、くっ! は、離れろ……!」

「ああ、君はもういいよ」

「ほひょっ……?!」


 アネモネの耳穴で保留していた寄生糸が稼働開始。


 ぐるりと白目をむいたアネモネは、生涯奴隷としての身分を強制的に理解・承諾していく。


「それにしても本当に背が低いな、ドワーフの娘は」

「お”ほっ! お”っ! ひっ、ひいぃ……!」

「これだと腰を合わせたら口づけ一つ出来ない。まるでただの欲望処理道具だね」

「くそっ、くそぉ……どわーふは、けっして、けっしてそんなものでは……! ――あぎっ! あ、あ……ククルト様の物です! 種族丸ごと、ククルト様の所有物です!」


 寄生完了。


 彼女たちの採掘、冶金の知識はフィンルド家並みだし、これから末永く付き合わせて貰おう。


――

ククルト・パラシーノ(魔法使い)レベル6310

・所有スキル

寄生魔法:60 初等魔法:5 経済:100 交渉(商取引):100 交易:100 騎馬術:100 槍術:100 剣術:100 帝王学:100 戦略:100 戦場指揮:100 甲冑組手:80 弓術:80 内政:100 採掘:100 鋳造:100 オーガ語:100 採掘(ドワーフ流):100 鋳造(ドワーフ流):100

・特技

重装騎馬槍突撃(前提:騎馬術、槍術)

オーガ指揮(前提:戦場指揮、オーガ語)

最先端冶金術(前提:鋳造、鋳造(ドワーフ流))

・主な寄生先

ガーベラ・クーランジュ(商人)

アイリス・ジルライン(第二王女)

ワルキューレ三千人(重装騎兵)

マリー・ジルライン(第一王女)

ラケナリア・ジルライン(王妃)

ベロニカ・フィンルド(辺境伯)

アネモネ・イーミール(ドワーフ令嬢)

・獲得ユニット

アルベルト・カウフマン(魔法剣士)

オーガ五万頭(重鎧兵)

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