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第八話:軍備

 ジルライン王宮の支配。


 これによって得られたものは余りにも多い。最高の財、最高の権力、最高の軍。


 西方諸国筆頭のジルラインで、ここまでやりたい放題やった者は過去に例が無い。


 ただ、一点だけ良くないことがあるとすれば、


「軍備が疎かだよな、アイリス」

「ああ、ワルキューレ三千を全員ククルト様専属の私兵としたことで、陸軍の打撃力が低下している」

「うーむ、問題だよね」

「う”ぐ、ぐ、う……っ、ククルト様のためなら、国の警備など不要……だ」


 頭蓋骨の裏のかゆみに悩まされながら、アイリスは忠誠を改めて誓う。


 確かにアイリスの言う通り。ワルキューレ三千が三交代制で、常時俺の側に待機している。内、百人はさらに厳重に、同室警護が義務付けられる。


 この部屋は王族用の寝室でそこそこ広いとはいえ、百人も詰めているとメス貴族の匂いで一杯だ。


 余りにも過剰な護衛だが、寄生者の弱点は本体を突かれること。


 改めるつもりは無い。


「ワルキューレの配置は現状維持ね。代わりに陸戦力を探さないと。……うーん、アイリスは地上で一番強い生き物は何だと思う?」

「それは……象じゃないか。あとはサイとか」

「いいね。戦象部隊を作れれば、まるで古代の戦だ。でも魔物も含めるともっと強いの居ないかな」

「魔物!? バカな、あれらが軍など作れるものか」


 アイリスの言う通り、通常の動物と比べて魔を宿す生き物は気性が荒い。昔から手なずけることは試されていたが、成功した例は一つもない。


 だが、俺の寄生呪文ならば可能なはずだ。


 魔物を手なずける、という前提でアイリスは考えていたが、一つのアイデアを出した。


「やはり、軍として動かすならばオーガが最も強力だろう」

「オーガね」


 人型の、人の三倍近い大きさを持つ魔物だ。


 この西方地域ではなじみが薄いが、確か南方の大陸でかつて猛威を振るった災厄。今はドワーフの発達した冶金術に追い立てられて山奥で暮らしているとか。


「確かに、あいつらはサイズや筋力が凄い。それに、ジルライン国フィンルド産の鉄装備を付けたら誰も止められないだろうな」

「だが……魔物に武器を与えるのは……」

「よし、アイリス案採用! これをオーガに金棒作戦と呼ぼう」

「ま、待――」

「アルベルト!」


 良心の呵責に悩んでいるアイリスは放っておいて、手駒のアルベルトを呼び出す。


「ははっ」

「南方へ行き、オーガの群れと接触。これに寄生糸をばら撒いてきて」

「了解しました……あの、ベロニカは元気ですか?」

「ああ、うん。とても元気。フィンルド家の中のことは俺とベロニカに任せて、アルベルトはしっかり外で稼いできてね」

「…………はい」


 快諾してくれたアルベルトは早速旅支度を整える。


 例えば俺が勇者の資質を持っていれば、こういう重要なことには自ら赴いたかもしれない。だが俺は凡人。運も無ければ閃きも無い。それは今までの人生でしっかりと理解している。


 だから最後の最後まで決して前線にはでない。


 このくらい臆病な方が、寄生呪文の使い手として適正だ。


 ワルキューレという極上の武力に身を守らせて、今日もぬくぬくと寝室から寄生活動を進めよう。


――


 アルベルトの視界。


 この視界は楽しい。


 爽やかなイケメンで、体つきも逞しい騎士アルベルトは女性人気が大きい。途中滞在の為に村を訪ねれば、可愛らしい村娘が続々と寄ってくる。羨ましいことだ。


 その村娘の耳元を優しく撫で、糸を入り込ませるくらいで俺は満足。


 行く村々で大量の糸をばら撒きながら、騎士アルベルトの旅路は続く。


 山を越え、谷を越え、海を越えてまた山を越え。


 騎士アルベルトの旅は遂に南方のオーガ生息地に到達した。アルベルトは賢いので、大体オートで到達した。一々視界に同行しなくていいから楽だ。


 対峙するのは一頭のオーガ。


「私の名前はアルベルト・カウフマン、ジルライン王国の命で来た」

「……」

「オーガの諸君と友好関係を結びたい。指導者にお会いできるか」

「……」


 真っ黒い肌をした五メートルはありそうな巨体。その全身にはガッシリと筋肉の鎧が備わる。


 子供の背丈ほどもある手の平には、極めて原始的なこん棒が握られている。


 殺した獣や人の骨を勲章のように腰からぶら下げ、深い堀の底にある瞳はコミュニケーションの兆しすらない。


 ドチュン!


