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第四話:ワルキューレ

 アイリスの勇壮な号令が響く。


「ワルキューレ、全隊整列!」


 彼女の一声で、物々しい鎧を着こんだ戦闘部隊三千人が整列する。


 ワルキューレ。


 このジルライン王国常備軍の中でも、特に中核を担う最強部隊。北の高品質な鉱山・工廠製の重鎧を着こみ、中央に広がる草原で育った良質な軍馬に乗り、アイリスの元で横陣に広がって突撃する。その威力は平地にて最大限に発揮され、ありとあらゆる方陣を正面から突き砕いてきた。


 彼女たちのおかげて、アイリスが元服してからジルラインは無敗。西方諸国の中でも第一の強国にのし上がった。東の強力な遊牧民族含め、一度たりとも国境を抜かせたことは無い。


 そう、彼女たち。


 ワルキューレは、アイリスに見いだされた女性のみで構成された部隊だ。自前で重鎧を備えるには必然的に裕福でなければならず、出身者には貴族が多い。


 なぜ女性ばかりなのかというのは言うまでもないだろう。ジルライン王国、いやこの世界の常識だ。女性の方が男性よりも優れているからだ。確かに腕力や背丈では男性に軍配が上がるものの、長所と言えばその程度。一方、女性は持久力、器用さ、敏捷、工夫、知恵、そしてなによりも魔法に優れる。


 魔力に恵まれるのは常に女性。魔法が生活の大部分を支えている現状がある以上、政治含めありとあらゆる集団の長が女性である。今は亡きジルライン国王も、王妃の方針を内外に伝えるスポークスマンだったに過ぎない。


 戦場でもその傾向は同じ。


 盤上遊戯でいう歩兵は常に男性部隊が務め、露払いとなる。騎士や僧正などの花形は女性が務める。そうでなければ、有力な駒が損耗してしまい不合理だ。


 そして盤上を縦横無尽に駆け巡る女王の駒、それこそがこのワルキューレ重装騎兵隊だ。


「……ククルト」

「はい、姫」

「ぜ、全員集まった、ぞ」

「よろしい。では号令」

「…………う、く、頭が、重いっ……。わ、ワルキューレ、全員兜を脱いで目を閉じろ!」


 寄生が完全完了したアイリスは、持ち前の意志の強さで抵抗らしきものをしているようだが、全く時間稼ぎにもならない。


 その不審な様子のアイリスが発した「目を閉じろ」という奇妙な号令。それを聞いたワルキューレたちは当初困惑していた。鉄の結束と忠誠のワルキューレですら、一瞬ぽかんとしてしまうほどに奇妙な号令だ。


「……なんだか、今日のアイリス様……お顔が赤いような……?」

「隣の男は誰だ? ワルキューレの集会は男子禁制の筈だろう」

「何かおかしい。震えていらっしゃる。とにかく一時中断を――」

「何をしている! 全員、目を閉じろと言ったのが聞こえないのか!」


 びりびり、とアイリスの怒号が広間に響く。


 いくらなんでもおかしい指令だが、最高指揮官がこの剣幕では従うしかない。一人、また一人と瞳を閉じ、ワルキューレ三千人が全員暗闇の中に堕ちた。


 そして正常な意識は、二度と戻ってくることは無かった。


 準備していた三千本の寄生糸が、ヘビの飛びかかりよりも速く獲物に襲い掛かる。


「あ”……!?」

「んぎ、ぎ、ぎぃ! あ、あいりす、さま……」

「ひっ、ひいぃぃいい、広がる、頭に何か、ひろ、がる……!」


 がしゃん、がしゃん


 と鎧膝を突く音が広間に響く。


 そして全員、何もかも分からないという様子で床に口づけし、頭の代わりに腰を高く掲げて振り始める。貴族出身者が多いワルキューレは美形ばかりだし、肉体動作の実力主義なので平均年齢は実に若い。大変喜ばしい人員構成だ。


「よし、三千単位の並列寄生も成功……!」


 この呪文の応用性は凄まじい。何よりもコストパフォーマンスが高い。寄生糸を準備するには複雑な工程が必要、とはいえ、操る魔力は極小でいい。しかも糸そのものは巻糸状にしておけばストック・携行も用意。怪しまれない、という一点を突破できれば、絶大な威力を発揮する。


