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003:腕試し

判明した事実に、俺は混乱していた。

カース=レジオンという人物…つまり俺は、20年ほど前に行方不明になっていたそうだ。

最低でも20歳…いや、その頃には冒険者として活躍していたというのだから、10歳以下という事はなかったはずだ。

15歳くらい…俺の体感の16歳だったとして、36歳くらいなのか…と推測した。

すると、もっと年齢としを取っている可能性が高い、という話を真顔でされた。


俺、おっさんなのか…。


冒協の施設はどこも広い。

基本的に一階が受付と待合室、購買、買取所が併設されており、購買の種類や大きさは支部の裁量に任されているようだ。

この施設で一番人気があるのはトイレだそうで……。

また、必ずしも治療のできるスタッフが1人はおり、何かあったら冒協に行けば事足りるようになっている、との事だ。ここ聖都中央支部では2人を必ず配備していて、心なしか薬品の香りが鼻を刺激するような気がする。

冒協の施設の裏手には訓練所があり、許可を取って料金を払えば貸切もできるし、普段は無料で冒険者に解放されていて、魔物モンスターの発生しない街中であるにも関わらず、武器を振るい、安全に訓練する事ができる。


二階は応接室や、会議室、支部長室など、一般の冒険者にはあまり馴染みのない部屋が並び、この聖都中央支部は三階に大会議室があるほど大きい。

別搭には宿泊施設もあるそうだ。


で、俺のいるここは地下訓練所。

強化した地盤と、錬金術を使った防壁と、魔石をつかった結界が施されたここは、緊急時には避難所として使われるとか。

で、地上の訓練所との違いは他人の目に触れない事(・・・・・・・・・・)だ。


俺は、シンプルな木剣の束の入った車輪付きのカゴを渡され、そこに佇んでいた。


「あのぅ……?」


さっきから職員さんが2名掛りでわっせ、わっせと人形を運んできている。

人型だとわかるだけで、飾り気も何もないその人形は、訓練用なのだろう。

控えの人形も合わせると5体。あ、6体目が運ばれてきた。

横には支部長と、補佐らしき女性、そして治療スタッフ。

どう考えても、職務の妨げをしてしまっている気がする。


「さて、待たせてしまってすまみませんね。

とりあえず、そこの人形に向かって『剣技』を使用してみてください。」


俺は俗に言う記憶喪失というやつだ。

普通、記憶を失うとなると、すべての記憶……言葉を失い、歩く事さえ困難になってしまうか、もしくはショッキングな事など記憶のほんの一部忘れて、他は覚えているといった症状になる事が多い。

俺は、ほとんどの記憶を失っていたが、言葉など生きていくうえで必要そうな事だけは覚えていた。

そうそう見られない事例らしい。


『剛剣』とかいう二つ名を持つらしいが、その記憶が無いのに『剣技』って……。


俺が困っていると、支部長が、


「記憶に無いのは分かっています。あくまで身体能力を見る為の措置です。

適当に突いたり切り上げたり…、何なら木剣を思い切り振り下ろしてくれるだけで構いません。」


と言うので、言うとおりにする事にした。

まず木剣を選ぶ…が、どれも同じような感じだ。

多少の違いがあるのかもしれないが、正直、違いが分からないし、実際にそう違いはないのだと思う。

適当に手を伸ばして、手近なものを引き抜いた。

突いたり切り上げたり…というのは何となく恥ずかしかったので、とりあえず正面から木剣を振り下ろしてみる事にした。


ただ真っ直ぐに進んで振り下ろせばいい。


「よし……。あ、なんかスイカ割りっていうのを思い出したんですけど。」


振り返って支部長に話しかけると、眉間に皺を寄せて的の人形を指差した。

早くやれ、と。

せっかく人が少し記憶を取り戻したというのに酷い反応である。


しかし、これを糸口に他の記憶も……という手ごたえは感じない。

残念ながら、断片的な映像の1つでしかないようだ。


さて、どうも握りがしっくりこない。

右手が先か、左手が先か。

右手が前の方が、まだマシな感触である。


で、振り上げて……。

思い切って叩く、と。


ズパァン!!


という音と共に人形が半分まで裂ける。


「……は?」


ミシボキッと音がして、人形を支えていた杭が折れ、倒れた。

そして、軽い音を立て、俺の足元に木剣の半分が転がった。


呆気に取られて握っていた木剣を見ると、半ばで折れている。


何これ?


困って振り返ると、支部長さんは眉間に皺を刻んだまま唸り、補佐の人が何やら書き止め、職員さんが拍手をしていた。

困惑しているのは俺だけ……いや、治療スタッフのお兄さんがあんぐりと口を開け、驚愕をそのまま顔に貼り付けていた。


「やはり対人にしなくて正解でしたね。次。」


再び同じ位置に用意され、残骸を片付けられる人形。

え?何?どうしてこうなった?ってかこれを延々とやるの?

呆然としている俺にお構い無しに、職員達はテキパキと準備をし、次の『剣技』とやらを待ち構えるのであった。

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