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第五話:母娘

 マリー・ジルライン、第一王女。ラケナリア・ジルライン、王妃。


 アイリスの実の姉と母親だ。


 燃えるように赤い髪のアイリスとは対照的に、マリーは粉雪でしつらえたかのようにふわふわとした銀髪。ラケナリアは万年雪のようにしっとりとした銀髪。目元は良く似ていて、吹雪の合間の青空色だ。どちらもおっとりとしていて、貴い身分の割に民衆の親しみは深い。アイリスの武力、王女・王妃二人の内政が両輪となってこの強国ジルラインを支えている。


 マリーはそろそろ二十歳になる頃の筈だが、小柄な美少女のよう。ラケナリアはそんなマリーのスタイルを、三回りほど豊かにしたような色気がある。


 今日はこの二人を頂くとしよう。いつもの寄生の時間だ。


「じゃあ、アイリス。行ってきて」

「は、え……何、を」

「俺がわざわざ二人に会いに行っても不審なだけだし、アイリスが寄生糸流し込んできて」

「っ……! わ、ワルキューレに続いて、姉上と母上までも……私は差し出したく――」

「行ってきて」

「行ってきますっ!」


 俺が渡した二本の糸を手に、絶対に逆らえないアイリスは家族の元へ向かう。


――


 この寄生呪文の便利な所は、視界を共有できることだ。


 今回はアイリスの視界にお邪魔させてもらおう。


 アイリスの手は、ためらいながら王族専用の談話室を開く。


 そこには彼女の親族二人が、王国各街巡幸の疲れから解放されてくつろいでいる姿があった。


「あら、アイリス。ただいま帰りました」

「ただいまー」

「お、お帰りなさい、母上、姉上」

「……? どうしたの……? なんだか、様子がおかしいけれど」

「少し、熱っぽくて。風邪でしょうか」

「ええっ、北の鉱山で熊よりも元気に過ごしたアイリスが風邪?」

「う、うん……」


 よほどアイリスの健康状態は良好なのだろう。風邪かもという一言で二人に驚きが広がっている。


「ですので、今日は挨拶だけしたら休みます。お二人とも巡幸お疲れ様でした」

「アイリスこそ、我々不在の間よく王都を守ってくれました。負担をかけ過ぎたようですね。明日はゆっくり休みなさい」

「そ、そうします……………………っ、母上、姉上」

「?」

「何?」

「これ、豪商のガーベラが献上して来た髪飾りです。遠い東方の異国のものとか。こう、耳元に刺して使います」

「まぁ!」

「綺麗……これ、漆器だ。確か交易品で見たことある。すっごい貴重なものよ」


 二人とも黒く艶やかな光を放つ髪飾りに夢中になっている。


 どうやら品物の選別は正解だった。王族の気を引くにはそれなりの品でなければならない。少々根が張ったが、ガーベラに取り寄せさせたのが間に合ってくれた。


「素敵、ありがとうアイリス」

「ありがとね!」

「……はい、ではお休みなさい」


 アイリスが部屋を出る時、マリー、ラケナリアの二人はすでに髪飾りを耳元に刺していた。


 扉を閉めるとほぼ同時。


 するり


 と装飾部を結ぶ糸がほどけ、見事な蒔絵細工が床に散らばる。


「あら、いけない。東方の品は随分華奢でいけないわ。マリーも気を付けて――んひっ”あ”あ”っ!」

「母上……? ん”っ!」


 いつも通りに寄生成功。


 いつも通りだが、今回は少々手の込んだことをさせて貰った。そして実験は大成功だ。


 今回、俺が寄生糸を直接滑り込ませたわけではない。アイリスが運び、アイリスが対象の耳元まで持って行った。つまり寄生先の宿主が、俺の思い通りに行動して追加で寄生先を増やしたわけだ。


 以後、これを連鎖寄生と呼ぶものとする。


 連鎖寄生が成立すれば、わざわざ俺が相手のところまで出向く必要がない。今回のように親しい人物に運ばせてもよいし、他にも鳥で遠隔地まで飛ばしたり、可愛らしい子猫にじゃれつかせてもよい。使い方によって、連鎖寄生の可能性は無限だ。


