004:今後の予定
木剣は新しいものが用意され、その後も試験(?)は続いた。
が、あまりの事に動揺し、腰が引けてしまった為、以降は人形にマトモな一撃を入れることはできなかった。
ペチペチと剣の腹で人形を叩き、時に空振りしてしまった。動かない人形を相手に、である。
俺、本当に『剛剣』か?と思ったが、荷車に載せられた人形の残骸を見て溜息をつく。
剣技など全く記憶には無いが、腕力的には異常である。
これが現実なのだろう。
で、次は魔法とやらである。
説明を受けたがピンと来ない。
魔力?というのも全くわからないし、どうやったら使えるのか見当も付かない。
魔法が使える職員さんに色々な説明を指示を受け、的人形に向かって詠唱とやらを唱えたが、何も起こりはしなかった。
俺は、空間魔法とやらで資産を亜空間に収納しているはず、らしい。
一生を遊んで暮らせるだけの功績を得ているらしく、それさえ使えれば生活に困る事はない。
なので、そこだけでも思い出せればと悩んだが、さっぱり思い出せず、新たに習得できる事も無かった。
結局、ランクを大きく落としたカードが発行される事になった。
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イレギオ
四級 の資格を有する。
冒険者協会は、この者の身分を保証します。
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「あれ?!名前違うんですけど?誰かの間違えて持って来てますよ!」
と思ったら違った。
カース=レジオンは顔こそ知れていないものの、冒険者の間では割と名が通っているらしく、もし記憶を失った俺が『剛剣』とやらだと知れれば、余計な火種になりかねないから、という配慮だった。
しかも、俺に記憶が無いし、20年も行方不明だった人物なので、この偽名も直ぐに馴染むだろうという判断だ。
で、俺は四級でありながら、4日後に開かれる初心者講習を受ける事になった。
「あの……俺、冒険者以外の職にも興味があるんですけど……。」
という話をしたが、商人をやるにも元手が、農業をやるにも土地がない。
その上、俺には伝手も無ければ知識も無い。結果、冒険者意外に食い扶持を稼ぐ手段が無い事が判明した。
優しく諭されると、なんか悪い事をしたような気分になるな。
で、俺が無一文なので、最初の収入が入るまでは冒険者協会の宿泊施設を使わせてもらう事になった。
宿泊施設は、もともと寮であったものだが、自宅から通勤する職員が多かった為に、その在り方を変えたものだそうで、さほど広くないにも関わらずキッチンが付いていたり、宿としてはどこかちぐはぐな施設であった。
ちなみに、これは(表立てることは無いが)俺が『剛剣』レギオンだからこその特別措置であり、普段どこの馬の骨ともわからない輩に対してもこんな待遇をしてくれるわけではないとの事だった。
職員さんは愛想よく挨拶してくれるし、定着しつつある「イレギオ」という名を覚えてくれたようだが、どこか「わかってますよ」という態度である。
俺自身はその『剛剣』本人であるという自覚が薄いので、心苦しい限りである。
で、心苦しいとか言いつつ、俺は協会の書物庫の本を読み漁ったり、、関係者以外立ち入り禁止の場所を覘いたりと、割と自由に過ごしていた。
もちろん、現在は関係者として許可証を発行してもらってるし、重要会議がある時は通達があるので、うろついたりしていない。
提供される食事も簡素だが質素ではなく、量もそこそこある。
で、俺が特別待遇をされていると痛感したのは、武器を渡された時である。
『大太刀 鋼龍腭』
覚えられる気がしないその厳つい武器は、どう見ても『間に合わせ』の品では無いように思う。
冒協は通称であり、正式には冒険者協会である。
読んで字のごとく冒険者が集う施設なのだが、こんなのを下げてる冒険者は見た事が無い。
料金は報酬から自動的に引かれるとの事だが、普通はメジャーで安価な武器を持たせるだろう。
『剣』という意味ではメジャーなのかもしれないが、どう見ても『ただの』剣ではない。
しかも銘が付くような……いかにも高額そうな武器を、「とりあえずこれを使ってください」と渡すわけがない。
一文無しで住居もない俺に、後払いで。
聞けば、行方不明になる前に俺が打たせた品だという。
採取系依頼でも受けてしばらく凌ごうと思ってた俺には、寝耳に水というか、青天の霹靂というか。
別に嫌な事をされたではないんだが、居心地が悪く感じたのは確かである。
俺が冒険者として、『剛剣』レギオンとして期待されているのだとしたら……。
いや、この武器を見る限り、実際そうなのだろう。…………気が重い。
だいたい、本当は冒険者なんぞやりたくないのである。
武器はロングソードというには長過ぎる、槍の長さと、斧の厚さを持つ大剣だった。
俺のろくに無い記憶に当てはまる刃物では、鉈が一番近い気がするが、鉈と言うにはでか過ぎる。
俺の腕力なら振るうこともできるが、重量も相当なものだ。
そして鞘という名のシンプルな革ケースに入っているが、デカイ。
これでは腰に下げることはできない。背中に括りつける?それも恥ずかしい。
何よりもこれ……
いざという時に抜けるのか???
薪割りよろしく的人形に叩きつけると、木と革でできているそれは両断された。
使い心地は斧…と言いたいところだが、その重さだけで刃が的人形に沈んでいくのだから、とんでもない凶器である。
監督している支部長は、目を閉じたまま腕を組んで、何やらウンウンと頷いていた。
いやアンタ、見えてないだろう。
俺は胸のもやもやを振り払うように、素振りを繰り返すのだった。