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007:お昼の時間です

この初心者講習は、冒協的には多くの冒険者に受けてもらいたい行事である。

なので、ささやかな「おまけ」が用意されていたりする。

例えば、昼食の無料券もその1つであった。


そんな理由もあって、冒協の向かいにある食堂は冒険者で溢れていた。


「今日、人多くね?」「あれだ、初心者講習。」「あー、なるほど」

「混んでるな…別の店で食うか…」「おばちゃーん、俺の焼肉ランチまだ?」


俺も例に漏れず、無料券を使ってランチを購入し、半券を持って席で待っている。

それにしても、合席上等のものすごい混み具合だというのに、俺の周囲だけ人がいないんだが…。


「ここ、空いているか?」


話しかけてきたのは、エルフの戦士だった。


読んだ本によると、現在、人間は魔族と戦争状態にあるが、魔族であるにも関わらず魔族領から独立し、人間と友好関係を築いている種族には、種族名が付けられているようだ。

エルフは元は蜂人と呼ばれる魔族で、縄張り意識が強く、下手に縄張りに踏み込もうものなら、弓や槍でチクチク攻撃してくるとか。

男性は少なく、外に出るのは殆どが女性だという話だが、声や外見では判断が付かないらしい。

実際、体格といい、声といい、中性的なのでどちらとも判別がつかないが、別に気にする事でもないか、と思い直す。


「ああ。3つとも空いている。あ、これは別に席を確保しているとかじゃないんだ。

気にしないで座ってくれ。」


誰も使っていない席が4人席しか無かった為、そこに座ったのだが、そこから合席ラッシュが起こり、俺のいる席だけ取り残されていた。

俺のデカイ武器置いてある、というのも原因の1つだ。

スペースを取るので、テーブルに立てかけようとしたのだが、重すぎてテーブルが動いてしまったのだ。

食事中まで武器を担いでいるのも嫌だし、何より目立つ。

仕方なく床に寝かせているのだが、これがものすごい場所を取って邪魔なのだ。


「そうか。では遠慮なく。ところでイレギオ君と言ったかな。

君はこの辺の地理には詳しいか?」


和やかに昼食を取りたいものだが、話題を振られても俺の頭では話を弾ませることができない。

せっかく話かけてくれたのだから、できるだけ膨らませたいところだ。


「それが記憶を失っていて、俺がきちんと覚えているのがここ数日の記憶だけなんだ。

その辺を歩いたら迷子になる自信がある程度に何も知らないな。」


俺が少しばかりおどけて見せると、そのエルフはふむ、と腕を組んだ。


「ああ、そうだ。ヒトは話をする時に身分を明かすのだったか。

俺の名はラト。故郷を追い出され、生きていく為に冒険者になった。

親しい者もいなくてな。世間知らず同士、仲良くやろうじゃないか。」


ちょっと待てと。故郷を追い出されたって何だよ?それツッコんでいい系?

友人になれそうな感じだが、反応に困るよ?

俺も自己紹介をしてみたが、全員の前で紹介されたことに追加できる事などない。

強いて言うなら……。


「何故か四級の資格をもらえたけど、全く知識も経験も無いから、どうしていいか分からないんだ…」


という事ぐらいか。


そのタイミングでラトの食事が運ばれてきた。

パンケーキにフルーツジュースって朝食か!


そして、でんと置かれたシロップ……。

ラトはそれを迷い無く全て(・・)かけた。


「ええええええ?!」


深形の皿の中で、パンケーキが泳いで(・・・)いる。

驚く俺をよそに、パンケーキを細かく刻んでシロップに沈め、よく浸ったそれを口に運んだ。


「うん、なかなか美味いシロップだ。」


いや!それパンケーキだから!

確かにそれだけシロップまみれだったら、むしろパンケーキというよりシロップだけども!


で、ラトと俺は世間話を始めた。

とは言っても、俺から振れる話題がなく、俺に話を振っても答えられないので、ラトが割と一方的に話をしているだけだったが。


ちなみに、この食事はエルフには一般的なものらしく、よく見るとエルフ用メニューとして載っていた。

フルーツの糖蜜付け、甘露スープ、ジュレ芋の甘煮……、なるほど、これを見る限りだと、種族特性っぽいな。


で、ラトは男だった。

エルフの男性が珍しいと本に書いてあった話をすると、ラトは首を横に振った。


「確かに、エルフの里にいるのはほとんど女ばかりだが、こうして人里に降りてくるのはほとんどが男だ。」


どういう事か?と言うと、数十年に一度、選ばれた優秀な女性と全ての男は成人するとすぐにエルフの里を追い出されるのだという。

そして、優秀な女性が選んだ数人の(・・・)男性と共に新たな里を作り、選ばれなかった男性は故郷に戻れず、飢え死にするか、生きていく為に働かねばならないらしい。


と、いう事は……だ。


「ふ……あんな女、こちらからお断りだったさ。あれが欲しい、これが欲しいとわがままばかりで、全て叶えてやったと言うのに、最後は結局『タイプじゃない』とか……。

死ねばいいのに!全員まとめて死ねばいいのに!!!」


おい、キャラ変わってんぞ……。


「それにしても、焼肉ランチとやらは時間がかかるんだな?

いや…イレギオ君が特別メニューなのか?君の後に頼んだヒトの分はテーブルに運ばれているようだが……。」


え?

周囲を見回してみると、確かに後から来たはずの人も焼肉ランチを食べている。


「すみません、俺のランチはまだですか?」


おばちゃんに確認を取ってみると…


「焼肉ランチの18番?あんれ、順番を飛ばしちまったみたいだね。悪いね!すぐに持ってくるよ。」


カラン。


近くの焼肉ランチを食っていた人がナイフを落とした。

見覚えがあるのは、講習を一緒に受けていたからだ。

目が合った。



顔が青いが……どうしたんだ?


何故に俺を見る?


仲間達もこっちを見ている。

俺の話題でも出たのか?


何やら仲間達に慰められている様子だが……。

あまりジロジロ見るのもよろしくないだろう。


俺は視線を外し、ラトが一滴も残さんとばかりにシロップを掻き込むのを眺めるのだった。

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