 呪文の詳細を読み解くに、寄生糸を予め複数潜り込ませておけば、一本を分木として他に移すことも出来そうだ。


 使い方は色々考えるが、今日のところは実験成功を喜ぶにとどめておこう。


 さて、マリーとラケナリアの部屋にお邪魔するか。


――


 マリー第一王女の細い体ををしっかりと抱きしめる。


「お”! あ! ぶ、無礼な、何者か!」

「はい失礼しますよ。ふむ、まだ意識だけは抵抗できるか。やはり王家クラスの魔法抵抗力は凄いな。ククルトですよろしく」

「ひ、っ、……? ……?? あ、ぜ、全部好きにしてよい、よきにはからえ……っ? っ?」

「といっても最深まで入り込んだら操り放題ですね」


 マリー王女はこの国のアイドルだ。


 今回のような巡幸で、俺も一度だけそのお姿を見たことがある。学生の頃だ。


 無論話す機会なんて絶対に無かったし、目を合わせるどころかお顔がこちらを向くことすらなかった。


 白馬に引かれた上品な馬車の窓から、楽し気に手を振っていたのをよく覚えている。


「そんなマリー様が、今は俺の腕の中で完全に独り占め……。最っ高だ」

「う、う”、う? ? アイ、リス?? 私たちに、な、なにをしたの……」


 マリーの混乱はいつまでも続く。今夜中はその混乱が収まることはない。


 素晴らしい夜だ。この国のアイドルを、象徴を、うだつの上がらない木っ端魔法使いの俺が独占している。


 マリーは王位継承者の筆頭。アイリスよりも更に主流の血筋。つまりこの方が次々代の王の母。つまり、俺が、庶民であるこのククルトが、たった一つの魔法を覚えただけで、将来の王の――、


 成り上がり者としてこれ以上のチャンスはあるまい。


 マリーの脳みそを完全支配すると同時に、俺は全欲求を王女にぶちまけた。


「あ”熱! …………あい、りす……ははうえ……」

「ふぅ、ご馳走様でした。……次」

「ひっ!」


 ラケナリアの肩が恐怖で跳ねあがる。


 何が起きているのか思考が追い付いていないが、残念ながら現状に追いつくことは永遠に無い。すでに脳まで寄生済みだ。


 その結果を確認するように、ラケナリアにしっかりマウントをとってから綺麗な銀髪ごと頭蓋を揉む。


「ひ、ひいぃ! 無礼者! ぶれ、ぶれいもの……! 誰か、衛兵!」

「この城全員掌握済み」

「!?」

「ちょっと帰ってくるのが遅すぎましたね。あなたたち二人が揃っていれば、こう簡単に王宮を掌握は出来なかったでしょう」

「そんな……あ”っ!」

「ところで、ラケナリア様。これってどうなるんでしょうね」

「な、何が……!」


 民衆に親しまれたラケナリアに、今の苦境を教えてあげよう。


「もしマリー様に御子が出来たとして、ラケナリア様も同時に出来たとして、継承権ごちゃごちゃになりませんか?」

「!」

「というか、後世の歴史家は驚くでしょうね。王亡き今、このタイミングでラケナリア様が跡継ぎなどを授かったら、家系図とかどうやって書くんでしょう」

「!?」

「それに民衆もびっくり仰天ですよ。きっと噂するでしょう。三十半ばを超えた未亡人が、はしたなくだらしなく操を投げ捨てて、どこの誰とも知らない相手と過ごしたらうっかり命中……」

「お、お願いっ……民に、民に軽蔑などされたら、わたし……!」

「ダメです」


 民を大切にするラケナリアを、民に軽蔑される存在にまで堕とす。


 先ほどの無礼者呼ばわりを窘めるためだ。思いっきり躾を叩きつける。


 ラケナリアは絶望に震えていたが、大丈夫。既に寄生糸はすっかり定着した。辛いことなど綺麗さっぱり忘れさせてあげるよ。


――

ククルト・パラシーノ(魔法使い)レベル3002

・所有スキル

寄生魔法:30 初等魔法:5 経済:100 交渉(商取引):100 交易:100 騎馬術:100 槍術:100 剣術:100 帝王学:100 戦略:100 戦場指揮:100 甲冑組手:80 弓術:80 内政:100

・特技

重装騎馬槍突撃(前提:騎馬術、槍術)

・主な寄生先

ガーベラ・クーランジュ(商人)

アイリス・ジルライン(第二王女)

ワルキューレ三千人(重装騎兵)

マリー・ジルライン(第一王女)

ラケナリア・ジルライン(王妃)

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