第十五話:宿主たち
なんと最終回
いい天気だ。
こういう日は、居室に引き籠って寄生先を増やすに限る。
誰一人止められない連鎖寄生が大陸中で進むのを感じる中、今日はたまたま、メインメンバーの業務が無かったので全員呼んでみた。寝ころんでいる俺の回りを三百六十度全方位に美女が並んでいる。
壮観だ。
ガーベラ、アイリス、マリー、ラケナリア、ベロニカ、アネモネ、リリィ、サルヴィア、マルベリー、タニヤ、シェンリュ。
俺がこの半年足らずで確保した宿主たち。彼女たちを揃えられたことに比べれば、世界の掌握なんて副菜に過ぎない。
「ガーベラ」
「はいっ!」
大商人ガーベラが、俺の呼び出しに応じて一歩前に出る。
完全に寄生糸が根を張った状態特有の、蕩け切って上気した表情。呼びつけられた時の作法として、ガーベラもその他の娘も、がに股中腰を前に突き出し、スカートの裾を全開まで持ち上げて待機している。
俺は無遠慮にぐにぐにとガーベラの凹凸を味わいながら、褒めてやる。
「最初にガーベラに寄生出来て本当によかったよ。何でも持っていたし知識も最高」
「あっ、あっ、ありがとうごじゃいます!」
「普通のお姉さんだったら気が引けたけれど、ガーベラみたいなクソうざ大家がノコノコやって来てくれて本当によかった。一気に良心の呵責をすっ飛ばせたよ」
「良かった! クソうざバカメスで本当によかったあ!」
「お礼に俺好みの超従順バカメスに作り変えてあげたから、感謝してね」
「ありがとうございます!」
ガーベラ・クーランジュ。
ジルライン王国出身の大商人として、大陸の東西南北を結ぶ長大な交易路を確立する。陸海を最適化した交易路は、ありとあらゆる富をジルライン王国に流し込むことに成功した。この交易路は後世、『糸の道』と呼ばれることになる。通説では東から西へと運ばれる上質な絹の糸が由来とされているが、西から東へ絹よりもずっと多く糸を運んだということは、全く知られていない。
「次、アイリス」
「はいっ!」
「アイリスもいい女だなあ。強くて若くて賢くて、血筋も最高。これからも沢山俺にその血筋を提供してね。脳だけじゃなく胎にも寄生させてくれ」
「畏まりました! 誰よりも強くて、あなたにだけはザコに成り下がる最適女を目指して頑張ります!」
「よろしい」
アイリス・ジルライン。
ジルライン王国第二王女は、外征と渉外にその才覚をいかんなく発揮。大陸全土にジルライン王国の覇を唱える。また国母としても活躍目覚ましく、公だけでも十人、非公式にはその十倍とも百倍とも言われる王子・王女を産む。アイリスの母体には宿主強化が最優先で施され、二、三カ月に一度の出産というハイペースと、数百年たっても衰えない若さが提供され続けた。公式の王子たちは後に、それぞれ担当する十大陸を制覇。ジルライン王国の世界征服に大きく貢献する。
「マリー、ラケナリア」
「「はひ!」」
「二人のおかげで内政もばっちりだよ~。これからも王国の善政と、植民地の搾取をよろしくね」
「「お任せください!」」
マリー・ジルライン。
ジルライン王国第一王女は、妹と対照的に内政面で活躍。彼女の統治により、王国内に不穏分子が起きることはありえず、妹アイリスが後顧の憂いなく各地を征服していく助けになった。災害時などは巡幸による各地の慰撫を熱心に行い、優しく手を振る彼女の下に、ジルライン王国は一丸となって発展していった。馬車の中や寝室では手と同じくらい熱心に腰を振り、アイリスと同じペースで王族を増やし続けた。
ラケナリア・ジルライン。
第一王女と役割が完全に被ったジルライン王妃は、両王女のバックアップとして生かされ続ける。時折、若い主要宿主に飽きたククルトが、熟れたラケナリアを呼び出す以外特筆すべき活躍は無い。
「次はベロニカ」
「はい! 田舎者の私を呼んでいただき、ありがとうございます!」
「深窓の令嬢ぶったベロニカが、今じゃ一番ここに通い詰めているなあ。フィンルドは遠いから大変だろうに」
「いえ、ククルト様は私の初恋相手ですから、距離は全く問題ではありませんっ!」
「良い通い妻だ。これからも続けなさい」
ベロニカ・フィンルド。
シォンウ国との大戦中、南部局地戦で奇襲を受けた元婚約者と死別。その後は彼との愛を代えがたいものとし、操を守り生涯独身を貫いた、と伝わる。公務ではフィンルド製の冶金術を発展させる傍ら、プライベートで熱心に王都を訪れており、元婚約者の墓参りを欠かさない貞淑な女性だとの証言も多い。
「他の属国や植民地の皆も、全部差し出してくれてありがとうね。アネモネ、リリィ、サルヴィア」
「はい! ドワーフはククルト様の永遠の奴隷種族です!」
「はい! プジョン公国はククルト様の永遠の搾取対象です!」
「はい! 新月教はククルト様の永遠の殉教信徒です!」
「「「幸せです!」」」
「うーんこれこれ。やっぱり若くて高貴なメスガキの奴隷宣言は胸と股座に来るなあ」
