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第六話:雪の街

 王宮制圧は完了。


 マリー、アイリス、ラケナリアを完全に押さえた俺は、商人のガーベラも招いて次なる攻略目標を探していた。


 俺専用の執務室を作り、宿主たちを侍らせて何一つ生産的なことをしない。


 まさにこの王宮の寄生者だ。


 このままでは何もかも吸い上げてしまうだろう。だが残念ながら、もはやこの王都に俺を除こうとするもの、いや除こうと動ける者はいない。安心して今後の戦略を練ることができる。


「外国よりも国内だな。効率よく有力者を押さえたいところだが、ワルキューレで貴族はほとんど獲得し切ったんだよな。どう思う? マリー」

「……ククルト、様。恐れながら申し上げます」

「ん」

「わずかですが、いくつか残った貴族が居ります」


 ほほう。


 それは意外。桁外れのカリスマ性に基づく、アイリスの募兵能力は凄まじい。ありとあらゆる家から参上するかと思ったが、居残り組もいるのか。


「じ、事情がありまして……例えばフィンルド家は代々、北の鉱山を一部預かる身。それもフィンルド家の製造する鉄製品は良質なものばかりです」

「あ、ワルキューレの鎧や槍もそうか」

「その貢献は参戦よりも一層大きく、責任は一層重いのです」


 この国の北には、不純物が少なくそして無尽蔵の鉱山がある。


 その中でも特に、量より質を求められる専用武具等を扱うのがフィンルド家だ。


 当主の一人娘が近々、よそから婿を取るとのこと。貴族にありがちな政略結婚かと思えば、相思相愛の大恋愛結婚らしい。珍しい。


 確か嫁の方はベロニカ・フィンルド。入り婿の方はアルベルト・カウフマン、だったか。


 アルベルト……? ああ、聞き覚えがあると思ったら寄生済みの男か。ワルキューレほどではないが剣術に長け、稲妻や炎を武器に纏わす珍しい特技の使い手だ。イケメンだし、高身長だし、感じのいい奴だ。


 ベロニカの方は詳しくないが、噂では絶世の美女とのこと。


 しかも採掘や鋳造の知識に長ける。是非とも獲得しておきたい知識だ。


 ただ、残念ながらフィンルド家は代々陰気な引き籠り気質。王都にすら滅多に顔を見せず、深い山奥から出てこない。


 ならば、


「前回もやった連鎖寄生、今度はさらに遠隔を試してみるか」


 俺はアルベルトの寄生モードをニュートラルからコントロールに変更、入り婿の行き先を北の山奥へと定めた。


――


 俺よりも十センチほど高い視界が、ベロニカ・フィンルドの扉を叩く。


 開いた扉の先には、見目麗しい深窓の令嬢の姿があった。


 深夜の山稜のように真っ黒で、緩やかに波打つ長髪。色白でやや面長、堀の深い輪郭は北国特有のものだ。そこに奇跡的なバランスで深緑の瞳が配置されている。


 貴族同士が会うにはいかにも簡素な、まるで部屋着姿のような衣装が、ベロニカとアルベルトの親密さを示している。


「アルベルト、来てくれてありがとう」

「ああ、ベロニカ。会いたかった」


 挨拶もそこそこに、二人は愛を確かめるように抱きしめ合う。


 フィンルド家の古いしきたり、口づけ含め婚前交渉の一切を禁ずるという枷が無ければ、今すぐにでも寝具に飛び込みそうな雰囲気だ。


 それにしてもアルベルトの奴、女尊男卑が平民よりもずっと強烈に残る貴族間で、これほどの親密さに到達するとは。同じ男として尊敬するよ。甘い顔の作りもさることながら、よほど二人の相性はいいのだろう。まさに運命の相手という訳だ。片方は既に寄生済みで、もう片方ももうすぐそうなるが。