 とアルベルトの視界が宙を舞う。


 突然殴りつけられた。蛮族過ぎる。


「くぅ……! やむをえん!」


 だが流石優秀な騎士アルベルト。殴りつけは寸前で盾で受け流し、吹き飛ばされた先の岩を器用に蹴って逆襲。


 バチチ、と稲妻の魔力を剣に纏わせて叩き込む。


 上手いぞ。


 頑丈な皮膚に剣自体は防がれたが、稲妻のショックでオーガは硬直している。見事、ただ少し決め手に欠ける。


 ちょっと加勢してやるか。


「ぐ、ぉぉ……ォ!」

「殺しはしない。だが、逆らうのならこのまま調伏してくれる――ぐ、ぅ……?!」


 アルベルトの左腕が、マリオネットのように力なく持ち上がり、オーガの脇腹定めて疾走した。


 連鎖寄生や媒介寄生ワインのように、寄生糸を研究して得られたスキルの一つ。


 宿主強化。


 俺が蓄えている莫大な魔力や生命エネルギーを、一時的に宿主であるアルベルトへと譲渡する。既にばら撒いた糸は万を超える。それによって集められるエネルギーは、人ひとりが持つには桁違いのものだ。普段はほとんど俺が独占し、ワルキューレや主要な寄生先に『若さ』を分け与える以外は外に出さない。


 今回は手こずりそうなので特別、分け与えてあげよう。


 人間には到達不可能なほどに速い手刀は、正確にオーガの脇腹を切り裂いた。


「何だ! 一体何がッ……これは、俺の手から……糸が……あいつの、ククルト・パラシーノの……」

「ごォ……ごっ、オオオオ――――!」

「俺は、一体……一体……ああ、ベロニカ……」


 うぞうぞと動き出した寄生糸は、アルベルトの左腕からオーガへと取りつく。


 分厚い皮膚が避け、肉が丸出しになったわき腹から寄生糸が侵入していく。


 寄生完了。


 こうしてオーガを従えて分かったことが一つ。魔物も、他の動物も大差ない。所詮は脳みそやそれに準ずる器官によって行動している。その核となる最重要器官を押さえてしまえば、人間と同様に寄生支配が可能だ。


 何やら膝から崩れ落ちて絶望を感じているアルベルトを放置して、オーガは群れの方向へと歩き出す。


 そこには人間と同様に、人間よりは大分低レベルな社会性だが、数多くのオーガが暮らしている筈だ。一頭を押さえてしまえばあとは連鎖寄生の応用。アルベルトから受け継いだ大量の寄生糸をばら撒き、オーガの私兵化は完了する。


 ワルキューレの代わりだなんてケチなことは言うまい。他にも多くの魔物を従えて、圧倒的な軍事力を獲得して見せよう。


 その内、古に伝わるの魔王のように、ジルライン城に君臨するのも悪くないかもな。


――

ククルト・パラシーノ(魔法使い)レベル3002

・所有スキル

寄生魔法:50 初等魔法:5 経済:100 交渉(商取引):100 交易:100 騎馬術:100 槍術:100 剣術:100 帝王学:100 戦略:100 戦場指揮:100 甲冑組手:80 弓術:80 内政:100 採掘:100 装備鋳造:100 オーガ語:100

・特技

重装騎馬槍突撃(前提:騎馬術、槍術)

オーガ指揮(前提:戦場指揮、オーガ語)

・主な寄生先

ガーベラ・クーランジュ(商人)

アイリス・ジルライン(第二王女)

ワルキューレ三千人(重装騎兵)

マリー・ジルライン(第一王女)

ラケナリア・ジルライン(王妃)

ベロニカ・フィンルド(辺境伯)

・獲得ユニット

アルベルト・カウフマン(魔法剣士)

オーガ五万頭(重鎧兵)

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