アネモネ・イーミール。
ドワーフ種族の奴隷交易、農作物献上と冶金術向上で大きく貢献。頑丈で持久力もあるドワーフは、ジルライン王国とその周辺の西方諸国だけでなく、前述の征服した大陸すべてに輸出された。この時に行われた多角貿易によってジルライン王国への富の溜め込みに成功。後の産業革命の礎となる。
リリィ・プジョン
プジョン公国の君主として、変わらぬ忠誠をジルライン王国へと誓う。交易権、港の運営権をジルライン王国に割譲し、自国では塩と船作りに注力。後の大航海時代に用いられる大型船の開発を先駆ける。この船の試作品数十隻がジルライン王国に献上され、通商連合への大打撃に使われた。これを機に、中海の支配権は連合から王国へと移っていく。
サルヴィア・グレンヴィル
新月教の総指導者として信徒を常に誤った方向へと導く。教典は強引に改訂され、教えはジルライン王国に非常に有利なものに変更。聖地の移転や宝物の譲渡、教皇職選定方法の刷新も行われた。不思議なことに、史上最悪の大教皇への不満による暴動は起きることは無かった。彼女の振る舞うワインが実に芳醇であったこととの関連性は分かっていない。
「メスガキと言えば……おや、教授はまたお昼寝ですか」
「あー、うー」
「よしよし、今日もつま先からてっぺんまでたっぷり管理してあげるからね、マルベリー」
「うー、飴ぇ……」
「はいはい」
マルベリー・ウィスダム。
ジルライン王立魔法学校、根本魔法学研究室教授は突如行方不明となる。同時に同学の前途有望な研究者たちが大量に蒸発したことと関連付けられ、捜索は勧められたが迷宮入り。人類史上最高とも言われる優秀な脳みそと、欲望処理に使い勝手のいい小柄な体は実質的に分離され、どちらも都合よく使い続けられた。根本魔法学によって生み出されたクローン魔術は、マルベリーコピーの大量生産を可能にしたが、オリジナルの大演算装置には叶わず補助的に使用されるにとどまる。
「と、いう訳でどうも全世界の支配者ククルトです、タニヤ、シェンリュ。シォンウのお二人はまだ寄生が浅いけれど、すぐにこいつらと同じ媚び媚びメス穴に変えてあげるからね」
「くっ……」
「ククルト、いつか必ず、いつか必ず殺す……覚えていろ」
「ははっ、果たしてお前が覚えていられるのかな、シェンリュ」
「あぎっ! ……な、ぜだ……記憶がどんどん、消えていく……」
「別人格になるまで繰り返すぞ。そうして俺の都合のいい女になったら、故郷に帰してやる。故郷で無様晒して、シォンウの民の心を折るだけの便利アイテムにしてやるぞ」
「あ”ククルトすキ、ククルトさまソンけい、あ”、やめ、ククルトさま、さマ、あ”、嫌だ! いヤ、じゃナい。ククルトさま、く、く、ク、畜生……! 畜生……!」
タニヤ・ジェャルゥ。
シォンウ国の浸透部隊は解体され、ジルライン王国にて再編成される。本人は引退するが、その部隊の練兵に大きく貢献。寄生糸と合わせて各地の指導者を暗殺または寄生という任務を推進する。極めて高い浸透作戦の成功率は、後のジルライン王国の戦歴を四半分にしたとも評価される。
シェンリュ・シォンウ。
誇り高い元シォンウ女帝は、寄生後も約一カ月にわたって人格を明け渡すことが無かった。これは後の天文学的数の例を見ても飛び抜けて最長であるが、脳の大半を糸で埋め尽くされたことでシェンリュの誇りは陥落。首都に戻り、中腰状態で腰を振りながらシォンウ国奴隷化宣言を行う。これは民衆の圧倒的多数で承認され、大半は全世界での農奴に、一部の女性はジルラインの王宮の一室に派遣される。農耕のみを許されたシォンウ国では、かつての騎馬民族の技術が完全に断絶した。
「やっぱり足の裏を乗せるのはシェンリュが一番だなあ。アイリスが二番」
「ちく、しょう……ククルトスキ、ククルトスキ、ククルトスキ、あ”あ”あ”……!」
「今日も世界の寄生と運営をがんばるぞー」
ククルト・パラシーノ。
大量の宿主を確保したことで、神域級の魔力と無尽蔵の若さを獲得。疑似的な不老不死となり、遠い未来まで全世界に寄生し続ける。後に自らの子孫たちが、宇宙植民の船に乗り銀河系へと糸と種を広げたことに満足し、眠りにつく。歪な世界の人類は、星々の先まで繁栄を広げた今も、この男の楔から抜け出せていない。
完結です!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今作では成り上がり感ドバドバな話を書こうと思いました。
というのも前作の登り具合が、話数増えるごとにちょっとイマイチ停滞感があったので、
ガツンとノー挫折で頂点まで行く話を書きたかったのです。
が、登り角度が急すぎてあっという間に駆け上がってしまいました。
それに主人公が幾ら何でも悪い奴過ぎるかなという反省もあります。
次はもう少し人畜無害な人々の話を書きたいです。
新作は未定ですが、何か感想いただけたら励みや参考になります。
よろしくお願いします。