 二人はしばらく会えなかった空白を埋めるように会話に花を咲かせる。


 そして今後の婚儀についてもしっかりと打ち合わせ、日取りを完璧に定めてようやくアルベルトは立ち上がった。すまなそうにベロニカがアルベルトの背中を撫でる。


「せっかく来てくれたのにごめんなさい。父が頑固で、どうしても御泊めするわけには……」

「分かっているさ。今日は麓の村で休む。御父上がお許しならば、また明日も来るよ」

「ありがとう、愛しています。アルベルト」

「もちろん俺もさ」


 アルベルトがしっかりと愛する者を抱き寄せる。背中に手を回し、顎を相手の肩に乗せ、耳を耳に極限まで近づける。


 寄生成功だ。


 アルベルトを第一の宿主とした連鎖寄生が発動。耳から耳へと寄生糸が渡る。


「……!? んぎっ! あ、あるべ……」

「ベロニカ?! 一体どうし――、今日は帰るよ。さようならベロニカ」

「ぎぅ、な、何かが私の中に……! アルベルト、お願いっ、んぎっ、い、医者を呼んで……!」


 ばたん


 と無慈悲に扉が閉まる。


 地面に這いつくばったベロニカの望みを、叶えるものは居ない。


 閉まる扉を見る視界は、部屋の中からだった。つまり、ベロニカの視界は既に掌握完了。手を差し伸べるべき男が退室した今、彼女の頭蓋が制圧されるのももうすぐのことだ。


――


 ジルラインの王城。


 俺専用の個室にアルベルトを呼びつけた。


 部屋に入って来たアルベルトは、俺の横でシーツにくるまっている女性を見て驚愕している。


「お呼びでしょうか……べ、ベロニカ? どうして、ここに……」

「あらアルベルト、いらっしゃい。実はククルト様の昨晩のお世話係に任命頂いたの」

「世話、係? 君が?」

「ええ、一晩中お側にいて、何か不足があればすぐに満たせるように待機しているのよ」

「…………」


 アルベルトは言いようのない不満感を帯びている。


 何故こうも不愉快に感じるのか、寄生済みの彼には全く分からない。自分の許嫁が、どこの馬の骨ともわからない魔法使い男と一緒のシーツにくるまっている。そのことが何故不快なのか、思考が制約され過ぎて答えにたどり着けない。


 そんなアルベルトを一切気遣うことなく、ベロニカは続ける。


「だからアルベルト、私たちの婚約も解消しましょう」

「!?」

「ククルト様がその方がいいっておっしゃるの。私も同感だと思った」

「……そうだな。お、俺、も、そう思う」

「じゃあ、ついでに私たちの婚儀の神父役をやって頂戴、ここで構わないから」

「え……? お、俺が……? う、ベロニカ・フィンルド、あなたはククルト・パラシーノ様を御主人様とし、病める時も健やかなるときも、喜びの時も悲しみの時も、心も体も魂も全て差し出すことを誓いますか」

「誓います」

「…………ではククルト・パラシーノ様、あなたはベロニカ・フィンルドを妻にするかは保留として、一晩かそこら程度には愛し続けることを誓いますか」

「誓います」


 こうして俺とベロニカの婚儀は成った。


 部屋の入り口で愕然と膝をつき、泣きそうになっているアルベルトを、元許嫁がベッドの上から慰める。


「元気を出してアルベルト。ククルト様はアルベルトのことを買っているのよ」

「え……?」

「うむ、アルベルトは優れた人材だ。これからも活躍してくれ」

「う、ぐ……」

「今、ククルト様は軍備の再編を行っているの。ワルキューレ三千人は内地、出来る限りククルト様のお側に置く。その代わりに前線ですり潰しやすい男性兵士が必要なの」

「アルベルトの魔法剣術は見所がある。画一的な集団戦闘だけじゃなく、局所的な武勇の活躍も望めると思うよ」

「それに」


 言葉を一旦切ったベロニカが、巻糸を一束、元婚約者に投げて渡す。


「これは……?」

「寄生糸よ。アルベルトは剣術だけじゃなくて顔も良いから、きっと若い女性に沢山モテると思うの。その時は優しく抱きしめて、耳と耳をすり合わせてね。……私のときみたいに」

「……! す、すまないベロニ――」

「大丈夫よ。だって私、今こんなに幸せなんだもの」


 朗らかにベロニカは微笑む。


 素晴らしい役割分担だ。


 俺が家でベロニカを幸せにし、アルベルトは外で働いて俺達のために稼いでくる。この寄生関係はいつまでも続くことになる。


――

ククルト・パラシーノ(魔法使い)レベル3002

・所有スキル

寄生魔法:40 初等魔法:5 経済:100 交渉(商取引):100 交易:100 騎馬術:100 槍術:100 剣術:100 帝王学:100 戦略:100 戦場指揮:100 甲冑組手:80 弓術:80 内政:100 採掘:100 装備鋳造:100

・特技

重装騎馬槍突撃(前提:騎馬術、槍術)

・主な寄生先

ガーベラ・クーランジュ(商人)

アイリス・ジルライン(第二王女)

ワルキューレ三千人(重装騎兵)

マリー・ジルライン(第一王女)

ラケナリア・ジルライン(王妃)

ベロニカ・フィンルド(辺境伯)

・獲得ユニット

アルベルト・カウフマン(魔法剣士)

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