 そして、この王国の上層部を抑えた時点で、既に怪しまれないというハードルはフリーパスも同義。アイリスの権限ならばどこへだって入れるし、誰だって呼びつけられる。このワルキューレのように。


 そのアイリスの腰を抱き寄せてみると、彼女は不思議な表情をしていた。両手で口を塞いで、泣いていいのか怒っていいのか分からない。自分のやってしまったことは一体何なのか、そもそもそんなことする意味は何か。何故だか分からないが不安やらなにやらが合い挽きになっている、といった感じ。要は前後不覚。


「あ、あ、わたしの、わるきゅーれ……が……」

「うん、全部貰うね姫様」

「……う、うむ」

「これでガーベラの経済力に加えて、アイリスの軍事力も獲得っと。ん? もしかして重要なものほとんど手に入ってしまったか?」

「おっ、めでとうございます」

「あとは、王室以外の権威とか……最新技術とか、かな。まあ、その辺は追い追い確保していくか。それが終わったら外国だ、ほら」


 ぱちん


 とアイリスの腰後ろを叩いて促すと、涙をこぼしながら再度下知を飛ばす。


「わ、っわるきゅーれは全員、腰回りの装備を外して、よ、四つん這いで待機! 以後、未来永劫ククルト様に忠誠を誓うものとする! 剣を捧げよ!」

「……あ、あ”はい! ククルト様!」


 アイリスの最後の下知を持って、ワルキューレの指揮権は完全に移譲された。


 全員膝と肘を床に当て、剣を両手で縦に構える。聞いたことも無い誓い方だけれど、旧来のものよりこちらの方が景色が良い。新作法として採用だ。


 それにしても三千人か。一晩十人でも一年近くかかる。取りあえず今日のところは千人目標、巻いていかなければ。


 そろそろ王妃と第一王女が巡幸から帰ってくるころだし、この王宮の支配を完璧にしておこう。


――


 ちなみに、ワルキューレ完全掌握にて実証できたことが一つ。


 寄生魔法による、『レベルアップドレイン』だ。


 くしゃくしゃとワルキューレの上品な金髪を撫でつけて目を覚ますと、自身のレベルがとんでもない事になっているのに気づいた。


「……ん? レ、レベル三千? うわ、一晩で物凄い上がっている」


 レベルとはその者の実力を可視化する魔法にて、強さを大まかに数値にしたものだ。初歩的な魔法なので、魔法の下地があれば誰でも気軽に確認できる。


 通常、成人男性のレベルは五十が精々。三桁に到達することは稀の中の稀。


 だというのに俺のレベルは三千以上になっている。


「えーっと、多分これの効果かな。うん、合っていそうだ」


 寄生呪文の羊皮紙に記載されていた説明書き。


『・取り付いた時点で、対象のレベル向上を代わりに獲得できる。獲得頻度は任意に調整可能。』


 つまり、今もせっせと調練に励んでいるワルキューレたちのレベルアップを、俺が全部そのまま頂いてしまったわけだ。


「獲得量の割合も調整可能、か。どうするかな。取りあえずは百パーセント貰っておくか」


 今後ワルキューレの活躍場面が出来るかというと、少し考えにくい。相手の指揮官に寄生してしまえば、脆弱化した敵陣を砕くには今の彼女たちで十分だろう。


 それなら全部、俺個人のレベルとさせて貰おう。


――

ククルト・パラシーノ(魔法使い)レベル3002

・所有スキル

寄生魔法:30 初等魔法:5 経済:100 交渉(商取引):100 交易:100 騎馬術:100 槍術:100 剣術:100 帝王学:100 戦略:100 戦場指揮:100 甲冑組手:80 弓術:80

・特技

重装騎馬槍突撃(前提:騎馬術、槍術)

・主な寄生先

ガーベラ・クーランジュ(商人)

アイリス・ジルライン(第二王女)

ワルキューレ三千人(重装騎兵)

女騎士を出さないと死ぬ病

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